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17 町のレストラン


 夜が明けた。ミーンミアは先に起きていた。夕べは気を悪くさせるような質問をしてしまったが、きょうは普通に接してくれた。むしろ以前より心が打ち解けたような気がした。


 このあと弱小モンスターに三度も遭遇した。そのうち二体から魔石を得たので二人で分けた。さらにはその先で貴重な光石までも発見。ミーンミアに譲ろうとしたが、見つけたのはオレだからと、どうしても受けとってもらえなかった。



 ようやく『狭間の森』を出ることができた。



 しかしそこは小さな村。オレたちの住んでいる『ウルスロの町』ではなかった。その村のギルドで魔石を売り、二人で乗合馬車に乗った。


 半日ほどかかって馬車ターミナルに到着。ここは『ウルスロの町』だ。オレたちは帰ってきたのだ。


「お疲れ様でした、ロフェイ」


 ミーンミアは軽く頭をさげ、リムネの屋敷へと歩いていこうとする。


「せっかくだからさ、いっしょにメシでも食べていかないか?」

「えっ」


 驚いたようにオレの顔を見あげた。


「ごめん。ミーンミアはすぐ屋敷に帰らなくちゃならないよな」

「食事だけでしたら……。きょうは朝から何も食べていませんでしたし」



 ちょっぴり高級そうな店に入った。ミーンミアのお気に入りの店らしい。ここの肉料理が最高なのだとか。


 オレたちはテーブルについた。隣のテーブルに目つきの悪い男がいた。ときどきこっちを観察しているようだった。そして料理が運ばれてきたときのこと――。


「どうして店に獣人がいるんだ。獣人がいると臭くて食えねえぞ!」


 フォークとナイフを持つミーンミアの手が止まる。

 彼女は言い返すこともなく、その場で俯いてしまった。


 腹が立った。ミーンミアのどこが臭いというんだ? むしろちょっと……いい匂いがするじゃないか。まったくなんて野郎だ! オレたちは二人で静かに食事を楽しもうとしてたんだ。それをブチ壊しやがって。


 そいつを睨みながら椅子から立ちあがる。

 

「連れを侮辱しやがったな」

「うるせぇー、獣人奴隷は外で食わせろってんだ」

「奴隷じゃない!!!!!!!」


 声を荒げた。


「奴隷じゃなけりゃなんだ? 付き合ってるカノジョだとでも?」


 店内は笑いで包まれた。関係ない他の客たちまでも笑っているのだ。


「じゃあ、てめぇに訊くが、人間が獣人と恋仲になっちゃいけないのか」

「そ、それ誤解を与えます……」


 赤面するミーンミア。


「ガハハハハ。獣人を相手に、主従関係でなく恋愛関係? 人間の女に相手にされないもんだから、獣人のメスに手を出したわけか。お前みたいなヤツは、気持ちわりぃーんだよっ」


「てめぇにゃ、オレたちのことは関係ねえだろ!」


 ふと気がつくと、オレはその男を殴っていた。


 倒れた男は、仲間に支えられながら起きあがった。

 オレに向かって殴りかかってくる。

 そのコブシを払う細腕があった。


 ミーンミアだった。


 しかし男の腕に一筋の赤い線。

 さっきミーンミアが払った際に、彼女の爪が掠ったようだ。

 男の腕から血が小さく滲む。


 店内は騒ぎとなった。

 見ていた客たちが言う。


「奴隷が一般市民にケガを負わせた場合、かなりの重罪だったよな?」

「でも自己防衛や主人を守るためなら、無罪あるいは情状酌量になるぞ」

「うん、いまのは確かに奴隷が主人を守るためだったし」

「待て待て。さっきは奴隷ってことを否定してたじゃないか」


 男はオレたちの前でニヤリとしてみせた。


「訴えりゃ、身分なんてすぐに判明することだ」


 どうやらマズいことになったようだ。でもケガを負わせたのはワザとじゃない。たまたまだ。それにオレを庇おうとしただけだ。ミーンミアは何も悪くない。


 男が少量の血のついた腕を見せる。


「さあ、どうしてくれるんだ。タダで済むとは思うなよ」

「…………」


 言葉をどう返していいのか、わからなかった。

 男はミーンミアを舐め回すように眺めている。


「ほう。よく見ると、この獣人はなかなか……。腕の傷、体で償ってもらおうか。ああ、やっぱり駄目だ。獣人は臭くて堪んねえ。そうだ。金貨十枚で手を打ってやろうじゃねえか」


 金貨十枚とは、どれほどのものなのか。この人間界に来てから、まだ金貨というものを手にしたことはなかった。しかしカネで解決できるのなら、それがいいかもしれない。彼女が奴隷身分だとバレれば、かなりの重罪となるらしいからだ。


「いいだろう。オレが金貨十枚払う」

「どうしてですか。ロフェイは関係ありませんっ」


 オレはミーンミアを無視した。

 男が首肯する。


「決まりだな」

「だが、いますぐ払うのは無理だ」

「いいぜ。十日間くれてやる。それ以上は待てねえ」


 オレは冒険者カードを見せた。

 男はカードの番号を控えた。



 食事が終わり、会計となった。

 伝票を見ると半額となっていた。


「この金額は?」」

「半分、当店からのサービスとさせていただきます」


 なんと! そっか……。店員は一部始終見ていたんだ。あの男の言動を理不尽だと思ってくれてたんだ。そんな人間もちゃんといるんだな。


 オレとミーンミアは礼を言い、店を出ていく。


「またのご来店をお待ちいたします」

「また来ます」


 帰り道。途中まで二人でいっしょに歩いた。


「ロフェイ、金貨十枚のことですが……」

「問題ない。なんとかする」




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