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16 魔剣


 未だに『狭間の森』を二人で彷徨っている。人間の町への戻り方だが、さっきの獣人パーティに聞いておけば良かったか。いいや、心情的に無理だ。


 しかしいつの間にか、ミーンミアと自然な会話ができるようになっていた。少し(しゃく)な気もするが、結果的にあの獣人パーティのおかげかもしれない。


 長く続く会話の中で、彼女に聞き返した。


「なんだって? 奴隷には期間があるのか」

「はい、法律で定められています。期間は十年です」


 意外なことを聞いた。彼女はこんな話もしてくれた――。


 奴隷は必ず公認の奴隷商を通じて売買される。そして奴隷は十年が経つと、購入者(所有者)から法律にもとづく額の慰労金が渡される。


 多くの場合、慰労金を得た奴隷は、それを故郷に仕送りし、引き続き現在の所有者と再契約する。つまり多くの奴隷が『十年間の再契約』を希望する傾向にある。元奴隷が新たな就職先を探すのは困難だからだ。


 中には故郷のない奴隷もいる。その場合は当然、慰労金の仕送先がない。しかし奴隷は建前上、財産所有を認められていない。そのため奴隷として再契約を希望する場合、慰労金は所有者に返却することとなる。


 実際、希望しても再契約してもらえない奴隷は少なくない。もちろん慰労金をもとにして自立する者も偶にいる。


 ただし獣人族は普通の人間の奴隷と違い、慰労金の法的金額が極端に少ない。そのうえ獣人族が職に就くのは極めて難しいため、自立を決意する者はほんの僅かしかいない。仮に故郷へ帰ったとしても、働き口などないのが現状だ。結局、再契約しなかった場合には、ふたたび奴隷商のもとへ行かざるを得なくなる。



 そんな会話の途中、モンスターが現れた。


 巨大なインフィエルノ・スコーピオンだ。

 リムネやミーンミアたちとともに戦った覚えがある。

 オレが初めて魔法を使ったモンスターだった。


 ミニファイヤを発動。


 今回、一発で仕留めることができた。

 魔法の威力がさらにアップした証拠だ。


「ずるいです!!」


 ミーンミアが頬を膨らませている。


「どうしてだ」


「わたしだって活躍したかったです。ちょうど訓練におあつらえ向きのC級モンスターでした。それなのに、たった一発のミニファイヤで倒してしまうなんて、あんまりです」


「気が利かなくて悪かった。話の続きを早く聞きたかったんだ」

「だからって……」


 インフィエルノ・スコーピオンは魔石を落としてくれた。

 それをミーンミアに渡そうとした。


「短剣の代わりにはならないけど、これ譲るよ」

「受け取れません。短剣のことでしたら忘れてください」

「でも短剣はオレのせいで失ったんだし」

「わたしがリムネに謝れば済む話です。しつこいと怒りますよ?」


 どうしても受け取ろうとしてくれなかった。


 日が沈んできたので、火を焚いた。


 ミーンミアは過去の話をしてくれた。


 彼女は七歳のとき、奴隷商から購入された。しかし最初の一年間は、屋敷でみっちり訓練を受けた。八歳になってから、ようやくリムネにプレゼントされた。年齢の近い世話係として。友達として。妹として。あるいは生きた玩具として……だったかもしれない。


「てことは、奴隷契約が切れるのはいつなんだ?」

「来年です。わたしは十七歳になります」

「それで来年はどうするんだ?」



 おや?



 会話しながら魔石をいじっていたら、それが光ったのだ。

 さっきのC級モンスターのものだ。


「どうしました?」

「光った」

「もちろん知ってます。何やったんですか」

「魔石をいじってただけだ……」

「魔法の種になったんじゃないですか」


 ミーンミアが魔石を覗き込む。


「どうだ?」

「やはり魔法の種です」

「マジかよ」


「まったくどうなってるのでしょうか、ロフェイは。無意識に魔法の種に変えてしまうなんて。しかも神殿ではない場所で!!」


「知るか。でも、なんの魔法だろう。気になる……」

「C級モンスターの魔石でしたので、結構いいものかもしれません」

「そんじゃ習得しなきゃな。いまやってみっか」

「もったいないです。神殿へ行ってからにしてください」

「オレとしては早く結果が見たいんだ」


 たとえ失敗のリスクが高かったとしても。


 意識を集中する。

 魔法陣が浮き出てきた。

 やったぞ!


「また成功ですか……。もうワケがわかりません。ロフェイは無茶苦茶です」


 手の先には一筋の白い線。剣の形となった。


「これはなんの魔法だ? ミーンミア、知ってるか?」


 彼女は驚愕したように目を見開き、深く首肯した。


「はい、お屋敷に同じ魔法を持った召使いがいます。本来はA級モンスターの魔石からやっと得られるような魔法です。少なくとも、C級モンスターの魔石とは無縁とされているものです。こんなの奇跡としか言い様がありません」


「だからこれは、いったいなんなんだ」

「風の魔剣『エアーブレイド』です」


 ふうん。剣ねえ。


 さっそく握りしめる。素振りしてみた。ビュンっと音がした。今度は、大樹の幹に向かって振ってみる。真っ二つに切れることはなかったが、深い切り込みができていた。小木ならば簡単に切り倒せそうだ。


 うん、いいものが手に入った。もう一度、素振りする。


 手の力を緩めると、エアーブレイドは消えた。

 これはずいぶんと便利だ。

 

 ふたたび会話に戻る。


「話の途中だったな。ミーンミアは来年からどうするんだ」

「慰労金は返却して、そのままリムネのもとで働くつもりです」

「自由の身にはならないのか?」

「なるつもりはありません」


 獣人族の連中と会ったとき、その会話の中でわかった。本音では奴隷の身分のことをよく思っていない。それでも自由の身にはならないのか。


「本当に職を探そうともしないのか?」

「しません。リムネのおそばにいるつもりです」

「どうしてだ」

「ずっとわたしを可愛がってくれたリムネを裏切れません!」


 かなり強い口調だった。

 だがオレには理解できない。


「それって裏切ることなのか? 逆にリムネは喜んでくれるんじゃないか」

「…………」


 ミーンミアは口ごもった。

 オレは試しにこんな提案をした。


「本来、奴隷は財産を持てない。だけどリムネは、財布の中身を自由に使わせてくれているわけだろ? だったらさあ、魔石をたくさん集めて、いっぱい売って、たんまりと稼いだあとで、ミーンミア自身が別の奴隷を買ったらどうだ。んで、リムネの世話係のほとんどを押しつけるとか?」


「そんなマネしたくありません! そもそもお屋敷は厳しいところです。受け入れられるはずもありません」


 やはり本音の一端のようなところが見えてきた。


「そんなマネとはどんな意味だ? まるで買った奴隷に世話させるのが悪事だって言い方にも聞こえたのだが」


 もしそうならば、リムネを非難したことになる。


「…………」


 彼女はふたたび口ごもった。


 ミーンミアを追い込むつもりはなかった。

 もし自立したいと言ってくれれば、全力で手を貸すつもりだった。

 オレは馬鹿だ。


「すまなかった。オレの言ったことは忘れてくれないか」

「ロフェイは意地悪です」



 ミーンミアはリムネのことを、本音ではどう思っているのだろう。




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