6話 ドラゴンのザイアス
軽い戦闘シーンがあります。苦手な方はご遠慮ください。
――ざわざわ
「殿下。何か気になりませんか?」
森の入り口付近が騒がしいようだ。
心なしかリース達も騒いでいるように見える。
「確かに様子が変ですね。シャラ、何かあるといけないのでグランの側を離れないように。」
「はい、シエルおにいさま!」
グランジェは今この場で騒動が起こるのは非常にまずいと、冷や汗を流す。
それが人間の起こした騒動であれば尚更。
同刻 王宮では
「なに?シエルとシャラはまだ帰って来ないと?」
「はっ!メイドのマイラとサラサが申しております。更には騎士のグランジェ殿も同行したようですが未だに帰還していないとのことです。」
「グランジェが一緒なら滅多なことは起こらないと思うが…。今は密猟者がうろついているかもしれない。兵達を捜索に向かわせてくれ。」
「はっ。」
コンコン ガチャ
「失礼致します。陛下。どうかそのお役目わたくしにお任せ頂けますよう、お願い申し上げます。」
「おお、そなたか。では任せるぞ。」
「御意のままに。」
ラーシェイル達は騒ぎのあった場所に静かに向かい、危険がないか確認をする。
すると…
――ドーン
「ギャオオオオ!」
「押せ押せ!直ぐに力尽きるぞ!」
「流石に硬いな!」
小柄ではあるものの、そこにはドラゴンがおり、八人の人間と対峙していた。
そして、ドラゴンの後ろには沢山のリースや動物がいる。
ラーシェイル達の目に、その光景はどう見てもドラゴンが人間を襲っていると言うより、むしろ逆で人間がドラゴンに対して攻撃しているようにしか見えなかった。
どうやら奴らが最近噂の密猟者の様だ。
「グラン!早く戦いを止めないと!」
「しかし、相手は八人です!それにもしあのドラゴンに我々もあの者たちの仲間だと思われてしまったら…」
「大丈夫です。わかってくれます。」
「殿下、どうか無茶をしないでください!」
「お願いします。あのドラゴンを助けたいんです!」
「…わかりました。危険だと感じたら直ぐに逃げてください。いいですね?」
「ありがとうございます!シャラ、皆さんと一緒にここに隠れているんだよ?絶対出てきてはダメだからね!皆さん、シャラをお願いします。」
『わかったよ!』
「おにいさま!」
ドラゴンがボロボロになりながらも、自分より弱い存在を必死になって守り続けている。
「もうすぐで倒せるぞ!」
「ここは宝の山だな!ドラゴンはかなり高く売れるぜ!」
「お前達!なにをしている!」
「ああん?誰だテメェ?」
「ガキじゃねえか。怪我したくなかったらさっさと帰りな!今忙しいんだ!」
「待て、あの格好は騎士じゃねえか?」
「そうか?似たような格好してるが、相手はガキ一人だ。俺が相手するから、お前らはそっちを片付けちまえ!」
「ガキと思うのは勝手だが、見くびらないでもらおう。密猟は法で禁じられている。お前達は全員牢屋行き確実だ!」
「なんだと、生意気言いやがって!今まで捕まったことなんかないんだ、お前みたいな小僧に何ができる?」
お互いに剣を構えて隙を伺う。
―――決着は一瞬でついた。
もちろんグランジェの勝利だ。目にも止まらない速さで大の男を峰打ち一撃で沈めた。
恐らく男は何が起きたか分からないまま意識を失ったであろう。
すぐさま他の七人の方を向くと、グランジェは思わず目を見開き大声を発していた。
そこにはドラゴンと七人の男たちの間に立ち塞がり、小さな両手を広げ、ドラゴンを守ろうとするラーシェイルがいた。
「ドラゴンさん大丈夫ですか?すみません。絶対に助けますから、人間を嫌いにならないでください。」
『……大丈夫だよ。全ての人間が悪い訳じゃないって知っているから。君のことは精霊達から聞いているしね。』
「そうなんですか?私はラーシェイルと言います。あなたのお名前を教えて下さいませんか?」
『僕はザイアスだよ。』
「ザイアスさん…。良いお名前ですね。」
「おい、もしかして、この小僧ドラゴンの言葉がわかるのか?」
「ばかっ!そんなわけないだろう!」
「でっ、いけません!逃げて下さい!」
思わず殿下と叫びかけたが、身元がバレるわけにはいかなかったので、直前で理性が働いた。しかし、ラーシェイルは一歩も動かず逃げる様子もない為、グランジェは力の限り地面を蹴った。
ドラゴンは地に伏しており、もう立ち上がる力もないように見えた。
それを悲しそうに見たラーシェイルは正面を向き七人の男達に問う。
「何故ですか?」
「ああ?」
「何故こんな酷いことをするんですか?」
「何言ってんだこの坊ちゃんは。」
「金だよ!金!売れば高く値がつくからな!」
「そいつ身なりがいいな。どっかの金持ちにでも売りつけるか!」
「私のことはどうでもいいでしょう。その前に彼らに対して行ったことをちゃんと償ってください!」
「はははっ!笑わせるなよ!そいつらは俺達に狩られるために存在してんだからよ!」
――ピキッ
何かが切れる音がした。
ぼそっ「いいかげんにして下さい。」
「なんだって?聞こえねえぞ?」
「いいかげんにして下さいと言ったんです。」
「なんだと!大人をあまり舐めるなよ!」
「こちらも子供だからと舐めないで下さい。改心する気がないのならこちらも手加減はしません。」
ラーシェイルは決して声を張っている訳ではないが、身体がひかりだし、湧き上がる得体の知れないプレッシャーに男達が戸惑いを見せた。
「皆さん、力を貸してください!」
『任せて!こいつらは許せない!』
『みんな行くよ!』
リース達は人間の体を介して魔法を放つことができる。
もともと魔力の多いラーシェイルだからこそ一度に沢山のリース達の力を借りることができるのであって、普通の市民はほとんど魔力を持たない為に普段は魔工具を使ったり、契約したリースとしか魔法を使えない。
騎士達はそれなりに魔力を持っている為に自然界に存在するリース達を媒介にして魔法を放つ。
今周りにいるリースは水属性が多い。
ラーシェイルの体に自分達の魔力を注ぎ込みリース達の思考回路が一瞬全て繋がった。
『いっけー!!アクアトルネード!』
ラーシェイルがリースの魔力を一手に引き受けて更には自分の魔力を上乗せして、魔法を放つ。
「ぐわっ!」
一人一人と強力な魔法で仲間が倒され、更に男達の後方からグランジェが峰打ちで攻めてくるこの光景に、敵わないと男が一人逃げ出した。
「まずい!あの方角にはシャラが!」
逃げ出した男の行く先にはミシャーラがいる
。このまま彼を逃がせばミシャーラが危険だと思い、ラーシェイルはなりふり構っていられなかった。
『力を貸してやる。』
姿が見えないがどこから声が聞こえた。
すると体が金色に輝き力が溢れだした。
ラーシェイルの手から光のエネルギーが集まり、男に向けて放つ。
『シャイニングバースト!!』
―――ゴゴオォォォ
「なんだ――――!!」
後ろを振り返った男は自分の目を疑うことしかできず、この後起こることに恐怖した。
ものすごい光のエネルギーが男をめがけて放たれ、しばらく光と突風と巻き上げられた土埃で何も見えなかった。
ようやく辺りが見渡せるようになってくると、ラーシェイルとグランジェがミシャーラを探して木の影に近寄る。
どうやら光のエネルギーはあの後風の抵抗を受け、徐々に上向きに進路をかえて、上空で飛散したようだ。
かなりの魔力を消費したようで、ラーシェイルは座り込んでしまった。
グランジェがラーシェイルを抱えてミシャーラの元へ駆けつける。
「動くな!」
「いやー!シエルおにいさまー!グラン!」
「シャラ!」
「貴様!その方を離せ!」
男は先程の攻撃を間一髪かわしていたようで、ミシャーラを盾に片手には剣を持っている。
「こいつも身なりがいいな。こいつを傷つけたくなければ俺に近づくなよ!」
「おにいさま!こわいよ!」
「静かにしろよ。お嬢ちゃん。さもないとチクッとするぜ?」
「ひっ!」
「ミシャーラはまだ小さい子供なんですよ!その子には手を出さないで下さい!」
ひそっ「殿下、あまり動かないで下さい!さっきの魔法攻撃で体力がかなり落ちています。」
「ですが、シャラが危険な目にあっているんですよ!そんなこと言ってられません!」
ひそっ「では自分が王女殿下をお助け致します。殿下はどうか安静に。」
「そんなグランだけに任せるわけには。」
ひそっ「私は護衛ですよ?無事に王女殿下をお助けするのは私の役目です。」
「…では、グランにお任せします。どうかシャラを助けてください。」
「御意のままに。我が君。」
「話しは終わったか?結論を聞こうか。」
「その手を離せ卑怯者。」
「ちっ。生意気いいやがって。こいつがどうなってもいいんだな?」
「その方は勿論お助けする。そして貴様は牢屋行き、それは変わらぬ事実だ。」
「ぬかせ!この小娘がいる限りお前達は何も手出しできねぇ。」
「ぐっ。」
男の言うことは事実で、実際グランジェは解決策を必死に考えている。
相手は刃物を持っているし、囚われているのは我が国の唯一の姫で、しかもまだ2歳の女の子である。
少しも傷をつけるわけにはいかない。
危険に晒しただけでも大失態なのにこれ以上怖い思いはして欲しくない。
考えあぐねていると、男の後ろの木陰がキラッと光った。
はっと、すぐさま気づいたグランジェは刀を抜き低く構える。
「はっ、結局は力づくか?いいぜ、相手になってやる!」
――ヒュン
「ぐおぉっ!」
男の肩を光の矢が貫いて、思わず男は膝をつく。
その隙にグランジェは低い体勢のまま足に溜めていた魔力を一気に解放する。
シュバ
男の腕から一瞬でミシャーラを奪還する。
「大丈夫ですか?!王女殿下!」
「だいじょうぶ!ありがとうグラン!」
「仲間がいたのか、それに王女殿下だと?てことはあの小僧は王子か!一度立て直してあの方に報告しねえと!」
「父上!ありがとうございます。」
グランジェが声をかけた先の木陰から出てきたのはグランジェの父リュートであった。
「逃げるが勝ちだぜ!」
「あっ!逃がさない!父上、王女殿下をお願いします!」
「待てグランジェ!殿下の事が気がかりだ。あの者はアイラムに任せておけ。」
「兄上も来てくださったのですね!はっ!ラーシェイル殿下!」
グランジェはラーシェイルの元に急いで駆けつけた。
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