4話 グランジェと共に
「ラーシェイル殿下。ミシャーラ王女殿下。おはようございます。」
その人物は二人の前で立ち止まり、丁寧に一礼をした。
「おはようございます。グラン。」
「グラン、おはようございます!」
グランは第三王子であるラーシェイルの専属騎士で、城の警備をしている騎士達とは一風変わった格好をしている。
なんでも着ている服は、永く続くご先祖様の生まれ故郷の服を基調とし、更に動きやすく改良された物だとか。
腰に下げている剣はファラリス王国の一般兵士が使っている剣ではなく、こちらもまたご先祖様の故郷で使用されていた刀と言う、細く、長い刀身をしていて自分の名をモチーフにした『蘭』の花が柄に彫刻されている。
グランジェのご先祖様は、大昔にこのファラリス王国に流れ着き、戦争に巻き込まれるも、王国の騎士達と共に敵を倒し、勝利に導いたことを評価され、爵位を得たことでこの地に身を置くことを決めたのだとか。
そのご先祖様の血を引くグランジェもまた分家ではあるものの、伯爵位を賜っており、『グランジェ コーガ クラフト伯爵』の名は、若干14歳であるにも関わらず、長らく遺恨の残る敵国のジャスティル帝国にも知られている。
このファラリス王国には、魔力を貯めて更に魔法を行使できる魔工具を作る魔工師や、魔法師、騎士、更にはエリートと呼ばれ、魔法と剣術どちらも一流と認められなけばなれない魔法騎士などを養成する学院があり、無事に卒業すると兵士や騎士に志願できる。
グランジェはそのエリートと呼ばれる魔法騎士科を主席で卒業した。
グランジェの家系は代々光属性のリースとの相性が良く、魔法の中でも光魔法を得意としており、剣の修行も決して手を抜かず、懸命に励みようやく数ヶ月前にラーシェイルの専属騎士になれたのだ。
「ラーシェイル殿下、本日はどちらに参りますか?」
「今日は、最近見つけた秘密の場所に行こうと思います。」
「すごいとこみつけたの!グランにもみせてあげる!」
「凄い所ですか?それは楽しみですね。」
「ぜーったい、みんなにはないしょだからね!」
「はい、ぜーったい誰にも言いません。」
「やくそくよ!じゃあしゅっぱーつ!」
さながら探検隊の気分であるかの様。
グランジェは最近このハイテンションなやり取りにも少し慣れてきたところだ。
初めの頃は、今までにない経験だったのでそれはそれは戸惑っていたグランジェであった。
ミシャーラを先頭に、ラーシェイルとグランジェが続き、トライアングルを描く。
とても好奇心が旺盛でお転婆なミシャーラは怖い物知らずと言うか何と言うか…
そうこうしている内に兵士達の姿がまばらになって来た。
城の裏庭の奥まで来てしまったようだ。
あまり、護衛の居ない場所には行かない様に父に言われていたグランジェはどこまで行くのか、ミシャーラ王女に尋ねようかと思ったとき、不意にミシャーラは身を屈めて、口に人差し指を当てて、「しー」と小声でジェスチャーをし、反対の手で手招きをして、草をかき分け進んで行く。
ラーシェイルも身を屈め、戸惑う事なくミシャーラの後に続く。
グランジェは父の言いつけを破る事になるので一瞬迷うが、専属騎士である自分がラーシェイルの側を離れる訳にはいかないので、慌てて身失わない内に後を追う。
因みにミシャーラの専属騎士はまだ決まっておらず、グランジェが二人を護衛する事は必然である…
草が生い茂る中をしばらくかき分けて行くと、一瞬眩い光が目を眩まし、視界が開けてくる。
―――キラキラ
そこにはまるで別の世界に来たかの様な空間が広がっており、木々は青々と茂り、花は咲き乱れ、広大な湖は美しい水面が太陽に反射し煌びやかで、様々な生き物達が暮らしていた。
「わぁ、本当に素晴らしいですね!」
「しーっ!グラン、こえがおおきいよ!」
「もっ申し訳ありません。」
「ここは、ある日お友達のリース達に誘われてついて行った時に見つけた場所なんです。」
「おはなとか、かわいいどうぶつがいっぱいいるからシャラだーいすき!」
「そうだったのですね。こんな素晴らしい場所に連れてきて頂きありがとうございます!」
14歳本来の無邪気さが垣間見えたが、それもほんの僅かで、また直ぐに護衛としての真剣な表情に戻る。
「グランはもう少し気を楽にしても良いと思いますよ?」
「いいえ。今殿下と王女殿下の護衛としているこの時が何よりの誉れです。」
「そっ、そうですか。」
グランジェは王族の護衛と言う名誉を得ることはこの上ない幸せであると考えており、その熱意はラーシェイルを戸惑わせるには十分であった。




