15話 聖祭の儀
5日後
正式に国王陛下から第一王女の専属騎士として勅命を受た初日の朝
ジークは久々に誰かに使える責任感や高揚感を胸に秘めて柄にもなく緊張していた。
いつでも駆けつけることができるように専属騎士の部屋は、部屋と部屋を行き来できるような続き扉になっている。
しかし、あくまでも緊急用であり、普段は正面の扉から入る。
初日の今日、よしっと気合いを入れ、自分の部屋を出ようとした時、急に続き扉が勢いよく開いた。
バンッ ガンッ
「ジーク!おはよう!」
何か良くない音が聞こえた気がした。
「あれ?ジークいないの?」
「こ、ここです。」
「ん?」
「王女殿下。後ろです。」
勢いよく開けた扉と壁の間に挟まっており額は少し赤くなっていた。
「元気なのはよろしいですが、もうすこしお淑やかに願います。それに、この扉は緊急用なので普段はあちらの扉からお入り下さい。」
「ご、ごめんなさい。」
表情はあまり変わらないが、なんとなくいつもより顔が怖い。
元々怖い顔なのだが…
珍しく反省したミシャーラであった。
専属騎士に与えられた部屋は決して狭くはないが王族である主人を自分の暮らす部屋に長居させるわけにはいかず、ミシャーラの部屋に誘導する。
そこには昨日顔合わせをいていたメイドのサラサが申し訳無さそうにジークに対してペコリと頭を下げる。
「では改めて。ミシャーラ王女殿下。本日から貴方の専属騎士をさせて頂きますジークフリート ストリングスです。よろしくお願い申し上げる。」
「いや!」
「えっ⁈」
片膝をつき剣を両手で掲げて、ファラリス王国の正式な王族に対する騎士の誓いを宣言する。同僚となったグランに教えてもらったが、何か間違っていたのだろうか?
「なぜですか?」
「そのはなしかたと、よびかたがいや!」
「しかし、主人に対してこの言葉遣いはごく自然なことかと。」
「シャラはむずかしいことはわからない!それにこのまえはシャラってよんでくれた!」
「…うっ。しかしそれは。」
「おねがいジーク!もうすこしだけでいいから!」
ジークが困ってサラサの方をチラッと見ると。
「ジーク殿。少しくらいなら大丈夫だと思いますよ。」
「うむ……。では姫様と呼んでもいいですか?」
「うん!そのほうがいい!これからずっといっしょだよ?」
「はい。ずっといっしょです。」
ミシャーラがジークに抱きつきほっぺにチューを送る。
サラサによるとその時のジークの顔は無表情ながらもとても嬉しそうだったとか。
初日のジークはサラサに教えてもらいながらミシャーラの普段の様子を見守っていた。
お茶をしていたと思ったら急に立ち上がって、外の鳥たちと戯れたり、絵本を読んでいると思ったら寝ていたり、さらには廊下を歩いていると急に走り出し少し先にいたラーシェイルに飛びついていたり。
とにかくあっという間に一日が終わろうとしていた。
見ていて飽きなかったが慌しくも充実した一日だった。
「そうだ!ジーク!もうすぐまんげつね!」
「そうですね。」
「まんげつになったら、だいじなぎしきがあるの!」
「儀式ですか?」
「うん!『せいさいのぎ』だって!シエルおにいさまにおしえてもらったの!」
ジークは国王陛下より3日後に行われる聖祭の儀について聞かされていたが、サラサにはまず聞き上手になってあげて下さいとのことなので、知らないふりをする。
「そうですか。では教えてくれますか?」
「まかせて!うーんとね。シャラはおぼえてないけど、いちねんにいっかいするんだって!かんしゃするひなんだよ!」
「……なるほど。よく分かりました。」
大人びていて忘れていたがまだ2歳だ。説明などできるわけがない。
国王によると聖祭の儀とは一年に一度、新年を迎えて最初の満月の日の夜にリース達に感謝を込めて祈りを捧げる日なんだとか。
儀式に向かうのは王族とその護衛達だけだが、国中がお祭り気分で催し物が開かれることもあるのだとか。
とにかく国をあげての一大イベントなのだ。
ミシャーラは去年も参加しているが、まだ赤ん坊だった為に覚えているはずがなかった。
3日後
聖祭の儀当日
午前中はラーシェイルとミシャーラ、グランジェ、ジークの四人で街の散策をしていいとのことなので、人が集まっている賑やかな場所に行ってみると催し物が沢山あり、街中が活気にあふれていた。
もちろん顔や髪は隠している。
「すごーい!」
「シャラ!離れないでね!」
「はーい!」
よく見ると街の至る所にリース達がいる。
聖祭の儀当日に集まってきたのだろう。
いつもより数が多い。
こんなに賑やかなのはいつぶりだろう…
物思いにふけっているとジークはふと我に帰る。
目を離すとミシャーラはすぐにいなくなるので、グランジェとジークは苦労するだろう。
しかしその前に苦労しているのはラーシェイルである。
早くも出店で売られているタルト・タタンをねだられている。
帰って来た時ラーシェイルの両手にはいっぱいにお土産やお菓子を抱えており、グランジェとジークは優しく見守っていたのだと王妃は語る。
儀式の時間が近づき衣装に着替え、主人の晴れ姿を完璧に仕上げる為に執事やメイド達が慌ただしく準備を滞りなく済ませて、リース達が集まる聖湖に向かう。
「よし、では聖祭の儀に向かう!」
馬に跨った国王の一声で王族を乗せた馬車と護衛部隊が前進を始める。
道中、ジークとグランジェは馬に跨り、馬車の左右後方に控えている。
「今日は綺麗な満月だな。」
「ジークは初めてですね。聖祭の儀のこの日は必ず何故か毎年晴天で、満月が一年の中で最も美しく見える日なんだとか。」
ジークが隣にいるグランジェに理由を聞いてみると、理由は分からないのだと言う。
ただ決まったように晴天なのは、沢山のリース達の聖なる魔力が満ちて、大気を浄化しているのではないかと言われている。
祈りが行われるのは、聖湖が見渡せる丘の上で、各自準備を完了させ、護衛達が後ろに控えると、数えきれないほどの光の粒を纏ったリース達がどこからか現れて、祈りを始めようとしている王族達の周りに祝福するかのように集まっている。
「我らはそなたらと共に歩み、共に生き、共に力を合わせこの国と、全ての生命を守りきることをここに誓う。この出会いに感謝を忘れずこれからも永遠に友好が続くことを願い、我らの誓いの印をここに。」
国王のその言葉を合図に六人の王族達が一斉に自分の魔力を込めた聖魔剣を天に向かって掲げた。
その光景は今までみた何よりも美しく、満月と、聖魔剣とリースの放つ光の粒が聖湖の水面に反射し、更には王族達の綺麗な金色や白銀の髪に乱反射し、とても儚く幻想的に見え、護衛の者達が任務を忘れて目に焼き付けている者が多数いたのだとか。




