10話 街へ
この日ミシャーラは怒っていた。
プンプンと言う効果音が似合う程の可愛いらしいものだったが。
それにしてもこんなに機嫌が悪いのは珍しい。ラーシェイルが理由を聞いても
「シエルおにいさまにはおしえない!」
としか言わず、ラーシェイルは考えを巡らせていた。
メイドのサラサなら何か知っているかも知れない。そう思い、ミシャーラがいない間にサラサの元に向かうが
「ラーシェイル殿下。姫様がなぜ怒ってらっしゃるか、もう少しだけお考えください。」
とやんわりと追い返された。
怒っている原因はわかっていたが、今誤っても火に油を注ぐような気がしたので昼食の後にもう一度チャレンジしようと決めた。
いつもより静かな昼食を済ませる。
王と王妃は珍しい兄妹喧嘩に驚きつつも我が子たち自身が解決するまで見守ってみることにした様だ。
喧嘩をすることは悪いことばかりではない。
いつもは仲睦まじい王と王妃もお互いに勘違いをすることや意見が合わなくて言い合いになることもあるのだから。
――コンコン
「シャラ。開けていいかな。私と少しお話ししよう。」
数秒の沈黙後
―――カチャ
「どうぞ。シエルおにいさま。」
「ありがとうシャラ。」
ミシャーラをベッドに座らせて、ラーシェイルは両膝をつき、ミシャーラの手を握る。
「シャラ、この前は一緒にあの場所に連れて行かなくてごめんね。まだ絶対に安全だと言い切れなかったから、また危険な目に合わせたくなかったから。本当にごめんね。」
「ううん。シャラ、シエルおにいさまのきもちわかってたよ。シャラのほうこそおこってごめんなさい。」
ポタポタ
ミシャーラの目から涙が溢れた。
「私の方こそごめんね。シャラの気持ちを考えてなかった。」
「シャラもわがままいってごめんなさい。シエルおにいさまがしんぱいで、こわかったの。」
「そうか。ありがとうシャラ。」
ラーシェイルの胸に飛び込む。
ドアを静かに開ける人物が二人。
顔を見合わすとお互いに微笑み、そっとドアを閉め、誰にも見られることなく、仕事に戻る親バカがいたとかいないとか。
2日後
お詫びとして街にお出かけしに行こうとラーシェイルが言うのでミシャーラはとてもご機嫌だ。
馬車に乗り、王都リースフィルンの街に降り立った、ラーシェイルとミシャーラ。
車中、ミシャーラは何気なく目が合った一人の男に何かはわからないが、心が震えた気がして、運命のようなものを予感した。
「どうかした?シャラ。」
「ううん。なんでもないよ?」
もう一度見たとき彼は人混みに紛れてしまって、姿は見えなくなってしまった。
第三王子ラーシェイルの顔を知っている市民は少なくないが、あまり目立つと混乱するので服は市民に紛れる服に着替えている。
もちろんミシャーラもだ。
因みに王族の証であるラーシェイルの白銀の髪はハットを深く被り隠している。
警備は私服姿のグランジェとその部下4名の計5名でラーシェイルたちを中心に輪になる様に護衛しつつ街に紛れている。
剣は目立つので、短剣や仕込み槍などを持ち歩いている。
「まずはどこに行きたい?」
「うーんとね。あのアイス食べたい!」
「ふふっ。いいよ。」
日が暮れてきた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
ラーシェイルの手には紙袋が三つ握られている。
彼女に振り回されている彼氏のように見えるが、当の本人は疲れを知らない顔でミシャーラとのお出かけを楽しんでいる。
途中、何件かの行きつけのお店に寄り、ラーシェイルは挨拶をしているが、第三王子と第一王女が街中に来ていることは市民たちには知られていない様だ。
そろそろ時間が迫っているが護衛の5人は最後まで気が抜けない。
「おっと、失礼。」
「こちらこそ、失礼しました。」
夕飯の買い出しや仕事終わりの人などで、人出が増えてくる中、護衛の一人が通行人にぶつかる。




