9話 愛を求めて
グオオォォォ!
ミノタウロスはリースだけでなく、近くにいたアルミラージやコウモリ達を追いかけ、時に勢い余って突進した木が薙ぎ倒され、洞穴にもぶつかり地響きを起こしていた。
だが何故かミノタウロスの目から涙が溢れおちていた。
「リース達が助けを求めています!」
「木や花が枯れているのはこれが原因か。」
「何故ミノタウロスがあんなにも暴走しているのでしょう?本来あんなに激怒することはないはずなのに…。殿下、ミノタウロスは何か言っていますか?」
グオォォォ
「とてもさみしいと言っています。どうやら暴走しているわけではないみたいですね。」
「とにかくリース達の安全を確保しましょう。あの様に暴れていたら話し合いもできそうにありませんし。」
「私がミノタウロスさんに声をかけてみましょう。アイラムはリース達の保護をお願いします。グランはしばらく私の側で見ていて下さい。」
「「御意。」」
ミノタウロスはあの後ラーシェイルが声をかけると意外にも直ぐに落ち着きを取り戻し、今三人と一体は荒れ果てた大地に腰を下ろして話しをしている。
話しているのは言葉が通じるラーシェイルとミノタウロスだけなのだが…。
ミノタウロスは何故か座る時に三人から、わざと距離をとった。
近づこうとするラーシェイルに対して両手を突き出し、首を振る。
何か理由があると察した三人はそのままの距離で話すことにしたのだ。
「ミノタウロスさん。何故リース達を追いかけていたのですか?」
『オレはさみしくて、みんなとお話したかっただけなんだ。だけど、みんなオレのこと怖いみたいで。話しを聞いてくれなかったんだ。』
「そうだったんですね。さみしいと言っていましたが、他のミノタウロスさんの仲間はいないんですか?」
『オレは生まれた時にすぐ親に捨てられたから、仲間なんていなかったんだ。』
「それは辛かったですね。良かったら私とお話しませんか?何か力になれるかもしれませんし。」
『そういえば君は人間なのにオレの言葉がわかるのか?』
「はい。私は様々な生き物と会話ができるんですよ。生まれつきみたいなものです。」
『オレは生まれてから必死に生きてきたからあんまり今までのことは覚えていないんだ。覚えているのは、どこに行ってもみんなオレから離れて行くことだけさ。今まで色々な場所に行ってみたけど、どこも似たようなもので…。そういえばオレ以外のミノタウロスをほとんど見かけたことがないな。』
「ミノタウロスさんは個体数が少ない訳ではないと思いますが、遭遇率が少ないのは気になりますね。」
『確かにそうだな。』
「他に気になることや気づいたことはないですか?」
『そうだな…。普通のミノタウロスは地属性みたいだけど、オレはみんなと違う闇属性らしくて、オレの周りにいた仲間を不幸にしたり、近くにある花や木が枯れるんだ。』
「うーん。闇属性がそんなことを引き起こすものだとは聞いたことはありませんね。もしかしたら自然界に影響が出るほど魔力が強いのかもしれません。」
グランジェとアイラムはなんとなくでしか話しを理解していないが、後でラーシェイルが教えてくれるだろう。
今は静かに見守るしか無い。
「ミノタウロスさん…と呼ぶのはどうかと思うので、あなたのお名前を教えてください。私はラーシェイルと言います。皆んなはシエルと呼んでくださいますが、お好きな方で良いですよ。因みに彼らは騎士でアイラムとアイラムの弟のグランジェです。」
「「よろしく!」」
『よ、よろしく!オレは直ぐに捨てられたから名前がないんだ。』
「それは悲しいですね…。ではあなたさえよろしければ私が名前をつけてもいいでしょうか?」
『オレに名前を⁈是非お願いするよ、シエル!』
「喜んで!そうですね………。」
ラーシェイルが考えている時間はそう長いものではなかったが、ミノタウロスは初めて貰らう名前にドキドキしてラーシェイルの言葉を待つ。
「……では、[アシェリ]と言うのはいかがですか?私達の国の言葉で『愛する心』と言う意味合いがあります。」
『アシェリ。気に入った!ありがとう、シエル!大切にするよ!』
アシェリの目から涙が溢れた。
「もうアシェリは私の友達ですね!」
『そんな、友達になってくれるの?オレはみんなに近づけないし、こんな見た目だから怖くない?』
「問題ありません!これから一緒に解決していきましょう!」
『迷惑かけるかも知れないよ?』
「迷惑かけないで生きていける者なんていませんよ!」
『シエルに何かあったら申し訳ないよ。』
「皆んなと一緒にいればどんなことも乗り越えていけます!だから、どうか気にしないで一緒に頑張りましょう?」
『うん、ありがとう!ホントにありがとう!シエル!うわぁぁぁぁぁぁん!!!』
今までこんなに優しくされたことなどなかったアシェリは涙が止まらなくなっていた。
気にかけてくれた者もいるにはいたがアシェリのことを悪く言う者達に唆されて直ぐに手のひらを返してどこかにいなくなった。
何年も何年も夢に見た仲間。
ずっとずっと孤独で、辛いことも怖いことも一人でなんとか乗り越えてきた。
やっと巡り会えたこの出会いに、初めて神に感謝した。
しばらく泣き続けたアシェリはようやく泣き止むと、涙でビチャビチャに濡れた地面から数本、花の芽が生えているのに気付いた。
『えっ?』
アシェリは三つの意味で驚いた。
一つは花の芽が生えていたこと。
一つは周りにリース達がこちらを悲しげに申し訳無さそうに見ていたこと。
そしてもう一つは、なんとラーシェイルがアシェリの腕の中に飛び込んできたことだ。
グランジェとアイラムはラーシェイルの行動に驚き、離れるように言うが、ラーシェイルは離れようとはしない。
「アシェリは不幸を呼び寄せる存在じゃありませんよ。だって私が触れても何も悪いことは起こらないじゃないですか。ただただ不安で、怖くて、悲しくて、誰かの愛が欲しかっただけですよね?これからは私がアシェリのことを守ります。だからもう不安にならなくていいんですよ?」
パァァァァァ
何かが解放された様な気がして、アシェリはラーシェイルのことを抱きしめ返して
『ありがとう。オレもシエルの事これからずっとずっと守るよ。』
と呟いた。
あの後にリース達にアシェリが怖がられていた訳を聞くと、色々なところから悪い噂ばかりが出回っているとのことだったが、ラーシェイル達とのやり取りを陰で見ていたリース達はアシェリに謝って和解したそうだ。
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