第九話「謹慎明け」
一月が明けた。
ミナは、正式に文書の間へ戻った。
棚は、以前よりも整然としていた。
謹慎中に、ミナがすべて整理し直したからだった。
先輩尚宮が棚を見に来た。
「棚が変わっていますね」
「整理しました。以前より探しやすくなっているはずです」
先輩尚宮は棚を眺めた。
「確かに」
それだけ言って、去っていった。
昼過ぎ、ハルが文書の間へ来た。
「戻られましたね」
「戻りました」
「また、記録を調べに来てもよろしいでしょうか」
「記録を調べる用事がおありなら」
「あります」
ハルは、どこか改まった顔をしていた。
「何の記録ですか」
「青い縁について調べたいのです」
ミナは眉をひそめた。
「青い縁、とは何でしょうか」
「昔の言葉で、深い縁のことです。青い糸で結ばれた縁、とも言うそうです」
「そのような記録は、文書の間にはありません」
「では、別の場所で調べます」
「どこで」
「あなたに、直接聞きます」
ハルは一歩、ミナの方へ近づいた。
「私は、あなたのことが好きです。これが、青い縁なのだと思っています」
ミナは、しばらく黙った。
文書の間が、急に静かになった気がした。
「直接すぎます」
ようやく、それだけ言った。
「記録管理のように回りくどくするより、直接の方が正確です」
「また記録に例えましたか」
「おかしいでしょうか」
「おかしくはありません」
ミナは目を逸らした。
「ただ、変わっています」
「変わっていても、気持ちは本当です」
ハルの声は、いつも通り静かだった。
だからこそ、その言葉はまっすぐ届いた。
(第九話 了)




