第十話「青い縁(あおいえにし)」
秋になった。
宮殿の木々は、少しずつ色を変えていた。
赤と橙と黄色が混ざり合い、風が吹くたびに葉が舞った。
ミナは文書の間で、いつものように記録を整えていた。
ただ、以前とは少し違っていた。
時折、窓の外を見る。
廊下の足音に、わずかに耳を澄ませる。
その日も、ハルは文書の間に来た。
「記録を調べに参りました」
「何の記録ですか」
「前回の続きです」
ハルは穏やかに言った。
「返事を、まだいただいておりませんので」
ミナは、手にしていた記録を棚へ戻した。
それから、ハルを見た。
「一つだけ、聞かせてください」
「どうぞ」
「身分の差があります」
ミナは静かに言った。
「私は宮女です。あなたは堂上官です。簡単なことではありません」
「分かっています」
「それでも、ですか」
「それでも、です」
ハルは答えた。
「記録は、長い時間をかけて積み重なります。急がなくていい。私は、そう思っています」
ミナは、ハルを見た。
「また記録に例えましたか」
「癖になってしまいました」
ハルは少し笑った。
「あなたといると」
「変わっています」
「それだけですか」
ミナは黙った。
長い沈黙ではなかった。
けれど、二人にとっては、十分に長い時間だった。
やがて、ミナは小さく言った。
「私も」
ハルが息を止めた。
「私も、好きです」
ハルはミナを見つめた。
「直接、言いましたね」
「記録管理のように回りくどくするより、直接の方が正確です」
「真似しましたね、また」
「あなたの言い方が、便利なので」
二人はしばらく見つめ合った。
それから、どちらからともなく笑った。
窓の外では、木の葉が舞っていた。
赤と橙が、秋の空へ散っていく。
記録は、積み重なる。
縁もまた、積み重なる。
青い縁は、静かに、けれど確かに、二人のあいだに重なっていた。
(第十話 了)
青い縁の話――韓国宮廷で燃え上がる恋
完




