第七話「王の御前」
王がミナを呼んだ。
尚宮が王に直接呼ばれることなど、滅多にない。
それだけ、今回の件が大きくなったということだった。
ミナは御前に出た。
王は四十代だった。
静かで、賢い目をしていた。
「文書の件を聞いた」
「はい、殿下」
「なぜ、外部の者に文書を見せた」
ミナは頭を下げたまま答えた。
「記録に改竄の疑いがございました。それを正すためには、外部の視点が必要だと判断いたしました。規則に反したことは、お許しください。ですが、記録の正確さを守ることが、私の務めだと信じております」
しばらく沈黙があった。
その沈黙は、叱責よりも重かった。
やがて王が言った。
「顔を上げなさい」
ミナは顔を上げた。
「戸曹の一件は、そなたの判断があったからこそ、早く明らかになった」
王は静かに続けた。
「功と過を天秤にかければ、功の方が重い」
「もったいないお言葉です」
「しかし、規則を破ったことは事実だ。戒めとして、一月の謹慎を命じる」
「謹んでお受けいたします」
御前を退いた後、廊下でハルが待っていた。
「申し訳ありません」
また、ハルはそう言った。
「謹慎は一月です」
ミナは淡々と言った。
「一月も」
「大したことではありません。記録室の整理ができます」
「整理?」
ハルは思わず聞き返した。
「謹慎中に、整理をするのですか」
「記録の整理は、謹慎中でもできます」
ハルは、ミナをじっと見た。
「あなたは、本当に記録のことしか考えていないのですか」
「今は、そうです」
「今は、ということは」
ミナは答えず、歩き始めた。
背後で、ハルが小さく笑う声がした。
(第七話 了)




