第四話「文書の間の夜」
ある夜、ミナは遅くまで文書の間に残っていた。
翌朝、王の勅命書を整えなければならなかった。
灯りをともした室内で、ミナは一枚ずつ文書を確認していく。
夜の文書の間は、昼よりもさらに静かだった。
紙の擦れる音だけが、小さく響いている。
そこへ、ハルが現れた。
「夜分に失礼いたします」
「何かご用でしょうか」
「一つ、確認したいことがありまして」
ミナは軽く頷いた。
ハルは文書棚を確かめ、それからミナの傍へ来た。
「お願いがあります」
「何でしょう」
「明日、上へ提出される文書の中に、私が確認したいものがあります。正式に提出される前に、見せていただくことは可能でしょうか」
ミナは、ハルを見た。
「それは規則に反します」
「分かっています」
ハルの声は静かだった。
「ですが、正式なルートを通せば、その前に隠される可能性があります」
「隠される、とは」
「税記録の件です。明日提出される文書の中に、改竄された記録が含まれているかもしれません」
ミナは黙った。
灯りの火が、小さく揺れていた。
「なぜ、私に頼むのですか」
「あなたが正直な方だからです」
ハルは言った。
「そして、記録を本当に大切にしている方だから」
ミナは、しばらく灯りを見つめた。
記録とは、残るものだ。
残ったものは、後の世の真実になる。
だからこそ、そこに嘘を混ぜてはならない。
「記録は、正確でなければなりません」
ミナは静かに言った。
「改竄されたものが記録として残ることは、あってはならない」
「私も、そう思います」
「明日の朝、早く来てください。朝の勤めが始まる前に」
ハルは、深く礼をした。
「ありがとうございます」
ミナは何も答えなかった。
ただ、また一枚、文書を整えた。
(第四話 了)




