第三話「雨の廊下」
梅雨の季節になった。
宮殿には、何日も雨が降り続いていた。
ミナが記録を運んでいた時、急に雨脚が強くなった。
廊下の端から吹き込んできた雨を避けるため、軒下に身を寄せる。
そこへ、ハルがやって来た。
彼もまた、雨を避けるように足を止めた。
「またお会いしましたね」
「またお会いしました」
二人は並んで、庭を見た。
木々は雨に濡れ、石畳の上では雨粒が白く跳ねている。
宮殿の喧騒も、その雨音の向こうに遠ざかっていた。
「記録の件は、進んでおりますか」
ミナが尋ねると、ハルは苦笑した。
「少しずつです。ですが、証拠を集めるには時間がかかります」
「急がない方がよろしいかと」
「なぜですか」
「急いで動けば、気づかれます」
ミナは庭を見たまま言った。
「記録は逃げません。むしろ、急いだ人間の方が、足跡を残します」
ハルはミナを見た。
「記録を管理するだけ、とおっしゃっていましたね」
「はい」
「けれど、随分と記録の先まで見えておられる」
「長く見ていれば、想像できるようになります」
ミナは淡々と答えた。
「ただの想像です」
ハルは、少しだけ笑った。
「ミナ尚宮は、面白い方ですね」
「面白くはありません。ただの記録管理人です」
「そう言う方ほど、面白いものです」
雨は、まだ止みそうになかった。
二人はしばらく黙って、同じ雨を見ていた。
(第三話 了)




