第二話「税帳簿の謎」
ハルは、三日続けて文書の間に来た。
一日目は、三十年前の税記録を。
二日目は、二十五年前の記録を。
三日目は、二十年前の記録を調べた。
ミナは黙って記録を出していたが、三日目には、さすがに気づいていた。
「同じ地方の記録を追っておられるのですね」
ハルは、紙面から顔を上げた。
「分かりますか」
「年代と地域に、一定の流れがあります」
ミナは淡々と言った。
「偶然に選ばれた記録ではありません。何かの変化を追っておられるように見えます」
ハルは、しばらくミナを見た。
「鋭い方ですね」
「記録を管理していれば、流れは自然と見えてきます」
「その流れが、尚宮には見えているのですか」
「見えます」
ミナは答えた。
「ただし、私は記録を管理するだけです。内容に立ち入ることは、私の役目ではありません」
ハルは、少しだけ考えるように目を伏せた。
「一つだけ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「同じ地域の税記録が、ある時期から急に変わっている。尚宮も、そのことには気づいておられますか」
ミナは答えなかった。
しかし、その沈黙そのものが、答えになっていた。
ハルは静かに頷いた。
「ありがとうございます」
ミナは表情を変えなかった。
けれど、その日からハルという官員の名を、少しだけ覚えておくことにした。
(第二話 了)




