第51話優翔レベルアップLv.4と母の真価
瑞葉に続いて優翔のステータスを表示した。
「ステータスオープン」のひと言で、半透明の漆黒ウィンドウが空中に浮かび上がる。直射日光が明るく照らしだしたタープの天蓋の裏布がステータス画面の裏が透けて見えるのは、表しようのない幻想感がある。
幻想的な画面に映し出されている息子【優翔】能力値も娘【瑞葉】と同様にとんでもないものだった。
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◇ステータス個人:能力値◇
名前:中伊達 優翔
15歳
職業:未設定/非認証 レベル:4
HP : 67
MP : 58
力 : 31
体力 : 30
素早さ : 32
器用さ : 32
賢さ : 28
運 : 21
攻撃力 : 62+9
防御力 : 61+6
武器 E 異界の長柄刀+9
防具 E 異世界の服+3
防具 E 異世界の靴+3
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表示された数値を見つめた瞬間、タープの下に一風の涼風が吹き抜け、草の匂いを運んできた。俺たちは思わず顔を見合わせる。
「うおっ……力31に体力30、素早さと器用さは32。能力値30超え連発してるね。攻撃力に至っては62プラス9……俺謹製の長柄ナタ、意外に攻撃力が高いな!?」
俺は手に持っていたマグカップの縁を指で撫でながら、感嘆の声を漏らした。
瑞葉が魔法特化なら、優翔は完全に前衛のフィジカルモンスターになりつつある。
「すごーい! お兄ちゃん、力も素早さも私の1.5倍以上あるじゃん!いいなぁ!」
瑞葉が手に持ったマグカップを両手で包み込みながら、羨ましそうに画面を見つめる。だが、その瞳には嫉妬ではなく、頼もしい兄への信頼と、生き抜くための戦力増強に対する素直な喜びが満ちていた。
「「いいなぁ!」って。俺は前衛だからな。攻撃を決めて、敵を叩き潰すのが役割だ」
優翔は首元の汗をタオルで無造作に拭いながら、どこか照れくさそうに鼻を掻いた。
「……でもね!」
瑞葉が急にニッと八重歯を覗かせて、自慢げに胸を張った。
「全能力値の合計で見たら、お兄ちゃんと私の差ってトータルでたったの『2』しか違わないんだよ。 まだまだ逆転のチャンスはあるんだからね」
「はいはい。お前は〜、能力値で勝負してどうするんだよ」
少し呆れ気味の優翔の言葉を耳にして、思わずクスッと笑ってしまった俺は、二人の顔交互に見やった。
「ふふ、昨日もなんか、似たようなやり取りをしていなかったか?」
「いいでしょ〜! 私らしくて!あはは」
瑞葉がけたけたと笑い声をあげる。優翔は「たく……」と呆れたように肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。
「結局、瑞葉は瑞葉のままだな」
「当然でしょ。人間、そんなに簡単には変われないもの」
瑞葉は体を前かがみにして、タープの柱を握りしめる。遠く――空に浮かぶ二つの太陽をタープの布越しに仰ぎ見ながら、ポツリと口にした。
「短時間で急に人が変わっちゃうなんて、それってマジでキツい理由があった時でしょ? そんなキツい理由なんていらないよ。今の私たちは、この生活の中で、ゆっくり成長できればそれでいいんじゃないの?」
「……」
一瞬の静寂が訪れた。
高原を渡る風がタープの布地をパタパタと揺らす音だけが響く。
俺も、沙織も、優翔も、息を呑んで末娘の、妹の横顔を見つめていた。
(……そうだな。無理に背伸びをして、変わる必要なんてないんだ)
過酷な異世界サバイバルに揉まれ、早く強くならなければと皆が肩に力が入っていたのかもしれないな。瑞葉の直感的な言葉が、俺の胸の奥にすっと染み込み、焦り固まっていた心を軽くしてくれた。
「そうだな……瑞葉の言う通りだ。焦って変わる必要なんてないな」
俺が深く頷くと、瑞葉は「でしょー?」と得意気な顔を見せた。
しんみりとした温かい空気を破るように、沙織がぱんっと自分の膝を叩いて立ち上がった。汗ばんだ額の前髪を耳後ろにさっと流しながら、悪戯っぽく微笑む。
「さ、しんみりするのはおしまい! そろそろ優翔のスキル画面を見ましょう? 私のステータスも確認しなくちゃいけないんだから。あんまりのんびりしてると、お昼ご飯と晩御飯を合わせたディランチ(ディナー+ランチ)になっちゃうわよ?」
「あはは! ディランチだって! お母さん何それ〜!変なの」
「変な上に困るよ。僕、なんだか急に腹が減ってきたよ」
「あぁ、そうだな。早くステータスを見ることにしよう」
沙織の一言に全員の緊張が解け、和やかな笑いが広がった。俺は即座に優翔のスキル画面を開示させた。
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◇ステータス:スキル/加護◇
名前:中伊達 優翔
15歳
戦闘スキル
★☆☆☆両断……縦斬りに命中率補正10%
ダメージ追加5%
★☆☆☆必中……刺突に命中率補正10%
ダメージ追加5%
New!★☆☆☆横一閃……複数の敵に同時攻撃が可能。命中率補正10%
New!★☆☆☆戦況把握……自身の周囲2メートル以内の敵味方の位置、動作、間合い、および地形の異変を一元的に察知・把握する戦術スキル。
魔法スキル
発現なし
生活スキル
発現なし
ユニークスキル
★★★★剣の極み……あらゆる剣技を修めることができる才能。剣技/武技の習得のスピードが200%アップ。剣技/通常のダメージが50%アップ。カウンター攻撃補正50%アップ。
加護
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「あぁ! 『横一閃』なんていうのがある!」
瑞葉が身を乗り出し、目を輝かせて画面を覗き込む。
その横で隣り合って座る俺と優翔は静かに認識の共有を始めた。
「『横一閃』――午前中、二匹のスライムの魔核を、長柄のナタで一瞬にして同時に打ち砕いた、あの技のことだよね」
「ああ。やっぱりあの時、無意識にスキルの補正がかかってたんだな。複数の敵を同時に薙ぎ払えるのは、集団戦で大きな強みになるぞ」
「うん。これなら瑞葉の魔法で引きつけて敵を一網打尽にできる。魔法のうち漏らしがあっても余裕を持って対処できそうだね。他の基本動作とも連携しやすそうだよ」
男子組みの俺と優翔は、手作りの長柄ナタの柄を握る動作を交えながら、思わず熱く語り合った。
だが、優翔のスキル欄にはもう一つ、誰も予想していなかった戦闘スキルが刻まれていた。
「……『戦況把握』……?」
「何それ? カッコいい名前!」
予想外のスキルの出現に、全員の視線が集中する。その後詳細文を全員で黙読した。
『自身の周囲2メートル以内の敵味方の位置、動作、間合い、および地形の異変を一元的に察知・把握する戦術スキル』
「……なっ!?」
その効果を読み終えた瞬間、俺は思わず膝を叩いて感嘆の声を漏らした。
「これ……めちゃくちゃ凄いスキルじゃないか!?」
「ええっ、お父さん、そうなの!? お兄ちゃんズルい! レーダーみたいなやつってことでしょ!?」
「レーダーとは言い得て妙だな。優翔、これって自分の頭の中に、周囲の立体マップが浮かぶような感覚か?」
「うん……発現したばかりだから上手く言えないけど、スライム相手に『横一閃』を決めた後、なんとなく感覚に変化があったんだよ。背後からスライムがにじり寄ってきても、足元の草が擦れる感覚や間合いが、目で見なくてもはっきり解る感じなんだ」
「すごいわね、優翔……。全体が見えるなんて、まるで司令塔じゃない」
「……まぁね」
普段はクールな優翔も、手作りのナタを抱え直しながら、照れくさそうに口元を緩ませた。
(やはりか……優翔の話を聞いても、レベルアップ前から発現するスキルの気配は感じられるようだ。俺は今度のレベルアップで、おそらく『夜視』か『広域感知』などのスキルを発現するはずだ。近接戦闘における2メートル以内の『精密な戦況把握』が出来る優翔と、遠距離や広範囲を警戒出来る俺。互いに補いあえば、不測の事態にも対応できる。我が家の生存戦略の幅が、この午前中だけで格段に上がったな)
子供ステータスアップは素直に喜ばしい――だが、子どもたちのあまりにも優秀すぎるレベルアップの成果を前に、一人だけ肩を強張らせている人物がいた。
沙織だ。
膝の上で固く握りしめられた沙織の手。その指先がうっすらと白くなっている。
(……瑞葉も優翔も、一気に強力な戦闘スキルを覚えて成長している。それに比べて私はいまだにレベル2で、戦力にもなれ
ず、足手まといなのでは……)
そんな心の声が聞こえてきそうなほど、沙織は自分の手元を固く見つめ、痛々しいほどのプレッシャーと緊張に押し潰されそうになっていた。
俺はその緊張を察し、明るく軽いトーンで声をかけた。
「なぁ、沙織。そんなに肩に力が入ってたら、夜に持病の頭痛が出るぞ?」
「えっ……? あ、ごめんなさい……」
「謝ることないさ。沙織、忘れるなよ? 瑞葉がいくら強力な魔法を覚えても、優翔が剣の達人になっても、腹が減ったら戦えないんだ。俺たちの命と健康を支えてるのは、沙織の作ってくれる食事なんだ。俺がウジウジと考え事ができるのは、沙織が安心できる場所を守ってくれているからだ。万が一、いいスキルが出なくたって、君が居てくれることに比べたら、大した問題じゃないんだよ。皆で新たな作戦を、計画を立てればいいだけだ」
俺の言葉に、子どもたちも即座に反応した。
「そうだよお母さん! 私、お母さんの作ってくれるご飯がなかったら、魔法なんて一発も撃てないよ!お母さんと話をしてると悩みも飛んでいくし」
「そうだよ母さん。母さんのスキルがどんなものになろうが、どんな能力値になろうが、俺たちのスタンスは変わらないよ」
「優翔……瑞葉……あなた……」
家族全員からの言葉と揺るぎない信頼に包まれ、沙織の強張っていた肩からスッと力が抜けた。一度深く息を吐き出すと、ふっと柔らかい笑みがその唇に戻ってくる。
「ふふ……ありがとう、みんな。私、少しカッコつけようとして、焦っていたみたい」
「沙織は、いつもカッコいいよ。 さてお母さんの緊張がほぐれたところで……」
俺は気分を切り替え、タープの下に座る全員の顔を見回した。
「そろそろ、我が家の大黒柱――お母さんのステータス確認をするとしようか!」
「「おおーっ!!」」
瑞葉と優翔が拳を突き上げて歓声を上げる。
沙織のユニークスキル『天恵の癒やし』の成長で、能力値はどのようにアップするのか。どんなスキルが発現するのか。これからのサバイバル環境を劇的に左右する瞬間に、タープの下に再び心地よい緊張感が走る。
だがどんな結果でも俺たちの絆は変わらない。そのことを確認出来たことで、沙織以外の皆の緊張も幾分ほぐれたようだ。
俺はみんなに見えるよう、中央の中空へ向けてゆっくりと手を差し出した。沙織のステータス画面を念じながら、力強く声をあげる。
「――ステータス、オープン」




