第44話異世界キャンプ 2日目
朝の光が眩しく照らすキャンプサイトに、冷たい緊張感が走っていた。
「結界の外に出る」――俺の放ったその一言に、家族全員の視線が集中する。
俺だって無謀な賭けに出たいわけではない。昨夜知り得た情報と、一晩考え抜いた1週間後、1ヶ月後を見据えた計画。この安全地帯に守られているうちにやらなければならない『準備』が、どうしても存在したのだ。
「父さん、正気かよ!?昨日は安全が担保されるまでは引き篭もりになるって、「生命を大事に」って話していたじゃないか!」
静寂を破り、優翔が怒りを露わにして身を乗り出してきた。
「結界の外にはどんな危険があるかわからないんだよ! 昨日の夜だけでも色々な魔物が出たんだろ? 今この瞬間だって、それ以外の魔物が近付いているかもしれないんだよ!」
「そうだよお父さん! 危険すぎるよ! どうしてそんな急いでいるの!?」
優翔に続き、瑞葉も感情を剥き出しにして叫ぶ。
「あなた……言っていることは分かります。十分な理由だってことも。でも、瑞葉の言う通りよ。そこまで急ぐ必要があるの? 今一人で行く必要があるの?」
沙織も落ち着いた、しかし絶対に引かない強い眼差しで俺を射抜く。
家族全員からの強い反発と、それ以上の心配を感じる。その温もりに深い感謝を覚えつつも、俺は視線を逸らさず、低く力強い声で言った。
「家族全員で、確実に生き抜くためだ。……生き抜くっていうのは心身共に健康じゃなきゃ駄目なんだ。これだけは譲れない」
水の確保は出来た。
となれば次は食料の調達だがただ食べれるものを調達するだけじゃダメなんだ。
優翔が言う通り「生命を大事に」、その考えを変える気はない。
だが今後の生活レベルに関わる情報を昨夜俺は『鑑定』と『博識』のスキルで得た。いつこの辺境を脱するかわからない状況、文明社会に戻れるか保証がない以上、ただレベルを上げるだけ、食べ物を探すではジリ貧になる。心の平安を保つ為の何かが必要なんだ。
俺の言葉の裏にある焦りと決意を感じ取ったのか、場に重い沈黙が落ちた。高原を吹き抜ける風の音だけが虚しく響く。
その張り詰めた沈黙を、穏やかに破ったのは沙織だった。
「……お父さんに、まかせましょう」
「えっ!? お母さん!?」
「母さん、でも危険だよ!」
驚く子供たちを静かに手で制し、沙織は俺を見つめたまま言葉を続けた。
「そうね、危険よ。だから――私たちみんなのレベルが上がって、私がちゃんとした治療魔法を使えるようになって、子どもたち2人が連携してお父さんを手助けできると判断できる状況になってからしか、お父さんが結界の外へ出て行くのを認めるつもりはないわ」
「沙織……それでは……」
俺が言葉を発するのを、沙織は制した。
「何を言っても無駄よ。このことだけは譲る気はないわ。私は、家族4人で生き残りたいのよ。私たちの了解もなく、どうしても結界の外に行くなら私たち皆で勝手に貴方の後を付いて行くわよ」
「…………」
強い眼差し。そこには不甲斐ない夫を支え続けてきた妻の強さと、母として子供たちを育ててきた深い愛情があった。
そんな沙織の姿に、俺は二の句が継げなくなる。
すると、横から優翔がふっと息を吐き、呆れたように肩をすくめた。
「そうだよ父さん。家族に相談もせずに、屋外で一人で不寝番まがいのことをするような人の意見は、鵜呑みにできないからね」
「そうだ! そうだぁ〜! お父さん前科アリだぞ〜!」
瑞葉がすかさず乗っかり、俺を指さす。
「お、おい……二人とも……っ」
気まずそうに縮こまる俺を見て、沙織がクスッと小さく笑った。
「ふふふ……。じゃあ、決まりね」
「うん!」
「そうだね。まずは全員でレベル上げだ」
「……わかったよ。皆の言う通りにするよ」
俺が両手を挙げて降参の意を示すと、子供たちの顔に安堵の笑みが戻った。
こうして、中伊達家の異世界生活2日目が始まった。
いつの間にか顔を出した2つの太陽は大地を離れ、空に輝いてる。異世界の空も地球と変わらず青く、雲ひとつなく澄み渡っている。
今日も天気は良さそうだ。それだけは、今の俺たちにとって確かな幸運と言えた。




