第37話優翔の成長
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◇ステータス個人:能力値◇
名前:中伊達 優翔
15歳
職業:未設定/非認証 レベル:2
HP : 49
MP : 44
力 : 23
体力 : 22
素早さ : 24
器用さ : 24
賢さ : 21
運 : 17
攻撃力 : 46+12
防御力 : 45+6
武器 E 異世界の鉤爪+12
防具 E 異世界の服+3
防具 E 異世界の靴+3
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◇ステータス:スキル/加護◇
名前:中伊達 優翔
15歳
戦闘スキル
★☆☆☆両断……縦斬りに命中率補正10%
ダメージ追加5%
魔法スキル
発現なし
生活スキル
発現なし
ユニークスキル
★★★★剣の極み……あらゆる剣技を修めることができる才能。剣技/武技の習得のスピードが200%アップ。剣技/通常のダメージが50%アップ。カウンター攻撃補正50%アップ。
加護
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「な〜んか、納得いかないんだけど!」
空中に浮かぶ優翔のステータス画面を覗き込んでいた瑞葉が、頬をこれでもかと膨らませて不満を露わにした。
「なんでお兄ちゃんの方が能力値が高いのよ! それに私がレベル2になるの、すっごく大変だったのにぃ〜! 素早さは私の方が少し低いけど、器用さは私の方が上なんだよ。なのに、どうしてお兄ちゃんの攻撃は当たって、私の攻撃は外れるのよ!」
「瑞葉、落ち着きなさい……職業?適性かしら?そによって見えない補正があるみたいだって。お父さんの話は瑞葉も聞いたでしょ?そもそも、お兄ちゃんは高校生だし、あなたより背も高くて体力もあるんだから、元々の差があるのは当然でしょう?」
沙織が困り果てたように瑞葉を宥めるが、中学校に入ったばかりの娘の耳には届かないらしい。
「でもぉ〜!」と地だんだを踏む瑞葉は、まるで欲しいおもちゃをおねだりする幼子そのものだ。
普段のスマホの画面ばかり見つめて「面倒い」と冷めていた姿が嘘のように、素直に感情を爆発させている。そんな愛らしくも扱いに困る娘の暴走に、沙織がどう言葉を返したものかとオロオロしていたその時だった。
「レベル1の時点で、『母さんや父さん』と『僕と瑞葉』の間には明らかな能力値の差があっただろ」
静かだが、しっかりと芯のある声が場を制した。優翔だった。
「それは『加齢による身体の成長や経験』がそのまま基礎値に加味されているからだと僕は思う。身長が高い方が物理的にリーチも伸びて有利だし、生きてきた年数分の体力や経験もステータスに変換されているはずだ。……だとしたら」
優翔は火かき棒を一旦地面に立てかけ、少しだけ恥ずかしそうに眉間にシワを寄せながら続けた。
「僕と瑞葉の2年の年齢差が、ステータスの上では、たったの『1』としてしか評価されていないことになる。……どう考えても、瑞葉の方が将来的な伸び代は遥かに上だよ。僕の2年分を、お前はすでに追い抜きかけてるんだから」
「え?……」
兄のあまりに論理的で、そして自分を素直に認めてくれた言葉に、瑞葉はポカンと口を開けた。
まさか反抗期真っ只中の生意気な兄から、そんな真っ当で温かい評価が返ってくるとは思わなかったのだろう。
自分の浅はかな我儘で兄に気を遣わせてしまったことに気づいた瑞葉は、みるみる顔を赤くし、気まずそうに視線を足元へ落とした。
「う……うぅ、お兄ちゃんのバカ……そんな言い方されたら、怒れなくなるじゃんか……」
もじもじとつま先で地面を弄る瑞葉。
その横では、いつの間にか頼もしく成長していた息子の横顔を、沙織が静かに微笑みを浮かべて見守っていた。
そんな家族の沈黙の中、俺はゆっくりと優翔の肩に手を置いた。
「優翔。俺は、お前がこれまで積み重ねてきた努力は絶対に無駄じゃないと思っている」
「父さん……?」
「トランプやゲームだってそうだろう? どんなに良いカードが揃っていても、使いどころを間違えれば負けてしまうことはよくある。例えスキルやカードで負けていても、基礎能力値で劣っていたとしても、勝つための『切札』を正しいタイミングで打てる人間こそが強いんだ。……優翔は今、そういう頼もしい人間に成長しつつある。俺は父親として、誇らしいよ」
「っ……な、なに言ってんだよ急に。別に……当然のこと言っただけだろ」
優翔はあからさまに顔を背けたが、耳の先端が真っ赤になっているのを俺は見逃さなかった。
かつては俺の顔を見ることすら避け、部屋に閉じこもりがちだった息子が、不器用ながらも家族を守るために長男としての背中を見せようとしている。
仕事ばかりで家庭を省みず、息子との間に作ってしまった分厚い壁が、この極限状態の中で少しずつ溶けていくのを感じ、俺は胸の奥が熱くなるのを感じていた。
(俺は自身の能力を過信して、切るカードも、そのタイミングも間違えた。その負担が家族にも及んで今に至っている――もう間違えない)
やるべきことが見え、生き残るための手段が明確になったことで、先の見えない「絶望と焦燥感」は、「希望と連帯感」と変化しつつあった。異世界の景色に立ちすくんでいた朝のことが遠い昔のことのようだ。
その後の話し合いの結果、まずは前衛として最も確実にスライムを狩れる優翔のレベルを更にもう一つ上げて「レベル3」にする方針が決まった。
俺は再び結界の境界線へと向かった。
生臭い胞子の匂いがわずかに立ち込める未知の高原。
その匂いは嗅ぐことができるのに、魔物や魔獣の侵入を防ぎ、魔法攻撃にも耐えるという『聖域結界』は、有毒ガスや落雷なども防いでくれるらしい。
結界内は何事もなくただ穏やかだが、その効果は絶大で、最強の結界の面目躍如といったところか。
俺は「アルミ缶の仕掛け」を、鑑定で発見したスライムの潜む草むらに投げ入れた。
――カツン。カサカサと乾いた音を立ててスライムの近くまで跳ねるアルミ缶。
その音に反応したのか、はたまた「異世界の金属」から何かしら成分が漏れ出ているのかは分からないが鈍い緑色をしたスライムが繁みからカサリと姿を現した。
俺はワイヤーをゆっくりと引っ張って、今回はクラゲのお化けのような形をした、スライムを結界近くへと誘い込む。
そこへ、優翔が一歩踏み込み一撃を打ち込む。もう打ち合わせる必要はない。
——ズシャッ!
——パキンッ!
火かき棒を振り下ろす音と、スライムの魔核が両断される音が、ほぼ同時に響く。
その後も息の合った連携で、俺たちは次々とスライムを泥水へと変えていく。1時間ほどで10体のスライムを狩った。驚異的なペースだ。
……だが、優翔の視界にレベルアップの通知は現れなかった。
(おかしいな……)
俺は顎に手を当てて思考を巡らせる。
瑞葉と優翔の二人で、これまでに計13体のスライムを倒した。だが、荷物の整理をしながらも、こちらを気にかけてくれている沙織のレベルは上がっていない。
つまり、パーティ登録をしても戦闘に一切参加していない人間には経験値が入らない仕組みなのだと推測できる。
(ゲームじゃ無いんだから当然と言えば当然か……)
それなら、スライム13体のうち10体を倒した優翔のレベルが上がらないのはなぜか?この世界のレベル2とレベル3の間にはそれほどの 経験値の差があるのか?
(……まさか。スライムを釣り上げている『俺』にも、経験値が分散して入っているのか?)
戦闘行為そのものを行っていなくても、仕掛けで敵を誘導、足止めしている俺がアシスト役として認識され、獲得経験値が俺と優翔の二人で二分されているとしたら、優翔のレベルが中々上がらないことも得心がいく。
「なるほど……そういうことなら。優翔、次は——」
思考を整理し、仕掛けを優翔に差し出し、今後の予定を打ち合わせている俺たち男二人の背中に、沙織の優しく明朗な声が届いた。
「はいはい、そこまで! そろそろ朝ごはんにしましょう」
「えっ……あ、もうそんな時間か?」
集中しすぎて時間の感覚が麻痺していた俺が振り返ると、折りたたみチェアに座った瑞葉が自分のスマホの画面をかざしてみせた。
「スマホの時間が合ってるなら、もう8時過ぎてるよ〜」
「そうか……夢中になりすぎていたな。よし、一旦手を止めて朝食にしよう」
未知の魔物を狩る緊張感から一転、立ち上る湯気と温かい食事の匂いに、俺たちの胃袋が小さく鳴った。




