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放浪記〜家族水入らずで異世界転移〜  作者: 高梨京司
第二章 エルタニア高原

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第34話ローテーション

 瑞葉の魔法検証を無事に終え、沙織と共に束の間の休憩に入った。


 崩れた岩と立ち上る蒸気をじっと見つめていた優翔は、やがて俺の方へ落ち着いた足取りでやってきた。

 お茶を飲む沙織と瑞葉から少し離れた場所で、優翔が低く静かな声で切り出した。


「……父さん。水と火が確保できたなら、次は拠点作りと……僕と母さんのレベル上げだよね? 父さんは何を優先するつもりなの?」


 その目には、妹への嫉妬ではなく、家族を守るための男としての意志が宿っているように思えた。


(一人であの感情を乗り切れるのか……、お前は本当に凄いなぁ)


「ああ。先ずは優翔のレベル上げをしようと考えているよ。その後は母さんのレベルアップをして、……拠点作りはその後で最悪数日後でもいいと思っているよ」


「そう。……母さんより先に僕なんだね。理由を聞いても?」


「もちろんだ。瑞葉のレベル上げを見ていても分かった通り、適性がない者が物理的にレベルを上げるのはかなり大変そうだ」


「そうだね。瑞葉とは小さい頃からよく運動して遊んでいたけど、運動神経が悪いと感じたことは一度もなかったからね」


「あぁ、父さんの小さい時よりも、よほど運動神経はいいと思うよ。そう考えるとスキルや職種でプラス補正があるように、表示はされないが適正の無いものや、持っているスキルや特性に反するものに、マイナス補正も掛かってるんじゃないかと思うんだ」


「確かに瑞葉がスライム相手にあんなに手こずるなんて、異常だよね。なんだかこの世界のシステムに無理矢理押し付けられているみたいで気持ちが悪いよ」


「確かにこの世界には、俺たちのいた世界にはない、何か目に見えない力がはっきりと感じられるな」


「「ふぅ~」」


「フッ!」


二人同時にため息をついたことで、目に見えぬ者の存在への緊張がわずかに緩んだ。


「だから、母さんが持つユニークスキル『天恵の癒やし』は完全な後衛職だろうから、そのレベル上げは瑞葉よりもさらに大変だろうと想定すべきだ。その点、瑞葉のこれからはMPの回復量さえ把握できれば魔法攻撃で効率的にレベル上げが出来るはずだ。優翔のスキルは前衛職っぽいし、スライム相手なら物理攻撃で問題なくレベルアップ出来るだろう」


 穏やかに話す母と娘の姿を眺めて、優翔は頷いた。それを確かめ、俺は今後の大まかなプランを優翔に伝えた。


「その後、優翔と瑞葉がある程度レベルアップしたら、3人でローテーションを組んで母さんのレベルアップのフォローに入る。当面は料理や洗濯も含めた雑用は俺たち3人交代で行う。レベルアップに苦戦しそうなお母さんは戦闘が最優先だ。優翔……」


「わかってるよ。俺たちが生き抜くには、母さんの『天恵の癒やし』が必須だからね」


 優翔が言う通り、沙織の持つ『天恵の癒やし』は瑞葉が発現させた『水魔法』と同じ位、俺たちにとって重要だ。人間生きていれば怪我をするし、病気にもなる。特にひとっ子一人いない、こんな未開の地で誰か一人でも怪我や病気になれば、それは致命傷だ。沙織が持つ『天恵の癒やし』による治癒魔法の習得は俺たちが生き残るための最低条件と言っていい。


「沙織が治癒魔法と、出来れば毒消しや状態異常回復の魔法を習得すること。あと家族全員がレベル10を超えるまでは、何日経とうが俺はこの結界の外に出るつもりはない」


 俺の突然の引き篭もり宣言に戸惑うことなく、優翔は言葉を返す。


「グレートボアがいるかもしれないからだね」


「そうだ。俺が運よく討伐したことにはなっているが、なぜ討伐扱いになったのかは未だに不明だ。ただ分かるのは明らかに今の俺たちでは実力不足だということだ。グレートボアを1体倒しただけで俺のレベルは8つも上がった。それだけのレベル差があるということだ。今グレートボアが出て来ても、おそらく俺たちでは正面からの太刀打ちはできないだろう」


「そうだね」


 優翔の返事も表情もどことなく固い。頭では家族の為と分かっていても感情が追い付かないのかも知れない。

それも当然の事だ。つい半日前までは普通の思春期、反抗期のただ中の高校一年生だったんだから。

 フォローを入れようにも、何年も家庭を省みずに自分の殻に閉じこもっていたダメ親父が何か言えるはずも無い。

情けない限りだが、今できることをやるしかない。子供相手だと思わず、しっかりと自分の考えを伝えることにした。


「俺の固有スキル『博識』で見た感じ、結界や家族のスキルは辺境転移《アクシデント》に対する『救済措置』だ。それを信じるなら4人の力を併せれば、この状況でも生き残れると『何者かが』判断したということだ。誰か一人のスキルが突出していても駄目なんだ。家族全員で助け合うことが重要なんだと思う」


「……うん」


「それに優翔のさっき言った『世界の役回りに無理矢理押し付けてる』が正しいとしたら、この世界の能力の基準と俺たちの能力の基準にズレがありそうだ。優翔のこれまで努力した力の出番も絶対にあると父さんは思っているよ。焦らず、一つずつやっていこう。……優翔、頼りにしてるぞ」


 俺が肩に手を置くと、優翔は少し照れくさそうに「わかってるよ」と顔を背けた。


 すれ違い、壊れかけていた家族の距離。だが、この絶望的な異世界の真っ只中で、俺たちの絆は確かに、再び強く結びつき始めていた。

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