第32話瑞葉の魔法スキルの発現
「ステータス、オープン」
俺の声に呼応して、目の前に漆黒のウィンドウが展開される。
漆黒でありながら、その表示の向こうが見える不思議な表示にも皆、だいぶ慣れてきた。
レベルアップを果たした瑞葉の最新の能力値を、俺たちは身を乗り出して覗き込んだ。
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◇ステータス個人:能力値◇
名前:中伊達 瑞葉
13歳
職業:未設定/非認証 レベル:2
HP : 34
MP : 46
力 : 15
体力 : 16
素早さ : 21
器用さ : 27
賢さ : 22
運 : 29
攻撃力 : 33+12
防御力 : 33+5
武器 E 異世界の鉤爪+12
防具 E 異世界の服+2
防具 E 異世界の靴+3
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【魔導の極み】の影響だろう。『賢さ』が能力値の3番手に上がっている。
元々が絵を描いたり、レジンで小物を作るのが好きな子だから『器用さ』が高いのは納得だ。『運』は家系なのか妻の沙織やその母親もくじ運がよく、瑞葉はそれ以上の幸運を受け継いでいるようだ。福引や懸賞でさすがに1等や特賞を毎回とはいかないが、ハズレを引いたところは見た記憶がない。
対して俺はくじ運が悪く、優翔も良さそうには見えない。申し訳ないが俺の家系か。
そんな事を考えていると優翔が少し硬さを含んだ声を上げる。
「悪くない……って言うか。『器用さ』『賢さ』『運』の上がり具合が凄くないか?このままいけばレベル60前に255を突破する勢いだ」
家族がレベルアップするのは歓迎すべきだが、自分との差が開くようで複雑な気持ちなのだろう。
それでも口に出さず感情の整理をしようとする息子を、俺は黙って見守ることにして、話を進める。
「それじゃあ、スキルの確認をしようか」
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◇ステータス:スキル/加護◇
名前:中伊達 瑞葉
13歳
戦闘スキル
発現なし
魔法スキル
★☆☆☆火魔法Lv.1
★☆☆☆水魔法Lv.1
生活スキル
発現なし
ユニークスキル
★★★★魔導の極み……治癒/補助魔法以外のほぼ全ての魔法を修めることができる才能。攻撃魔法の習得のスピードが200%アップ。攻撃魔法のダメージが50%アップ。MPの消費が50%ダウン。
加護
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祈るような気持ちで瑞葉のスキルのステータスを見つめる。
するとそこには……あった、新たに二つのスキルが追加されている。
それも今後のことを考えると必要不可欠なスキルが2つも発現している。このメリットは計り知れない。
「えっ!?私…、火と……水魔法を取得したの……?」
瑞葉の言葉に沙織が口を思わず口元を押さえた。
「じゃあ……きれいなお水と、火が使えるの……?」
「ああ、おそらくだが、飲み水の確保や、火起こしの心配もいらなくなるはずだ。先ずは確認だな」
沙織の呟きに俺は答えた後、瑞葉にも確認を取る。
「瑞葉、魔法は使えそうかな?技名とかあるパターンかい?」
「うーん。感覚としてだけど使えそうだよ。技名とかは出てこないよ」
「そうなると、試し撃ちするしかないな」
「えっ!もう撃っていいの?何処に?スライムに?繁みに?火魔法?水魔法?どうしよう!!」
「瑞葉、落ち着いて。使うのは水魔法で、威力はなるべく抑えてほしい。外への攻撃だから結界は発動しないとは思うけど、念の為だ」
さっきまでの落ち込みはどこへやら、とんでもないハイテンションではしゃぐ娘を諭しながら、あたりを探る。
「そうだなぁ。……結界の外、……あの岩に向けて撃ってくれるか?」
「わかったよ」
食糧保管庫の影に沙織と優翔を移動させて、ステンレス製の保管庫の真横に瑞葉を立たせる。俺は瑞葉の斜め前に立ちアクシデントに備える。
魔法を使うのに邪魔になりそうな、『異世界の鉤爪』は俺が受け取る。結界が無ければ成り立たない布陣だ。
皆が配置に着いたことを確認した瑞葉が自由になった両手を胸の前にかざす。しばらくすると、その体がわずかに輝く。
「───(聞き取れない呟き)───ウォーターボール」
何かしらを小声で呟いているが、虫の音や風音にかき消され聞き取ることは出来なかった。だが最後の言葉だけは、はっきりと聞くことが出来た。
――ウォーターボール!
その言葉が聞こえた瞬間、テニスボール程の大きさの水球が瑞葉の手のひらの先に現れて、岩へと向かって飛んでいった。
水球は狙い違わず、地上に突き出す記念碑サイズの岩を直撃した。
――パシャ!
まさに水風船をぶつけたような音が鳴るが、岩は濡れただけで変化は無さそうだ。
「弱い。……弱すぎだよぅ」
今度はローテーションで嘆く娘を諭しながら話を聞く。
「最初としては上出来だよ。何かしら表示は見えたのか?今のが一番弱い水魔法かい?」
「うーん、表示は出なかったよ。でも、魔力の込める量とバランスで魔法の大きさや威力、スピードは変わるみたい。今のは水が出るギリギリまで魔力を抑えて、飛ばすスピードもギリギリ岩に届くように抑えたんだよ」
「おぉ、父さんが言った通りにしてくれたんだな。ありがとう」
「えへ、えへへへ……まぁ緊急事態だからね。お父さんの話は聞いてあげるよ」
「そうか。ありがとう」
「へへ……」
なんともこそばゆい話をしていると、優翔が冷静な声で提案してくる。
「父さんステータスをみた方がいいんじゃない?」
「あっ!そうだったな。MPの消費を確認しないとな」
「本当に父さんは瑞葉のこととなると、他がおろそかになるんだから……」
「そ、そうか?すまん、気を付けるよ」
優翔と俺のやり取りを聞いた沙織が笑う。
「ふふふ、優翔のこともよ。お父さんはあなたたち二人の事となると他のことが見えなくなるのよ」
「それを言うなら、お父さんはお母さんの事となると周りが見えなくなるじゃん。お母さんがタンスの角で足の小指をぶつけて悲鳴を上げた時、慌てて様子を見に行く時に私の足を踏んでいったんだからね」
むくれた声で文句を言う瑞葉だったが、その表情は明るい。
「ははは。すまん、すまん」
「ふふふふ。そうだったわね」
「ったく。父さんステータスをみよう」
家族皆で笑い合う。こんな何気ない日常こそを俺は大切にするべきだったんだ。
異世界でキャンプをするのは、とても何気ない日常とは呼べないが。
「あぁ、わかった。ステータスオープン」
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◇ステータス個人:能力値◇
名前:中伊達 瑞葉
13歳
職業:未設定/非認証 レベル:2
HP : 34/34
MP : 44/46
力 : 15
体力 : 16
素早さ : 21
器用さ : 27
賢さ : 22
運 : 29
攻撃力 : 33
防御力 : 33+5
武器 なし
防具 E 異世界の服+2
防具 E 異世界の靴+3
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「レベルアップは無し。当然だね。能力値はそのまま。変わったのはMPが減っただけか。MPの減少は2、本来の消費量が4。魔法が使える回数 1つ取ってみても、ぶっ壊れ補正をひしひしと感じるな」
優翔の感想に家族から特段のリアクションはない。全員の想定内だったということだろう。ということで本題に入ることにした。
「よし、瑞葉。次は水球を飛ばさないように出してくれ。水を実体化出来るギリギリの魔力を込めて、圧縮や移動に魔力を使わなければ出来そうかな?」
「……うん、多分大丈夫だと思う」
沙織が瑞葉の前に空の雪平鍋を置く。
皆で瑞葉の後方で横一列に並んだ。治療する手立てがない今、怪我は致命傷になりかねないので慎重にも慎重を重ねていく。
「いくよ。───(聞き取れない呟き)───ウォーターボール」
瑞葉の掌の前には先ほどの再現のようにテニスボール程の水球が現れたが、今度は飛行する事はなく形状が崩れ、鍋へと落ちた。俺はすかさずその水を鑑定する。
「……」
「よかった。うまくできて」
「どうなの父さん。飲めるの?」
「あなた……」
皆の視線が集まる中、俺は大きく息を吐いた。
「ふぅ~。大丈夫だ。飲用できるようだ」
「「やった!!」」
「良かったわ」
「少し問題はあるがな」
俺は鑑定と博識が表示した内容を家族に伝えた。
【超純水】
水魔法で生み出された水。微量の魔素を含むが、飲料は可能。無菌で安全性は高い。
――カリウム、カルシウム、マグネシウム、ケイ素等のミネラルや炭酸を含まない為、無味無臭に近く旨味や爽快感はない。料理等との相性は良好。
「えぇ~、せっかく水魔法が使えるようになったのにぃ~。美味しくないんだぁ」
「内容を聞く限り、納得の理由だけどな。後半のミネラルがどうこうっていうのは、『博識』の情報でしょ?」
「そんな事も、解るのね『博識』は」
「まぁ魔法のある世界なら、かなり早い段階で研究される内容だろう。違うアプローチをすれば、まだまだ色々な情報が得られるかもしれない」
異世界。それも辺境地帯での過酷なサバイバルが予想される中。皆が口に出さず耐えていた絶望の入り口は、飲み水の枯渇であったのだろう。その事が皆が安堵する口調でよく分かる。優翔も明らかに尖っていた雰囲気が大きく和らいだ。
瑞葉が懸命に掴み取った小さな「レベルアップ」は、中伊達家がこの世界で生きていくための、眩しいほどの希望の光となって照らし出されたのだった。




