↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放浪記〜家族水入らずで異世界転移〜  作者: 高梨京司
第二章 エルタニア高原

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/69

第31話作戦名『異世界で釣りをする』

 精神的なショックを受けた瑞葉は、気持ちを落ち着かせるため、バーベキューグリルに起こした火にあたりながらお茶を飲んでいる。

そのすぐ横に沙織が座り、何かを話しかけている。

瑞葉の表情は和らぎ時折、笑顔も見られる。少しは落ち着いたようだな。


 俺は竈の炭の火を熾し直して、火かき棒をその中に入れた。そして次の準備に取り掛かった。

 それを見た優翔が近づいて来る。

スライムが結界に激突する情景を見て、キャンプ場(結界内)の安全を信じることができたのだろう。


「何してんだよ?」


 優翔は小さい頃から俺のやることに色々と興味を示す子供だった。

おもちゃの収納用の棚を作ったり、ガラスが割れないように防犯フィルムを貼ったり、子供達の野菜嫌いをなくそうと家庭菜園を作ったり。

時間と経済的に余裕があった昔は、休日によくそういったことをしたものだ。

その度に「お父さん、何してるの?」と近寄って来る息子がなにより愛おしいものだった。

 転職の失敗や忙しさを理由にして、俺はその大切な時間を放棄してしまったのだ。

今更、後悔しても始まらない。だからこそこれからは、こういった時間は 何よりも大切にしていこうと思う。


「スライムは特殊な金属を好む習性があるらしくてな、異世界の金属、『食糧保存庫』や『火かき棒』に使われているステンレスを溶解させてレベルアップをしていたんだ……それなら、他の地球の金属にも引き寄せられるんじゃないかと思ってな」


 炊事場に昨日飲んだビールの空き缶が濯(ゆす)がれて残っていた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【アルミ缶】


異世界の液体を携行する道具。特殊な金属で作られている。ドワーフや一部の魔法鍛冶師、錬金術師であれば取り扱いは可能。魔力を留めたり、高める効果に優れる。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 起動した鑑定内容を優翔にも教える。


「何だよ、それ。地球の金属は、こっちでは全て希少金属ってこと?しっかり管理しておくべきだね」


 俺は大きく頷き、作業を続けた。

希少金属『アルミ』缶、そのプルトップにフックを付けワイヤーと繋げる。ちなみにフック もアルミ製だ。

缶の中に重り代わりの土を入れるが、念のため結界の外の土を入れることにした。


 準備が整ったので俺は結界の外へと目を向けた。そこには何の変哲もない背の高い青草の茂みが広がっている。


(変哲もない?まあ紫とオレンジと赤が混ざり合った草自体、今まで見たことないんだけどな)


 繁みの根元に意識を持っていくと鑑定が発動する。やはり所々にスライムがいるようだ。

 何匹か確認できたスライムの中で、一番手近にいた個体に向けて、俺は勢いよくアルミ缶を投げる。

 狙いは寸分の狂いもなく、スライムの目の前に転がった。レベルアップの影響だろう、あらゆる能力が上昇していることを実感する。


 このまま地球に戻れれば、チャレンジ系の動画でかなりの再生回数を稼げるんじゃないか?そんなくだらない妄想をしている間にスライムに変化が起きた。

 緩やかに揺れていた体が、小刻みに震え始めたのだ。この小刻みな震えはどうやらスライムが体を動かす時の前兆のようだ。   

 俺はスライムの動きに注意を払った。

重めのゴミ袋が強風で動かされるようにのたのたとスライムが動き出す。


「よし釣れた。ゆっくり引き寄せよう」


「何これ 、ほとんど釣りじゃん」


「はははは……。作戦名は『異世界で釣りをする』にするか。本当にそのままラノベのタイトルにでもなりそうだな」


「……本当にね。父さんと僕の感性って、やっぱり似通ったところがあるのかな」


 俺と優翔の言葉に、沙織と瑞葉も何事かと集まってきた。

 アルミ缶がスライムに吸収されない距離を保つようにして、俺はワイヤーをたぐり寄せた。

 希少金属『アルミ缶』に惹き寄せられたスライムを結界の境界線まで連れだし、アルミ缶の先が結界のギリギリ外に出るように、空中2メートル位でトングに挟んでで持っておく。

 これで結界の内側にいる俺たちには、スライムの攻撃は一切届かないが、俺たちの攻撃は容易に届く釣り場?狩り場?の完成だ。


「瑞葉、火かき棒を持ってこっちにおいで。棒は熱してあるからね。必ず取っ手のところを片手で持って、……慌てなくていい、スライムはここを動かないから」


「う、うん……」


 まだ恐怖と罪悪感が残っているのだろう、火かき棒を眺める目が泳いでいる。


「慌てずによく見れば討伐は簡単なはずだ。魔核の位置は何となく分かるんだよな?集中して。『魔導の極み』を持つ瑞葉なら、俺よりもはっきりとスライムの核が持つわずかな『魔力』の揺らぎに気づけるはずだ。火かき棒は炭で熱してあるからね、振り回す必要はない。魔核に向かって少し押し込めばいいだけだ。少し怖いし、罪悪感もあるよな 、でもこの世界で生き抜くためには多分これは必要なことだ」


「うん……」


「難しいなら目を瞑って火かき棒を握っているだけでもいい。あとはお父さんが補助をするよ。優翔、悪いがこのアルミ缶を持っ……」


「自分で出来るから!家族の足手まといになんてならないから!」


瑞葉の声の大きさに皆が驚く。


「いつまでも何もできない子供じゃないんだから。……私だって家族の役に立てるんだがら」


「瑞葉……」


 沙織が優しく瑞葉の背中をさする。

両親は忙しく、兄は反抗期で無愛想になり、家族の中で孤独を感じていたであろう娘の声に心を締め付けられながらも俺は話を続ける。


「ありがとう。これからは家族全員での総力戦だ。瑞葉の力もあてにさせてもらうよ」


 俺の声に瑞葉は息を呑み、小さく頷いた。炉まで向かうと火かき棒を炭から引き抜き、小走りでこちらに戻ってくると、直ぐに目の前のゼリー状の魔物に意識を集中させた。


「……あそこね……っ!」


 覚悟を決めた瑞葉は迷いなく火かき棒を魔核へと押し込んでいく。カレーを煮立たせてしまった時のような音のなかから――パキイン、と乾いた音が響き、スライムは瞬時にただの泥水のようになり地表に吸い込まれ始める。


「やった!やったよ皆!!あたしがスライムを倒したよ!」


 はしゃぐ瑞葉に皆が笑顔で声をかける。

これに気をを良くした娘は、同じ手順で2匹、3匹と俺が釣ったスライムを仕留める作業を繰り返した。

 すると瑞葉が視線を一箇所に定め、動きを止めた。


「あっ……! お父さん、視界の端に文字が見えるよ……【スライムを討伐しました】【Lvが2にあがりました。ステータスを確認してください】って表示が現れたよ」


 瑞葉の歓声に、全員の表情が明るくなる。俺たちは早速、瑞葉のステータスを確認することにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。