第18話 優翔のステータス能力値と家族の氷解①
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◇ステータス個人:能力値◇
名前:中伊達 優翔
15歳
職業:未設定/非認証 レベル:1
HP : 39
MP : 37
力 : 18
体力 : 18
素早さ : 20
器用さ : 20
賢さ : 18
運 : 16
攻撃力 : 37
防御力 : 37+6
武器 なし
防具 E 異世界の服+3
防具 E 異世界の靴+3
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「ズルい…。ズルい。ズルい! なんでお兄ちゃんとこんなに差があるのよ!!」
「落ち着きなさい、瑞葉」
「だって、お母さ~ん」
母娘のやり取りを横目に、俺は先ほど確認した優翔のステータス画面の数値を頭の中で反芻していた。 瑞葉の言い分は一部正しい。HPの差は10ポイント、MPの差は2ポイント。攻撃力と防御力の差がそれぞれ8ポイント。レベルが同じ「1」だとすると、この差は無視できない。
だが、能力値6種の合計値の差は、わずかに1ポイントしかない。目に見える数値だけで判断するのは危うい気がするな。どこかに見えない補正がかかっているのだろう。
辺りを警戒しながらある程度考えをまとめる。瑞葉は尚も、沙織に自分の不満を口にしている。
(瑞葉の優翔への強い対抗心は、ただのワガママじゃないんだよな……)
俺が転職に失敗して、グレーな職場で余裕を失ってしまい、瑞葉には幼い頃から、ろくに構ってやれなかった。SNSで他人の幸せそうな家庭を見ると惨めになって目を逸らし続けた俺と、SNSで居場所を探していた瑞葉。ずっと燻っていた「お父さんはお兄ちゃんばかり構う」という切ない寂しさが、今こうして爆発しているのだろう。
「いい加減にしろよ、瑞葉!!」
「えっ!?」
聞いたことのない強い口調で優翔が怒鳴った。瑞葉は目を丸くして、さっきまでの饒舌が嘘だったように口をつぐむ。
それを見た優翔は、気まずそうに視線を逸らし、周囲を警戒する素振りを見せた。
「目に見える数字だけだよ……。多分、瑞葉の方が僕より強いよ……」
瑞葉に目を合わせず、絞り出された優翔の言葉に、沙織が困ったようにこちらを見てきた。
俺たちは異世界に放り込まれた途端、自らの能力が「数値」として突きつけられることになった。
優翔にしてみれば、二歳の年齢差や勉強して進学校に入学したこと。その評価が『わずかに能力値1』の差として現れたわけだ。自分の努力が目に見えぬ何者かに否定されたように感じて、憤るというよりは戸惑っているのだろう。
「みんな聞いてくれ。正直、父さんは個人の能力の差はあまり気にしていないんだ。父さんが一番弱くたって構わない。それよりも――全員の力、家族力が何より大事だと思うんだ」
沙織が静かに頷き、瑞葉も首を傾げながらも真剣に聞いている。……できれば辺りの警戒は続けてほしかったが。
「なんだよ、それ。……なんなんだよ!!――うおっ!?」
優翔が今までにない大声を上げ、自分でもその音量に驚いて慌てて口を塞いだ。
人工物が一つとして視界に入らないの空は吸い込まれそうなほど青く、白い雲がゆっくり流れている。
聞いたことのない鳥の鳴き声が遠くで響くだけで、優翔の声に反応して魔物が寄ってくる気配はない。
「……大丈夫そうね」
「うん」
ホッと胸を撫でおろす沙織と、沙織の服の裾を掴んだままキョロキョロと不安げに辺りを見渡す瑞葉を見て、優翔は気まずそうに呟いた。
「……ごめん」
素直に謝罪する息子に穏やかに微笑む沙織。
「お父さんに言いたいことがあるんでしょ?」
「……別に」
「そんなこと言ったって、言いたいことを我慢してる時の顔、昔から変わらないわよ。ねえ、あなた?」
「あぁ。唇の左端が固まるやつな」
「……なんだよ、それ?」
「何だ、知らなかったのか? 優翔は言いたいことを我慢する時に、唇の左側に力を入れる癖があるんだよ」
「そうそう。小学校の時に朝こちらを見て、ずっとその顔しているの。理由を聞いてもなかなか教えてくれなくて、着替えも自分で済ませていて『早くお着替えできるのね』って話をしてたら、モジモジしながら寝室を指さしてね。実は『おもらし』――……」
「――っ! あああーっ! わかった! わかったよ! 話す、話すからそれ以上言わないでエエエッ!!」
真っ赤になった優翔が両手を前に突き出し、必死に訴える。アニメなら背景にガーンという効果音が背負わさる勢いだ。
仕事にかまけてすれ違っていたが、こういう癖は幼い頃のままで、甘酸っぱい思い出だ。
「それで? どうするの? このまま飲み込むのかしら?」
「分かったよ……少し、いいかな?父さん」
軽く息を切らした優翔は、赤みが引かない頬のまま固く結んだ唇を震わせ、俺を真っ直ぐに見つめた。
「……父さんはずるいよ。異世界に来たからって、急に『家族力』とか『ホウレンソウ』とか言い出して……当たり前の顔をして父親ぶらないでくれよ!」
「……」
「転職してからはいつも疲れた暗い顔して、僕たちが話しかけても生返事ばかりでさ! ずっと向き合ってこなかったのに、今更『みんなで協力しよう』なんて都合がよすぎるよ!」
「お兄ちゃん……」
「父さんたちが必死に働いてくれたのは知ってる! 塾に通わせてくれたことは感謝してるよ! でも……今はさ、学校の偏差値とかSNSの『いいね』の数とか、どこに行っても数字で比べられて。…… だからこの世界でステータスが出た時、『これで僕も家族を守る戦力になれる』って思ったんだよ!」
「優翔……」
「なのに! なんで妹の瑞葉の方が期待値が高いんだよ! その上、父さんに『数字なんて気にしない』なんて言われたら、僕が長男として必死に背伸びしてきた意味がないじゃないか!!」
いつの間にか定位置のポケットの縁を握りしめる優翔の拳は震えていた。数字に追われる現代で、それでも「長男として家族の役に立ちたい」と必死に強がってきた息子の切実な叫びだ。
「……ごめんな、優翔。父さんは仕事に疲れて現実から逃げて、一番大切な家族の顔を見ていなかった。本当に……すまなかった」
俺が深く頭を下げると、優翔は絶句した。




