第14話裕翔ステータススキル
ステータスの数値だけでは強さの基準が測れないと判断した俺たちは、続いて『スキル』の項目へと視線を移した。
未知の魔獣から家族を守るかのように、俺と二人で母と妹を挟むような位置に自然と立つ息子。
いつの間にか大人びたその視線が、かつて買い与えたゲームに誘われた時に、「疲れているから」と素っ気なく断ってしまった日の冷めた視線を思いださせる。
胸の奥のわずかな痛みに目をつむり、俺は頷きながらステータス画面を切り替える。
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◇ステータス:スキル/加護◇
名前:中伊達 裕翔
44歳
戦闘スキル
★☆☆☆射撃……投石/弓/(ガス噴霧)等の命中率10%上昇。ダメージ量10%上昇
魔法スキル
発現なし
生活スキル
発現なし
ユニークスキル
★★★★鑑定……触れたり、有効視界に入ったものの価値や能力などを判別できる。使用者の知識が精度や表示内容に深く影響する。
固有スキル
★★★★★博識……異世界で所有していた知識と同等のアランシアでの知識を得ることができる。
加護
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これはなんとも……
「パッとしないね。戦闘には役立ちそうもない地味なキャラ……特殊なスキルはあるけど、なんだかモブっぽいね」
「……」
自分でも思っていたが、メンタルを抉るような娘の発言に言葉を失っていると、見かねたのか息子がフォローに入ってきた。
「……けど、遠距離攻撃の補正があるのは、まぁ良かったんじゃない。鑑定は戦闘には直接の効果はないかもしれないけど、この見知らぬ土地でのサバイバルスキルとしては、かなり有用になると思うよ」
反抗期に入ってから家では口数が減り、俺とどこか距離を置いていた息子が、こうして不器用だが人を思いやれる言葉をかけてくれる。「魔物と戦うための力」を求める切迫感の中でも失われない、その優しさは、心の傷口にじんわりと染みた。
「あぁ、ありがとう優翔。確かに鑑定は、俺も有用なスキルだと思うよ。『射撃』は正直、直近では役に立つか分からないし、将来的に必要になるかの判断には困るけどな」
「でも『博識』っていうスキルはあなたにピッタリだと思うわ。昔からクイズとか雑学とか得意だものね」
俺を元気づけようとしてか、沙織の口調はやけに明るい。昔、夕食を食べながらクイズ番組を観ていた時、俺がボソッと答えを言い当てていたのを覚えていてくれたのだろうか。昔から俺のボソッと言う雑学や分析を沙織はいつも面白がってくれていた。
「ありがとう。俺も『博識』には可能性を感じているんだ」
「うん! お父さんの知識が武器になるなら、心強いよね!固有スキル持ちなら、ゲームでもネームドキャラだし……」
自分の発言が一瞬家族に波風を立てたことに気付いた瑞葉が、慌ててフォローをしてきた。悪気なく空気を読まないところはあるが、我が娘は、やはり良い子なのだ。なにも親に都合のよい子である必要はない。
いつどこから猛獣や魔物が飛び出してくるか分からない異世界だ。曖昧な記憶や感覚に頼る余裕はない。スマホのバッテリーも可能な限り残しておきたい。その為に瑞葉にお願いをしておくとするか。
「瑞葉。お願いがあるんだ」
「なぁに?」
「瑞葉は、いつもバッグに絵を描く用の鉛筆とスケッチブックを入れて持ち歩いていただろう。そこにステータスの数値を書き写しておいて欲しいんだ」
「いいよ。でもなんで?」
そう聞き返しながら、瑞葉は手慣れた手つきで愛用の小さなリュックのジッパーを開けた。見慣れた私物用のリュックから顔を出したスケッチブックとBの鉛筆――日本でのいつもの日常を感じさせるアイテムを目にして、サバイバル生活の厳しい現実の中に張り詰めていた空気がほんのわずか和らぐ。
「レベルアップの法則や、初期数値に個人差や年齢差があるのか、判断材料となるデータベースを作りたいんだ。今、レベルアップをしているのはお父さんだけだ。このことはマイナスであるのと同時に、幸運でもあるとお父さんは思っているんだ。スマホのバッテリーは残しておきたいから、手書きでお願いするよ」
「……そういうことか」
優翔は聡い、気が付いたみたいだな。
日本で暮らしているなら俺が口出しすることなんか何もないんだが。この世界では、そうはいかないだろう。俺に何かあれば、家族三人で生きていかなければならない。そうなれば優翔の賢さは家族の命綱になるかも知れない。
俺の視線と優翔の視線がぶつかる。互いに不器用で微妙な距離感は残ったままだが、いつ魔獣に襲われても家族を守らなければという緊張感だけは確かに共有していた。
「同年代でレベル1の母さんの能力値で、レベル1時点の父さんの能力値を予想したり、年下の俺や瑞葉の能力値を確認することで人生経験がどう能力値に反映するのかを検討したり、レベルアップ毎の能力値の上昇を予測したりするつもりだろ?」
「そういうことだ。――という訳で皆のステータスを見せてもらいたいんだが、いいかな?」
「私は構わないわ、分からないことだらけだから、皆に確認して欲しいくらいよ」
「うん。自分のステータスが見られるなんてワクワクするよ」
「おそらく父さんとパーティーを組まないとステータスを見ることはできないだろうから、仕方ないね」
山から高原へと吹き抜ける風はひんやりしおり、容赦なく体温を奪う。
風を受けた草むらの奥でふたたび何かが動く気配がした。
家族全員で固まるように身を寄せ合い、それをやり過ごす。
何事もなく時間だけが過ぎていく。
しばらく様子を見て安全だと判断した俺は、皆の了解を得て個々のステータスを表示していくことにした。




