第13話裕翔ステータス能力値
俺の「ステータスオープン」の掛け声と同時に、視界の正面に人工的な表示画面がポツンと浮かび上がった。
普段から手元でスマホをのぞき込むのと変わらないサイズ感のため、思いのほか視覚的な違和感はない。
だが、何もない空中に浮かぶスクリーンは、漆黒の背景でありながらも背後の広大な高原を薄く透過させており、まるで近未来のARデバイスでも見ているかのような強いSF感を抱かせた。
「なんか、周りとのギャップが凄いね」
「うん。ゲームならカッコいいけど。現実だとね」
「昔のゲーム画面に似てるわね」
家族の反応は様々だ。
「皆問題なく見えているようだな。念の為、俺の個人ステータスを一段ずつ順番にで読んでいこう。先ずは俺からだな……」
その後全員で読み合わせたが問題はなく、しっかりと情報が共有されていることが確認できた。
俺の能力者は以下の通りだ。
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◇ステータス個人:能力値◇
名前:中伊達 裕翔
44歳
職業:未設定/非認証 レベル:9
HP : 104
MP : 123
力 : 52
体力 : 43
素早さ : 46
器用さ : 43
賢さ : 59
運 : 38
攻撃力 : 111+15
防御力 : 97+6
武器 E 異世界の毒矢+15
※特殊効果:状態異常、錯乱
防具 E 異世界の服+2
防具 E 異世界の靴+3
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「よくわかんないね」
瑞葉の呟きに俺は大きく頷いた。
自分自身、ステータスを見た最初の感想もまさに「よくわからんな」だった。
ステータスの画面越しに透けて見える異世界の高原は、どこまでも美しいが同時にどこまでも不気味だ。冷たい風が吹き抜けるたび、背の高い草むらがガサガサと音を立て、遠くで鳥とも獣ともつかない鋭い鳴き声がこだまする。ついさっき命がけで猛獣を退けただけに、俺の手にはまだかすかな緊張の残滓があった。
「瑞葉の言う通りだ。ゲームごとに能力値の設定はかなり差があるからな。果たしてこの能力値が高いのか低いのか判断のつけようがない」
「どういうことかしら?」
背後を警戒するように身を寄せ合っていた沙織が、首を傾げて尋ねてくる。
彼女の表情には、まだ「未知の感染症や野生動物の襲撃」といった現実的なトラブルの延長線上としての不安が見え隠れしており、ゲーム的な「数値」が持つ危険度がいまいちピンと来ていない様子だ。
その言葉を聞いて、優翔が俺の方へ視線を送ってきた。
ポケットの縁を力任せに握り締め、周囲の草むらから異形が飛び出してこないか警戒の視線を走らせながらも、『父さんから説明してやれよ』と言わんばかりの冷ややかな、しかしどこか照れくささを感じさせる複雑な眼差しだ。
自分で説明するのではなく、俺に説明をしろと役割りを振ってきた――それも悪くない。一人で抱え込んで勝手に話を進めるよりは、こうして問いかけに答える方が余程マシというものだ。
「沙織も昔、ド◯クエはやったことがあるって言ってたよね?」
「えぇ、私よりも兄が滅茶苦茶ハマっていたから、プレイしたことよりも観てた記憶の方が強いけど」
「その時のステータスって覚えている?」
「なんとなくだけどね。戦士や僧侶、武闘家……職種でかなりばらつきはあったけど確か、力が200を超えたら、かなり強くなったって喜んでいた記憶があるわ。……だから今のあなたのステータスを見て、レベル9にしては高い数値だと思っていたのよ」
レベルが上がって喜ぶ幼少期の沙織の姿は一度見てみたかったな。 ほんの一瞬、仕事で遅く帰ってきたとき、リビングで家族が笑っていた記憶がよぎる。あの輪にうまく入れなかった俺だったが、あの時も家族には、そんな光景が広がっていたのだろうな。
「あぁ、沙織がそう思うのも無理はないよ。だけど、そこに大きな落とし穴があるかもしれないんだ。俺たちが夢中になった時代のRPGって、データ容量の限界もあって『レベル上限は99』『能力値の最高は255』なんてのが主流だったろ? その物差しで測れば、レベル9で力が「52」で賢さご「59」っていう俺の能力値は、転移直後としては破格の強さに見えるよな」
大きく頷く沙織。対照的に、ピンとこない様子で首を傾げる瑞葉。
こうやって並ぶとやはり母娘だな。雰囲気や首の傾げ方までよく似ている。
「だが、今のゲームは昔と比べものにならないくらい容量が大きくて、ゲーム性も複雑になっている。キャラクターの差別化や、やり込み要素のために、ステータスの限界が昔より遥かに高く設定されているんだ。つまり、この世界の『強さの物差し』が分からない以上、この平均値「46.8」が高いのか低いのかは判断できないんだ。――瑞葉、最近のゲームだとステータスの限界ってどれくらいなんだ?」
「んーとね、お父さんたちの世代から続く定番RPGならレベルは『99』で能力値は『999』が限界だけど、装備やアイテムで実効値は1000を越えるよ……最近のソシャゲとかアクションRPGだと、HPや攻撃力が万単位まで上がるのも普通だよ? ダメージなんて億を超えたりするし」
広大な高原の恐怖を紛らわせたいのか、あるいは久しぶりに夫婦の会話に参加できることが嬉しいのか、瑞葉からはやたら元気な返答があった。しかし、握りしめた小さな拳は固く強張っており、強がりの裏にある不安が見え隠れしている。
「999……1億……それは、ねぇ」
沙織が小さく息を飲んだ。「自分たちの命運に関わる数値」に広大な基準差があると知り、事態の異質さに気付いたようだ。
「最悪の事態として、俺は弱いと想定して行動をするべきだ。結局、姿を見ることはなく、レベルアップの通知で名前を知ったグレートボア。そいつを倒してレベル9まで上がってこの数字なら、この先もっと強い魔物に出くわしたらどうなるか……。まぁそのあたりの、この世界の設定を考えるのは、ステータスの続きを見てからにしよう」
「そうだね。スキル……ある意味、そっちのほうが重要かもね」
周囲の警戒を怠らず、視線を鋭く巡らせている優翔の呟きが耳に入る。
俺は頷き、視界に浮かぶスクリーンの『スキル』タブへと意識を向けた。




