第12話 パーティー登録
【瑞葉からのパーティー申請を承認しました】
【瑞葉がパーティーメンバーに登録されました】
広大な高原に不似合いな電子音が脳内に響き、瑞葉の体が柔らかい光に包まれた。
「み、瑞葉、大丈夫か!?」
「瑞葉!?」
「すご〜い。光ってるけど熱くもないし、大丈夫だよ」
驚く沙織たちの前で、光は淡く消え去っていく。瑞葉は沙織たちの慌てように比べると、意外にも落ち着いている様子だった。
「ステータスが見えるとか、メッセージが届いているとか、何か変化はないか?」
「うーん。何も感じないよ」
「そうか」
俺と瑞葉のやりとりを、混乱の治まった沙織と優翔が息をのんで静かに見守っている。
「そう言うお父さんは?私をパーティーに入れて、何か変化あったの?」
「あぁ、あったぞ。俺の視界の端に、瑞葉のステータス画面が見えるようになったぞ」
「「「えっ!?」」」
「私のステータスが見えてるの!? ねぇ、教えて! 早く教えて!」
静寂が支配する高原の真ん中で、全員が言葉を失う中、いち早く我に返った瑞葉が目を輝かせて迫ってきた。
目にも鮮やかな異界の景色にどこか気圧されていたはずが、『ステータス』という言葉ひとつでこの現金な食いつき様である。苦笑交じりの呆れを覚えつつも、そんな姿をどこか愛おしく感じてしまうのは、父親ゆえの甘さだろう。
周囲への警戒は一瞬たりとも解けないが、かといって張り詰めっぱなしの糸は容易に切れてしまう。ゲーム好きな娘が見せた年相応の無邪気さは、重苦しかった空気をかすかに解きほぐしてくれた。
その事に俺はほんの少しだけ胸を撫で下ろす。とはいえ、見通しの悪い草原で悠々とステータス画面を検分している余裕など、今の俺たちにはない。
「ステータスの確認は後からにしよう。まずは全員のパーティー登録と、登録解除の確認が先だ」
「ちぇ〜」
瑞葉は口を尖らせたが、それ以上の我儘を言わなかった。
「よし、次は『脱退』のテストだ。瑞葉、俺がパーティーから脱退させる操作をしてみるから、何か感じたら教えてくれ」
「うん、分かった」
俺が意識の中で瑞葉の脱退を試みると、すぐに瑞葉が「あっ!」と声を上げた。
「きたよ! 【パーティーから脱退するように指示が来ました】って出た! それから【はい/いいえ】のボタンが出てる!」
「よし、取り敢えずその指示は『いいえ』でパーティー脱退をキャンセルしてくれ。今度は瑞葉の方から、自分から脱退するイメージを意識してくれるか?」
「うん、分かった。……むぅ〜」
瑞葉が唸りながら念じると、間もなく俺の視界に通知が現れた。
【瑞葉がパーティー脱退を希望しています。脱退させますか?】
【はい/いいえ】
俺は意識で『はい』を選択した。
【瑞葉がパーティーを脱退しました】
通知とともに瑞葉のステータス表示が消える。脱退の手順は、あっけないほどスムーズだった。
検証に手間を掛け過ぎだ、時間を取り過ぎだと、優翔に責められるかと思ったが、そんなことは無かった。文句を言うよりも話を早く進めたいという判断だろうか。
仰々しく面倒くさくとも、ここを簡略化しなくて正解なはずだ。『天災は忘れた頃にやって来る。人災は起こるべくして起こる』というやつだ。
見知らぬ異世界で家族をそんな悲劇に遭わせないためにも、俺はこれからも意思疎通と確認を徹底させるつもりだ。
「よし! 登録も解除も問題ないな。沙織、優翔、二人も順番にテスト承認をしよう」
そして――
【沙織がパーティーメンバーに登録されました】
【沙織がパーティーを脱退しました】
【優翔がパーティーメンバーに登録されました】
【優翔がパーティーを脱退しました】
――家族全員のパーティー入隊と脱退は実にスムーズに行うことができた。
安全性が確認できたところで、俺は改めて家族全員を正式にパーティーへと登録した。
家族全員の登録を終えると、頭の中で聞き慣れた電子音が鳴り、新たな通知が視界の端に浮かび上がった。
「新たな通知《【New!】》が出たよ」
「内容は?」
優翔の問いに意識が表示に向かう。すると視界に黒い四角い表示面が浮かび上がった。見慣れつつあるその表示面には、白い文字で【パーティーメンバーが確定しました(4/6)】とあり、その文面の下には白い矢印が出ている。その矢印に意識を向けると……既存の黒い四角の手前に新たな表示面が展開された。
【取得条件を達成しました】
【パーティースキル:ミニマップが発現しました】
↓
【取得条件を達成しました】
【ファミリースキル:中伊達家が発現しました】
「スキルが発現したらしい。パーティー スキルで『ミニマップ』とファ……」
「わあ〜! あると便利だよね、ミニマップ!どんな感じに見えるの?」
俺の視界の左下には、半透明の円形マップがふわっと広がり、家族四人の位置を示す緑色の光がポツポツと灯っていた。
「瑞葉……父さんの話の途中だぞ。慌てずに最後まで聞けって」
「え?そうだったの?ごめん。あったら良いなと思っていたスキル?機能?だったから」
「まぁ、性能の検証は必要だけど、確かに便利そうだよな……って、ごめん、父さん。話を続けて」
「あぁ」
思春期、反抗期に入ってから俺の話なんか聞きもしなかった子供が真剣な表情でコチラを向いている。密かに感動していると、沙織がチラッとコチラを見て笑っている。それが気恥ずかしく、俺はそのまま 話を進めた。
「 『ミニマップ』は瑞葉と優翔は知っているみたいだな。おそらくその予想で合っているよ。それとは別にファミリースキル で『中伊達家』というのが出たんだよ」
「「「中伊達家?!」」」
「あぁ。我が家の苗字『中伊達』と同じ文字で表示されたよ」
「なんだよ『中伊達家』って……」
「ってか、そもそも『ファミリースキル』ってなんなのかな?」
「正直、俺にはさっぱりわからん」
「3人がわからないんじゃ、私はお手上げね……」
「でも――登録しただけでスキルが発現するなんて私達って、チートパーティーなんじゃない?」
瑞葉が嬉しそうに声をあげる。優翔は周囲の警戒を怠らない姿勢を取りつつだが、その表情を少し柔らげ頷いた。
「悩んでいても仕方ない。皆のパーティー登録も済んだし、ステータスとスキルの確認をするとしよう。皆準備はいいか? ステータスが表示されても周りの警戒は怠るなよ」
「うん!」
「あぁ」
「わかったわ」
「それじゃあ、いくぞ。――ステータスオープン」




