第10話 子の成長
「えっ……? パーティー申請……!?」
俺の呟きに、全員の視線が一斉に瑞葉へと注がれた。
当の本人は目を見開いて固まっている。
「なんだよ瑞葉、父さんとパーティーを組むだなんて。いつの間に、そんな事出来るようになったんだよ!」
自分だけ蚊帳の外に置かれたような焦りからか、珍しく妹に荒々しい感情をぶつける優翔。
「自分だって家族を守るために警戒していたのに」という苛立ちと、凶暴な魔獣が潜むこの世界で、自分だけが何もできていないという焦燥感が言葉に滲み出ている。
泣き出しそうな娘が心配になり、二人の間に入ろうとした俺だったが、着ているシャツの裾を横からすっと引っ張られ、動きを止めた。
振り向けば沙織が首を横に振って、俺を静かに制していた。
異世界のシステムや魔獣の存在自体にはまだ実感が湧いていない沙織だったが、我が子たちの心の機微には誰よりも敏感だった。
今は子供たちの本音を聞くべきだと、目で伝えてきている。
「私はただ……お父さんが固まってブツブツ悩んでたから、手助けをしたいって思っただけだよ。この異世界が、私の知っているような設定なら――英雄召喚だったら無双出来るけど、どう見たってお父さんは英雄や勇者じゃないでしょ。どう見たってお父さんはモブじゃん!何を考えたって巻き込まれ案件じゃん!! こんな怪物がいるような危険な場所で……ちょっとした事で……死んじゃうかも知れないんだよ。そんなの嫌だよ……だから私の知識が役に立つなら手助けしたいって思っただけだよ……グスッ……」
気付けば瑞葉は涙声になっていた。
瑞葉は瑞葉なりに今の状況を考えて、俺の心配と自分が出来ることを考えてくれていたんだな。
未知の世界への恐怖に震えながらも、生き残るために必死で父親を支えようとしてくれていた。まだ子供だとばかり思っていたが、俺の中学二年生の時よりも、よっぽど大人だ。
まぁ今回のモブ扱いは、水に流すとしよう。
「……ごめん。悪かったよ。自分が知らないところで話が進んでるみたいで……悔しかったんだよ」
ぽつりと漏らし、妹に素直に頭を下げる息子を見て安心した。警戒心を極限まで高めていた優翔も、妹の本気の恐れと父親を想う気持ちに触れて、自分の焦りを反省したのだろう。こっちも俺が高校一年だった時よりも、よっぽど大人だ。
こんなにも真っ直ぐで優しい子達に育ってくれたなんて、驚くを他はない。
仕事にかまけ、子育てを疎かにしていた俺に代わって、ずっと子供たちに向き合い続けてくれた沙織。彼女が一人で育て上げてくれたのか……。さっきだって二人の遣り取りを冷静に見る判断を下したのは沙織だった。
背後でぎゅっとシャツを掴む沙織の存在感を近くに感じながら、俺は静かに呟く。
「ありがとう、沙織。いい子たちに育ててくれて」
シャツを掴む指が、返事のかわりにわずかに強くなるのを俺は感じた。




