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書類仕事の合間に、紅茶を嗜んでいたアーロンは、窓の外から聞こえる小鳥たちの囀りに耳を澄ませ、癒されていた。
そんなとき、気配を感じると、ノックの音がした。
「どうぞ」
普通に扉を開けて入ってきたのは、森影のリーダー、ジャックだった。
「久々ですね、主」
「元気そうだな、ジャック。まだ、ギャンブル癖は治らないのかな?」
「あー、この前、嫁さんを貰ってからはやってないです」
「ええ!!?ジャック結婚したの!?しかも、ギャンブル癖が治っている……うわーリア充になったんだ……」
「りあじゅうが何なのか分からないですが……まあ、幸せってこういうことなんだな、って俺にも分かりました」
「ジャックがまともなことを言っている……なにか結婚祝いを贈るよ。何が良い?」
「あー、できれば主のスキルでエメラルドとトパーズを作って欲しいんです。嫁さんの目の色が緑で、俺がオレンジっぽいから、二人の色の宝石でお揃いの装身具を付けたいんですよ」
「わあー青春っていうかなんというか、幸せそうだねぇ。分かった、作ろう」
アーロンは石の王で大粒のエメラルドとトパーズを幾つか作ってジャックに渡した。
「サンキュー、主。あ、そうそう、言い忘れてたことが」
「なに?」
「南の侯爵家が反乱起こしたって。こっちに来るのは一か月後くらいですね」
「ああ、知ってる(マップ見れば一目瞭然だし)。森影たちも反乱軍の近くにいるみたいだね」
「主はなんでもお見通しですね~」
「でも分からないこともあるよ?」
「なんですか?」
「森影でも始末できなかった家があったんだね」
「ああ、反乱軍を率いてる侯爵が脳筋でさ、前の皇帝に忠誠誓ってるけど、領民には慕われてたんですよ。こいつ殺しちゃうと領民が反アーロン派になりそうだったから、行くとまで行って、大義名分がこっちにある状態にしたかったんですよね~」
「ふうん?ジャックにしては考えたね」
「え?俺は考えてないですよ?」
「ん?誰が考えたの?」
「副リーダー……俺の嫁さんのアンですね」
「ああ、なるほどね」
「そこで納得されるのも何か悲しいです」
ジャックは泣き真似をした。
「はいはい、ジャックも賢い賢い」
「投げやりすぎないですか~、主」
「そう?ごめんね。さて、僕は準備するよ」
アーロンはそう言って立ち上がった。
「迎え撃つ準備ですか?」
「んー、ちょっと違うかな?」
「というと」
「一ヶ月もあるんだ。僕たちが向かっても良いだろう?」
「そうっすね」
「じゃあ、ジャックはいつも通り、自由にしてていいよ」
「反乱起こってるときに、良いんすか?」
「適材適所って言うでしょ?ジャックは自由にしてるときが一番パフォーマンスが良いから、そのままで良いんだよ」
「俺の事よく分かってますね、主~。一生付いて行きますよ!」
「調子良いなぁ。じゃあね」
「はい、失礼します」
ジャックはアーロンの部屋から消えるように出て行った。
「相変わらず気配を消すのが上手いな……。さて、僕も行くか」
アーロンは反乱軍を討つ準備をすべく、部屋を出た。
三日後、王都にいる騎士団や貴族たちに命じて、兵を王都の外に集めさせたアーロンは、用意された台に上って、演説を始めた。
「やあ、みんな。集まってくれてありがとう。僕たちは今から反乱軍を迎え討つために行軍することになる。行軍と言っても、僕の能力であっという間に転移することができるから安心して欲しい。じゃあ、行こうか」
アーロンはそう言って、ガイドにお願いして、アーロンと騎士団、それから、貴族の私兵たちを転移で予め決めておいた場所に移動させた。
そこは、反乱軍が王都に向かう行路の途中にある平原だ。
「じゃあ、今日はこの建物の中で過ごして欲しい」
平原には巨大な白亜の塔が建っていた。
中に入るためには専用の認識票が付いたネックレスが必要なので、アーロンと森影たちは騎士団と貴族の私兵たちにネックレスを配った。
認識票はドッグタグのようなもので、魔力を注ぐと、個人の情報が反映される優れものだ。
認識票は塔の最上階の管理者部屋で管理されており、ランクが決められている。
一番下のアイアンランクは塔の五階まで入れ、ブロンズランクは十階、シルバーランクは十五階、ゴールドランクは二十階、プラチナランクは二十五階、エメラルドランクは三十階、ルビーランクは三十五階、サファイアランクは四十階、アレキサンドライトランクは四十五階、ダイアモンドランクは五十階、それ以降は管理者のみが入れる。
アイアンランクでも普通の貴族の屋敷の部屋よりも性能が高い部屋が用意されている。一階はロビーとレストランや大浴場があり、二階から四階は宿泊部屋になっている。各部屋には、魔導トイレとシャワー、お風呂が必ず付いていて、冷蔵庫には、冷えた飲み物や酒やおつまみが入っている。
五階は丸々展望台になっていて、遠くまで見ることのできる望遠鏡が付いている。
騎士団の騎士や私兵団の私兵たちは、転移に驚き、巨大な白亜の塔に驚き、その内部に驚き……驚きまくっていた。
そして、自分たちの皇帝が凄まじい力を持つ人物だということに畏怖を感じていた。
当の本人は畏怖されているなどということは欠片も思わず、人懐っこい笑みを浮かべ、騎士や兵士たちにネックレスを配っていた。
(この塔はなんて名前にしようかな……そうだ、『レアルタの塔』にしよう、このネックレスは『塔のネックレス』で良いかな)
などと、思案しつつ、アーロンはネックレスを配った。配りまくった。




