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アーロンは二神に願ったブツが入った黒いケースをヴァルトバングルの収納に入れて、別大陸から帝国に戻った。
城に戻ると、屍のようになった者が二人いた。
「アーロン様……やっと、お帰りに……がくっ」
「ああ、幻でも帰ってきてくれて、嬉しい……がくっ」
ジェイド、コリンはそう言ってアーロンの執務室で倒れていた。
「まったく、新しい仕事を持ってきたというのに情けない」
そう言いつつ、アーロンの執務室に入ってきたのは、宰相のヴィンケルだった。
二人を足蹴にしつつ、書類の束を机の上に置いた。
「起きなさい」
「バックハウス卿」
「陛下、矮小なこの身、この者たちと同じようにヴィンケルとお呼び捨てください」
「(年上を呼び捨ては抵抗あるな)あー……ヴィンケル?」
「なんなりと」
「では、その書類は僕がやります」
「それでは、この二人を甘やかすことになりませんか?」
「いや、このままだと、二人が過労死します」
「……それはいけませんね、では、陛下、私と分担して書類を捌きましょうか」
「はい」
「あと、臣下に敬語は不要ですので」
「あ……うん」
アーロンはヴィンケルと共に、書類たちと格闘することになった。
書類をなんとか全て捌き終えたのは、深夜二時頃だった。
アーロンは這う這うの体でふらふらしつつ、自室に戻った。
自室の机には森影が用意したホットミルクと新貨幣のデザインが載った書類、そして、神聖ミトス教国についての報告書があった。
アーロンは椅子に座って暖かいホットミルクを飲みつつ、新貨幣のデザインを見ていく。
どれが良いか目星は大体付けたアーロン。
次は、神聖ミトス教国の報告書を手に取った。
教皇イヴァンが宗教としての名前を十神教会から二神十王教会に変更するという改革は、各地の敬虔な信者たちに二神の啓示が降りたという証言が次々と出たことで、抵抗はあるが、進んでいる。
(僕がなにか手伝わなくても大丈夫そうだな)
十の精霊王の主になってしまっているアーロンは、イヴァンを手伝う必要があれば、手を貸すつもりだった。
けれど、報告書を読む限りは、問題なさそうなので、放置することにした。
アーロンは疲れた……、と欠伸をしつつ、寝る支度を済ませ、ベッドに潜り込み、深い眠りに就いた。
アーロンはデザイン案の中から選んだ三種類のデザインで、新貨幣である銅貨、銀貨、金貨を作ることにした。
城にある宝物庫にて、アーロンは小中大の大きさに均等になるよう、ガイドに依頼して、ガイドと共に石の王を使った。
広い空間にいっぱいになるくらい、新貨幣を作り出したアーロンはヴァルトバングルの収納に入れて、もう一度作った。
もう一度作った貨幣は国民の持っている貨幣と交換するか国の予算に使われるだろう。
宝物庫に作った貨幣だけでは足りないだろうとアーロンは思っていたので、ガイドにお願いして、いつでも貨幣が作れる魔導具も作った。
この魔導具は鉱物を入れると不純物を取り除いて、純粋な貨幣に仕上げてくれる。石の王とは違い、鉱物が必要になるのが、ネックかもしれないが。
「そんなことはありません、この魔導具は優れた魔導具です」
と、宝物庫で絶賛したのはヴィンケルだった。
「早速、ありとあらゆる鉱物を集めてきます」
「いや、最初は僕の石の王を使うから大丈夫だよ」
「しかし……陛下のお手を煩わせるのも……」
「いいんだよ、僕が始めたことだからさ」
「陛下……」
ヴィンケルは感動で目を潤ませ、アーロンを見た。
「うん……本当に気にしないで」
「かしこまりました、陛下、では、じゃんじゃん作りましょう」
「んん?」
アーロンは王城の地下にある倉庫の空いている場所にどんどん貨幣を作っていくことになった。
その過程で、ヴァルトバングルの存在を知ったヴィンケルはアーロンにヴァルトバングルを強請った。
アーロンはとりあえず収納の機能がついた簡易バングルをヴィンケルに渡し、ヴィンケルは嬉々として、作られた貨幣を収納しまくった。
そして、簡易バングルの収納がいっぱいになると、ヴィンケルは血走った目でアーロンに二つ目のバングルを所望した。
「いや、ヴィンケル、もう国家予算以上の貨幣はそのバングルに入っているから」
「しかし、もし、何かあったら……」
「大丈夫だって。そのときは何とかするよ」
「陛下……」
なんと頼もしい!とヴィンケルは感激していた。
それから、一週間後、新貨幣と国民が持っている旧貨幣の両替が始まった。
それから、一年で、新貨幣と旧貨幣の両替はスムーズに行われた。
実は、旧貨幣よりも新貨幣の方が少し大きく、純度が高いので、しばらくして、帝国の新貨幣の価値が上がったのだ。
森影が各国に潜り込んで、帝国の新貨幣と他国の貨幣を両替するときに、新貨幣について懇切丁寧に大きな声で説明して実際、鑑定して貰ったりし、その価値をじわじわと浸透させていった結果でもある。
やがて旧貨幣を使う者はいなくなった。
そして、アーロンは次の政策を行おうとしていた。




