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新帝都に全帝都民が移動したのが確認できたのは一ヶ月後のことだった。
旧帝都は誰もいないことが確認されると、アーロンの石消去や、魔法で打ち壊された。
混乱もあったが、概ね平和に新帝都は機能していた。
アーロンは次の施策である『新貨幣』を《《作る》》ことにした。
文字通り、アーロンは新しい貨幣をガイドにサポートして貰いつつ、石の王で作るのだ。
ガイドのサポートがあれば無尽蔵に金や銀、銅の貨幣を作ることができる。
何もないところから生み出せるという点を鑑みると、石の王は物凄いスキルと言えよう。
貨幣のデザインはデザインの得意なハーフリングの一人の少年に依頼してあり、二か月後に完成予定なので、アーロンはちょっと暇な時間ができた。
この時間を使ってアーロンは身分を隠して各地のダンジョンを支配下に置くべく行脚することにした。
行脚と言っても、宇宙船やら転移やらを使って移動するので、旅をしている気分にはあまりならないアーロンだった。
旅するアーロンに置いて行かれた補佐官たちは真っ青になり、泣き言を言いながら仕事をしていたとか、していなかったとか。
人族の限界であるレベル百のアーロンは、多くのダンジョンを余裕で踏破した。
そして、最後のダンジョンである別大陸のダンジョンのダンジョンコアにフユウという名前を与えて、ダンジョンを支配下に治めると、天井から光がアーロンに降り注いだ。
アーロンが眩しさで目を瞬かせていると、しばらくして光が消えた。
いつの間にかアーロンは、真っ白な空間にいた。
「ここは……」
「ここは神域。二神の空間だよ」
「え……!」
振り返ると、そこには、アーロンの先祖がいた。
ケータ・ヤマダ・ジパングことアーロンの前世の叔父、山田啓太だ。
「やあ、ようやく会えたね。僕の末裔であり、甥のアーロン君」
「えぇ?なんで、貴方が……?」
「おっと、僕は神じゃないからね?今は神様に許可を貰って君と話しているのさ」
「えーっと、啓太さんはもう亡くなってますか?」
「うん」
「じゃあ、僕は幽霊さんと話して……」
すすす、とアーロンは後退った。
「ひどいなぁ、僕はずっと君のことを待っていたんだよ?」
「え?」
啓太は微笑む。
「僕ができなかった魔王討伐を成してくれて、ありがとう。心よりの感謝を」
啓太は深々と頭を下げた。
「わわ、頭を上げてください!叔父さんというか、ご先祖様に頭を下げられると落ち着かないです」
「はは、そうか。ごめんごめん。でも、本当にありがとう。僕はそれが言いたかったんだ。あと、シークレットスキル【ガイド】の使い勝手はどうかな?」
「え?勿論、凄く役に立ってます。えっと、ガイドは叔父さんが関係しているんですか?」
「ん、ああ、そうだな。僕がこの神域に来た時、僕に宿っていた二神の力は二神の元に戻っていたんだ。その力をアーロンに宿らせたいけど、具体的にどんなスキルが良いか?って聞かれてね、僕がアドバイスしたんだよ。それから、僕に宿っていた力が、アーロンの魂に宿ったんだ」
「えぇえー、そうだったんですね……。確かに、ガイドって普通のスキルじゃない感じだったけど、叔父さんに宿ってた神の力だったんですね」
「うん、さて、そろそろ叔父さんは輪廻の輪に戻らないといけない。長いこと神域にとどまってしまったからね。早く転生しないと人の枠から外れてしまう」
そう言うと、啓太の身体は薄くなっていく。
「二神が送ってくれるようだ。じゃあ、アーロン、達者でな」
「はい!啓太叔父さん!良い転生を!」
「ありがとう」
啓太はどこかに消えた。輪廻の輪に入ったのだろう、とアーロンは思った。
しばらくすると、二つの光が天から降ってきた。
男女の形を形成すると、光が弾ける。
そこには、白く長い髪と浅黒い肌の美男と、金色の長い髪と白い肌の美女がいた。
「よく試練を乗り越えた、アーロン。我が名は、デミウルゲイン。創造を司る神だ」
「私の名は、アルヒ。力を司る女神よ。よろしくね」
「?女神様も創造を司るのでは?」
「私は、全ての力の源なのよ。その力を使って、デミウルゲインは創造をしているの。魔力がなければ魔法が使えないようなものよ」
「そう、なんですね。ではアルヒ様がいるから、この世界は成り立っているんですね」
「うふふ、そうよ」
「……我だって凄いのだぞ」
「まあ、うふふ……デミウルゲインも素敵よ」
アルヒはデミウルゲインの頬に口付けた。
「そうだな、アルヒも素晴らしい」
デミウルゲインはアルヒの頬に口付ける。二人はしばらくいちゃいちゃしていた。
「あのーー……」
「あ。すまなんだ、客人がいるというのに」
「ふふ、ごめんなさいね」
「いえ……」
二神の仲が良いことは世界の平和につながることだと、アーロンは思ったので、深くツッコミは入れなかった。
「さて、アーロン。ダンジョンを全て支配下に治めるというミッションのクリア、おめでとう。アーロンの支配下にダンジョンがあることで、君が生きている間は、アーロンを通してアルヒの力がダンジョンを調和するだろう。それにより、数万年はスタンピードも起こらないだろう」
「!スタンピードが起こらないんですか」
アーロンはエレツ王国の歴史書で、百年前くらいにスタンピードが起こって甚大な被害があったという記述を思い出した。
スタンピードが起こらないなら、その方が良い、とアーロンは思った。
「ああ、アーロン、君の功績だ。……その功績により、願いを一つ叶えよう。何か望みはあるか?」
「……えーっと、今思いつくことがないのですが……」
「何でも良いぞ。そうだな、アーロンの前世の世界、日本に戻りたければ、戻ることもできる。その場合は、アーロンの姿のままだが」
「ここで願わなければ、日本には一生帰れませんか?」
「いいや?」
「……なら、今は帰りません。僕には、この世界で、やることがありますので」
「ならば、他に願いはないか?」
「そう、ですね……では」
アーロンは願いを言うべく口を開いた。




