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翌日、会議で大臣たちに反対されることなく(アーロンが前皇帝を成敗したことに恐れている部分がある)、無事に議案を通した。
宰相であるヴィンケル・バックハウスは前皇帝に不満爆発一歩手前だった為、帝国を良くすべく、動いているアーロンにかなりの好感を持っているので、反対することはなかった。
議案を通したアーロンは帝都の民に公示を出した。
一か月後の新帝暦一年植月一日に新たな帝都を創りだし、移動を始めると。
ちなみに、新帝暦というのは、アーロンが皇帝になって帝国の暦が変わったのだ。
晴風月だが、これは五月を指す。
レアルタ帝国では、エレツ王国とは月の名前が違うのだ。
下記が、レアルタ帝国の月の名前だ。
一年の始まりである一月が、新月。
二月が雪溶月。
三月が花咲月。
四月が植月。
五月が晴風月。
六月が雨降月。
七月が初夏月。
八月が陽炎月。
九月が夜長月。
十月が秋月。
十一月が雪待月。
十二月が深雪月。
植月は帝国では一番天候が安定している時期だ、この月に帝都を移動するのは理にかなっていると言えよう。
まず、アーロンは宇宙船に帝都の民を五万人を乗せるべく、戴冠式の日に用いた魔導具──上映魔導具を使って帝都民に説明し、森影らによって、各街区の民を宇宙船に移動させるべく、小型宇宙船に乗せた。
ここで宇宙船について説明しよう。
アーロンはヴァルトにいた頃、石の王とガイドを使って超巨大宇宙船を作っていた。
ヴァルトの上空にずっと漂っていた宇宙船。
住民大移動の時に役に立つだろうと、アーロンはレアルタ帝国に持ってきたのだ。
そして、小型宇宙船に乗って超巨大宇宙船にやってきた五万人は超巨大宇宙船の下の階の全方位が窓になっている超広いエリアから眼下を眺めた。
そこには、美しい惑星と宇宙が広がっていた。
アーロンは、超巨大な宇宙船の上階で宇宙を眺めながら、思った。
(この世界、天文学があまり発展してないから、天動説が主流だし、この星が丸いということも知られていない。王や貴族は自分の国や領土を統治するのにいっぱいいっぱいだし、国民も生活でいっぱいいっぱい。いつかコルペルニクスやガリレオのような天文学者が現れれば地動説が主流になるだろうし、コロンブスのような航海者が現れれば、新大陸を発見して、世界が広がるだろう。トスカネリのような天文学者・地理学者が現れれば世界球体説みたいなのを説いてくれるだろう。もしかしたら、今日、この宇宙船に乗った人の中から現れるかもしれない)
アーロンは自分自身が地動説や世界球体説を唱えるつもりはなかった。そのような時間がないためだ。
(いつか、僕が生きている内にそんな学者が現れれば、支援しようかな)
と思いつつ、アーロンは宇宙船を操作して、レアルタ帝国の近くの映像を表示させた。これは、全ての帝都民も見れるようにしている。
映像を通して、アーロンはガイドと協力し、石の王で新しい帝都を作り上げた。
元々の案の通りに作り上げるだけだったので、あっという間の出来事だった。
そして、帝都の民は呆然としたまま、新しい都市に移動することとなった。
暴動も騒ぎも起こらずにスムーズに民が移動できたのは、彼ら全員が呆然としていたお陰かもしれない。
いきなり宇宙船に乗せられて、世界は丸かった、そして宇宙があることを見せられた彼らが呆然としていたのは仕方のないことだ。
「流石、アーロン様、帝都の民はアーロン様の偉大さを身に染みて理解したことでしょう」
リートがアーロンを褒め称える。リートはアーロンを崇拝しているので、いつものことだ。
「あはは、ありがとう」
アーロンの新しい執務室の扉がノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのは、宰相のヴィンケルだった。
「失礼します」
「どうしたんですか?バックハウス卿」
「どうしても陛下に尋ねたいことがございまして……」
「いいですよ。聞きましょう。座ってください」
アーロンはソファーに座るよう、ヴィンケルを促した。
「それで?聞きたいことというのは……」
「その、先程乗らせていただきました乗り物とそこから見えました世界について教えていただきたいのです」
「ああ……良いよ」
長くなりそうな予感を感じつつ、アーロンは頷いた。
「まず、乗り物は宇宙船というもので、この星……私たちが今いる大地のことだけど、大地は球体なんだ。それを星または惑星と私は呼んでいる。惑星の外で我々は生きていけない。惑星の外は宇宙空間となっていて、呼吸ができないから。宇宙空間を移動するために、私はあの宇宙船を作ったんだ」
「……なる、ほど。私にはさっぱりですが、アーロン様が偉大なことを成したということは分かります。して、その宇宙船でアーロン様は何をなさるのですか?」
「……世界の境界を越えられないか、つまり、次元を越え、別の世界に行ってみたいんだ」
あわよくば、地球のある世界に行きたいとも、アーロンは思っていた。
アーロンの故郷は地球だ。故郷に帰りたいと思うのは、普通のことだろう。
「別の世界……そこに行かれたら、この世界に戻って来れるのですが?」
「……それは分からない。だから、今は試さない」
この星でやらなければならないことを全て成していないとアーロンは思っている。だから、帰らないのだ。
「良かったです。アーロン様が今、いなくなってしまうと帝国が混乱してしまいますから」
「うん、そんな無責任なことはしないよ」
アーロンはそう言って微笑んだ。
「いつか、アーロン様の願いが叶うことを、私も願っています」
「ありがとう」
「では、私は仕事に戻ります」
ヴィンケルは立ち上がって、部屋を出ようとした。
「あ、そうでした、アーロン様。私はアーロン様に忠誠を捧げることにしました。齢四十を過ぎましたが、まだまだ若いつもりです。どうぞ、こき使ってください」
「あ、はい」
アーロンは唐突なヴィンケルの宣言に頷いた。
「では、失礼します」
ヴィンケルは今度こそ部屋を出て行った。
「嵐のようでしたね」
「うん……」
リートはアーロンに紅茶を出し、アーロンは紅茶を飲みつつ、頷いた。




