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晩餐会には国内の貴族や各国代表者、使節団などが参加し、笑顔の裏でお互いの腹を探り合うという攻防が繰り広げられていた。
アーロンの元に集まっているのは、これから臣下として活躍してくれるだろう、帝国の貴族たちだった。
皇帝であるアーロンに逆らえば貴族としても終わるし、命も危ないと思っている貴族が殆どだったので、彼らは媚を売れるだけ売りまくっていた。
アーロンは笑顔が引きつらないようにするのに必死だった。
晩餐会はアーロンがうんざりしてきた頃、宰相(前の帝国の頃から帝国を支えてきた宰相)が「宴もたけなわですが、うんたらかんたら」と締めくくって、解散となった。
アーロンは皇城の自室にあるバルコニーから夜の帝都を眺めていた。
バルコニーからは、帝都の街が一望でき、その夜景は美しいものだった。
今この瞬間も森影たちはこの帝国のどこかでアーロンの為にと働いている。
それを思うと、アーロンは感謝の気持ちでいっぱいだった。
森影がいなければ、この帝国がアーロンの国になるのは容易いことではなかったし、これからの革命にも森影の力はなくてはならない。
アーロンはそれを分かっているからこそ、良い皇帝として、頑張ろうと思えた。
「アーロン様」
森影のマイク・ホールがバルコニーにやってきて、アーロンに声を掛けた。
「ヴァルト領とオルジュ領ですが、本当にルーカス様に託されるのですか?」
「うん、もう決めたからね。優秀な補佐官たちもいるし、大丈夫だよ」
アーロンは帝国の皇帝になると決めてから、弟ルーカスにヴァルト領とオルジュ領を託すことにし、引き継ぎを始めていた。
「しかし、せっかくアーロン様が発展させたというのに、お譲りになるのは……」
「いいんだよ、弟には幸せになってほしいから。……ヴァルト領には時々帰るつもりだし」
アーロンは弟を思い浮かべ、優しく微笑む。
「……そう、ですか。アーロン様が満足されているなら、私がこれ以上言うことはありません」
「うん、ありがとう、マイク」
「失礼します」
アーロンはマイクが離れた場所で護衛に戻るのを気配で感じ、バルコニーから星空を見あげた。
(これからは、この帝国を通して、色んな人を幸せにできたら良い。昔のヴァルトみたいに貧しくて苦しむ人を少しでも減らせたら、それが一番だな)
アーロンはそう思いつつ、空の《《向こうにある、とあるモノ》》に思いを馳せる。
(ヴァルトからは、最高傑作を持ってきたけど、ちょっと過剰だったかな……ま、あるものは使え、が前世の実家の家訓だったし、使えるモノは使わないと……)
と思いつつ、アーロンは部屋に戻って、寝ることにした。
翌朝、支度をさっさと済ませたアーロンは部屋に運ばれた朝食を食べて、皇帝の執務室にやってきた。
執務室では、昨夜から働いていた補佐官二名が屍のように転がっていた。
「おーい、ジェイド、コリン……大丈夫か?」
補佐官の一名はアーロンの学友のジェイド・フォン・リバーズ。エスト公爵令息だ。
ちなみに、アーロンとジェイドはシェードの計らいで学園を飛び級して卒業したことになっている。
もう一人は、コリン・フォン・ウォード。ルラック伯爵家の三男で、宮廷魔法士としてエレツ王国に仕えていたが、シェードの一声でアーロンの補佐官となった。
コリンは十五歳の頃、アーロンが作ったホテルの魔導具に感銘を受け、学園でアーロンに話しかけたかったが、終ぞ、その機会がなく、今回の話が来たとき大喜びだった。
アーロンと対面した際、魔法についてアーロンがどちらかといえば感覚派で、あの魔導具はスキル(ガイド)の補助があってこそ作れるものだと知って、冷静になったが、国を新しくするというアーロンの意思に触れて、それに協力したいと、今では自発的に忙殺されている。
「ヒューバート、セドリック、二人を部屋に連れて行ってやってくれ」
セドリック・フォン・ガードナーは正式にアーロンの護衛として勤めている。
「「かしこまりました」」
「リート、今日も補佐をよろしくね」
「はい、アーロン様」
リートはアーロンの執務机の近くの席に座って作業を始めた。
アーロンも自身の席に座って、作業を始める。
現在、二人が進めているのは、帝都移動の計画だ。
聞き取り調査で分かった全ての建物を地図に書き記し、どのような街にするか草案を作っているのだ。
建物自体はアーロンの石の王とガイドがあればできるだろう。魔導家具も石の王とガイドがいれば大体は作れる。
あとは、布団、クッション、カーテンなどだが、住民の好みはばらばらなので、それについては移動に伴う補助金を出すことで、解決することにした。
お昼頃には草案が完成し、試案も夕方にはできあがった。
「明日、大臣たちとの会議に出したら、最終案を作って、実行に移そう。時期は、そうだな、一か月後にしよう」
「かしこまりました」
決まりだね、と言ってアーロンは試案をヴァルドバングルの収納に入れた。
(ヴァルトバングル……機能を制限して形状を違うものを作って、帝国国民に配るか……名前も変えれば特に問題はないよね)
アーロンは考えを巡らせつつ、リートたちと共に夕食をとるべく執務室を後にした。




