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森影という組織は、五という数字を基本として成り立っている。
森影のリーダーである統長は一人だが、大隊長は五名で、大隊は五つ。中隊は一大隊に五つで、中隊長は総勢二十五名、中隊は二十五隊ある。一つの中隊に小隊は五つで、小隊長は総勢百二十五名、小隊は百二十五隊ある。分隊は一小隊に五つで、分隊長は六百二十五名、分隊は六百二十五隊ある。
森影の場合、分隊のメンバーは五名と決まっている。欠員がいることもあるが、約三千名はいる。
そして、森影の隊に属していない、各地を放浪して情報を集めたり、扇動したり、時には暗殺したりする遊撃軍のような者たちもいる。
彼らを合わせると、約五千名はいるだろう。
五つの大隊は、数字で隊を分けているが、それぞれ主な役割がある。
まず、第一大隊。諜報。いわゆるスパイ的な活動を主に行うこの隊は、諜報隊とも呼ばれる。
次に、第二大隊。護衛。重要人物などの護衛を陰ながら主に行うこの隊は、護衛隊とも呼ばれる。
第三大隊。扇動。民衆に対するプロパガンダの為、噂を流したり、工作したりする隊だ。この隊は、扇動隊とも呼ばれる。
第四大隊。連絡・補給など、縁の下の力持ち的な役割を持つ隊だ。この隊は、連絡隊とも呼ばれる。
第五大隊。暗殺。最終的な手段だが、暗殺を主に行う隊だ。この隊は、暗殺隊とも呼ばれる。
遊撃軍のような彼らは、万能隊とも呼ばれている。
そんな森影の万能隊とも呼ばれる隊に属さない位置にいる一人、リオンは、流れの神官に扮して帝国内を旅していた。
行く先々で、殺された皇帝がどれだけ醜悪で、多くの人々を犠牲にしたか、ということと。
その悪い皇帝を倒した新しい皇帝となる少年がどれだけ素晴らしいかが、自然に浸透するように出会う人々に語っていった。
腐った貴族がいるならば、行って調べて、暗殺もした。
リオンはアーロンの為にできることは全力でした。
戦争孤児で、街でスリなどして生計を立てていた頃、アーロンに拾われたリオンは、アーロンに帰る場所と美味しいご飯を貰った。
リオンは、アーロンにとても感謝していた。
アーロンが皇帝として戴冠するその日までに、できるだけ多くのことを成し、アーロンがこの帝国を平定できるよう、リオンは力を尽くす。
それは、他の森影たちも同様だった。
雲一つない晴天が広がっている。
今日は、アーロンの戴冠式が執り行われる。
多くの民が新たな皇帝の誕生を待ちわび、帝都に集まっていた。
今や、帝国にはアーロンに対して好意的な民が大半となっている。
殆どが森影たちのプロパガンダやら様々な工作による効果だが、シェードがアーロンに部下として送った優秀な令息たちの働きも一助となっている、かもしれない。
アーロンの戴冠式は帝城で執り行われる。
国内の全ての貴族の代表者と近隣諸国の代表者、そして、エレツ王国の代表であるシェード。
アーロンの戴冠を執り行うのは、神聖ミトス教国からやってきた教皇イヴァンだ。
厳かな雰囲気の中、豪奢な黒い礼装と濃い赤のマントを纏ったアーロンが堂々と胸を張って教皇のいる玉座の前までやってきた。
「アーロン様の戴冠の前に、勝手ながら発表させていただきたいことがあります」
教皇イヴァンの穏やかな声が響いた。
会場にいる人々は訝しげな表情を浮かべそうになるが、抑えた。
「我ら十神教会は名を改めまして、二神十王教会として新しく生まれ変わります」
会場はざわめいた。
「静粛に」
シェードの声が響いた。
「イヴァン殿、その発表は今しなければならないことかな?」
「ええ、十神教会のまま、アーロン様に戴冠していただく訳にはいきませんから」
「……ふむ、分かった。続けてくれ」
「はい」
イヴァンは豪奢な皇帝冠を手に持った。
アーロンはイヴァンの前に跪く。
「崇高なる二神と、十の精霊王の加護を受けしアーロン・フォン・シュタインは、ここに帝国の皇帝となる。神々よ、どうか、この良き皇帝を祝福し給え」
イヴァンはアーロンの頭に皇帝冠を被せた。
その時、天窓から光が差し込み、アーロンを照らした。
幻想的なその光景に、人々は感嘆の溜息を吐いた。
冠を被ったアーロンは立ち上がった。
「ここに新たなる皇帝が誕生しました。皆様、大きな拍手を!」
呆然としていた人々は、我に返り、拍手をし始めた。
やがて、割れんばかりの歓声と拍手が会場に響いた。
皆、祝福されし、新たな皇帝に興奮していた。
段々と落ち着いていった歓声と拍手が止むと、アーロンが口を開いた。
「ありがとう。私は、アーロン・フォン・シュタイン。新たな皇帝だ。これから、多くの変革をこの帝国に起こすことになるだろう。反発もあるかもしれない。けど、これだけは知っていて欲しい。私は、この国が幸福になるために、変革を起こすということを!」
アーロンは拳を掲げた。
会場にわぁああ!という歓声が響く。
「私はこれから、重大な発表をする。この発表は国中に知らせるため、この場で魔導具を用いて行う」
傍に控えていた侍従に扮した森影が水晶型の魔導具を持ってきた。
「では、始める」
水晶が光り輝き、やがて、淡い光を纏った状態になった。
この魔導具は、帝都と各都市にアーロンの姿を拡大して表示している。勿論、声も届く。
「帝国の全国民に知らせがある。私、アーロン・フォン・シュタインという新たな皇帝の誕生と、新たな帝国の誕生だ。これから、この国は変わる。より良い環境に向かって。その為には変革が必要だ。経済を回し、雇用を生み出し、国民が幸せになる為の変革だ。その第一歩として、私は、国の名を変える」
アーロンは一拍置いて、告げた。
「この国の新たな名は、【レアルタ帝国】。レアルタという言葉は遠い昔の言葉で、星を意味する。国民一人一人が夜空の星のように、この帝国を照らして欲しいと願いを込めた。どうか、新しい国を愛して欲しい」
割れんばかりの拍手と歓声が帝城の外から響いてきた。
国民が賛同してくれている。
そのことに後押しを得たアーロンは言葉を紡ぐ。
「帝国を新しくするにあたり、貨幣を新しい貨幣に変更する。旧貨幣を新貨幣に交換しに来た者には新貨幣で銀貨一枚を報酬として渡すこととする。また、帝都を新しく作り直す為、一軒一軒に役人を派遣する。役人が来ても慌てないように」
アーロンは微笑んだ。
「これから、帝国は変わる。その変化の波はやがて外国にも波状するだろう。良い変化を起こせるよう、私は全力を尽くす。どうか、協力して欲しい」
帝城の外は歓声と拍手でいっぱいだ。
「ありがとう。今日は帝都全体に食事と酒を用意している。青いタスキを掛けたスタッフが配るので、皆で楽しんで欲しい」
以上で配信を終了する、とアーロンは締めくくり、映像は途切れた。




