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仕事がようやく落ち着きを見せ始めた秋。
アーロンはかねてより考えていたことを実行すべく部下たちに準備をお願いした。
初夏の季節には準備完了するという言質を部下から取ったアーロンは、死んだ魚のような目をしている部下たち──ジェイドとコリンと他五名(まだ見習い)の補佐官に「しばらく帰らないから」と言って、転移した。
置いて行かれた補佐官たちは真っ白に燃え尽きそうになりつつも準備に取り掛かることにした。
アーロンが転移した場所は帝国の帝都にある花屋だった。
「店主さん、これで花束を作って欲しいのですが」
「毎度……!!」
アーロンが店主に渡したのは大金貨一枚だった。
店主は大層驚きつつも、アーロンに尋ねた。
「その、どういった用途の花束でしょう?」
「プロポーズ用の花束ですね」
そう、アーロンがかねてより考えていたことというのは、プロポーズや結婚のことだった。
「……愛の花言葉が多い薔薇でお作りしてもよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「少々お待ちください」
店主は店内にたくさん置いてある薔薇を使って手際よく花束を作った。
十一本の三色の薔薇によって花束が作られた。
「赤とピンク、白の薔薇を使っています。赤薔薇の花言葉は『あなたを愛しています』、ピンクの薔薇の花言葉は『愛を誓う』、白薔薇の花言葉は『私はあなたにふさわしい』です。薔薇の本数にも意味があります。十一本には『最愛』という意味があります。赤薔薇は四本にしましたが、四本には『死ぬまで気持ちは変わりません』という意味があります。ピンクの薔薇は六本にしました。六本には『あなたに夢中』という意味があります。白薔薇は一本にしました。一本には『あなたしかいない』という意味があります」
「あ、ありがとうございます」
店主のマシンガントークに若干引きつつ、アーロンは花束を受け取った。
「大金貨はお代としては多すぎますので、おつりを渡させていただきますね」
「いえ、大丈夫です。貴方の花に対する深い知識は大金貨を渡すに相応しいと思います」
だから受け取ってください、というアーロンの言葉に店主は自分の仕事が認められたように感じて、うるっときた。
「ありがとうございます……」
店主はアーロンに深々とお辞儀した。
「また来ます」
アーロンはそう言って転移した。
次にアーロンが転移した先は、エレツ王国王都の王城の庭だった。
庭のガゼボ近くに転移したのだが、ガゼボにはマグノリアがいた。
少女から大人の女性へと成長する途上の神秘的な魅力がマグノリアをより一層美しく見せている。
アーロンはマグノリアに見惚れつつ、ガゼボに近づいた。
近づいてきたアーロンに気付いたマグノリアは花が綻ぶような笑みを浮かべた。
「アーロン様」
「……えっと、マグノリア」
アーロンは花束を背に隠しつつ、頬を赤らめた。
いざプロポーズするとなると、緊張で言葉が詰まってしまう。
少ししてアーロンは意を決し、マグノリアの目を見詰めた。
「マグノリア、君のことを愛しています。どうか、僕と結婚してください!」
そう言って、アーロンはマグノリアに花束を差し出した。
「……はい、喜んで」
そう言って、涙を浮かべたマグノリアは、花束を受け取った。
マグノリアはアーロンと共にガゼボで暫く愛を囁き合った。
「アーロン様」
「なあに?マグノリア」
「他の皆様にもプロポーズなさるんですよね?」
「う、うん」
「順番はどうであれ、一人一人、大切にプロポーズなさってくださいね」
「うん、分かった」
「皆様、わたくしの大切なお友達ですから」
「うん、ありがとう、マグノリア」
「お礼はいりませんわ。アーロン様の妻になる女ですから、懐が大きくないといけませんもの」
アーロンは一日マグノリアと共に過ごした。
穏やかで愛に満ちた一日を。
それから、アーロンはシルヴィア、イザベラ、メイヴィス、サーシャにもプロポーズして受け入れて貰った。
初夏の季節に準備ができ次第、結婚式を挙げることとなる。
アーロンはマグノリアたちのドレスと、それぞれの結婚式で着る自分のタキシードを帝国の仕立屋で仕立てて貰ったり、関係各所へ招待状を認めたり、政務をしたりと忙しい毎日を過ごした。
そして、初夏である晴風月(五月に相当)十日。
雲一つなく晴れたこの良き日にアーロンとマグノリアたちは一緒に結婚式を挙げる。
本当は一人一人と結婚式を挙げたかったアーロンだが、「それだと一年以上掛かりますよ」という補佐官たちの言葉と、マグノリアたちに一緒でも構わないという了承を得たことから、一緒に挙げることを決意したのだ。
「汝、彼女らに永遠の愛を誓いますか?」
「はい、誓います」
「汝ら、彼に永遠の愛を誓いますか?」
「「はい、誓います」」
「では、指輪の交換を」
アーロンはマグノリアとシルヴィア、イザベラ、メイヴィス、サーシャに指輪を嵌めた。アーロンの指輪は代表してマグノリアが嵌めた。
実は、この指輪はアーロンが二神に願って貰った指輪で、たくさんの効果が詰まっている。
会場からは歓声と拍手が響いた。
「それでは、ブーケを花嫁の皆さんに投げていただきます」
と、司会が言うと、花嫁たちは「せーの」と言いつつ、ブーケを投げた。妙齢の女性が挙ってブーケを手に入れようと頑張っていた。
受け取った妙齢の女性たちはガッツポーズをしたり、嬉し涙を流していたりした。
「披露宴に移りますので、会場が変わります。皆さまご移動をお願いいたします」
結婚式会場は帝城内にある神殿で行われたが、披露宴会場は舞踏会会場になる大広間で行われる。
披露宴では祝辞があったり、乾杯したり、ケーキ入刀したり、祝電があったり、食事をしたり、新婦から両親への手紙の朗読があったりと、盛沢山だった。
そして、夜、アーロンは自室でお風呂に入り、ついでに光属性魔法で身体を浄化したりし、ガウンを纏って部屋の中でそわそわしていた。
所謂、初夜が今夜だからだろう。
(どうしよう、前世でも経験ないけど、知識だけはいっぱい収集してたし、なんとかなる……筈)
不安になりつつ、アーロンは思案する。
(あと、皆まだ身体ができあがっていないし、避妊はどうしよう)
ああ、補佐官に聞いておけば良かった、とアーロンは盛大に後悔していた。
コンコン
ノックの音が響いた。
「どうぞ」
緊張で声が上擦らないように気をつけつつ、アーロンは入室の許可を出した。
「「失礼します」」
彼女たちはネグリジェの上にガウンを纏っていた。
近づいてきた彼女たちは少し緊張した様子だった。
「わたくしたち、決めていることがありますの」
「なにかな?」
「まだ、十四、十五の未熟な身体ですから、妊娠は避けたいと思っていますの」
「うん、僕もそれは思っていた。だから、今日は」
「ですので、皆、避妊薬を飲んでおりますわ。副作用のない優れもので一週間は効き目があるそうですの」
マグノリアはそう言って、纏っていたガウンを脱いだ。
「わたくしたち、《《全員》》でアーロン様を満足させて差し上げますわ」
そう言って妖艶な笑みを浮かべたマグノリアはベッドに乗り上がり、アーロンの胸に手を置いた。
「アーロン様、わたくしもアーロン様が満足できるように頑張りますわ」
シルヴィアがそう言って、アーロンのガウンに手を掛けた。
「わたくし、アーロン様に満足いただける自信がありますわ」
イザベラがそう言って、アーロンの腕に手を絡めた。
「私も……頑張ります、アーロン様」
メイヴィスがそう言って、アーロンの右手をぎゅっと握った。
「ボクだって、負けないからね、アーロン君」
サーシャがそう言って、アーロンの左手をぎゅっと握った。
彼女たちから香る花のような良い匂いと、彼女たちの肌の熱さや柔らかさを感じて、アーロンはくらくらしていた。
「後悔しない?」
「「勿論です(わ)」」
アーロンはマグノリアたちにそれぞれ口付けをした。
彼らは激しくも愛おしい夜を過ごした。




