92
目覚めたアーロンは上体を起こした。
大きなキングサイズのベッドで、穏やかに眠る婚約者たちの顔を眺め、微笑みを浮かべ、アーロンはベッドから静かに抜け出した。
バルコニーに出たアーロンは青く澄んだ空を見上げ、深呼吸した。そして、遠くに見える山々と、森、草原を眺める。
眼下に広がる帝都に目を向けると、早朝にも関わらず、多くの人々が活動していることが分かる。
「平和だな。……君はどう思う?」
アーロンはそう言って振り返った。
そこにはマグノリアがいた。
「まあ、気付いていらしたのですね」
「うん。それで、君の答えは?」
「ふふ……そうですね、この平和はアーロン様が築き上げたものですわ」
「そう、かな?」
「ええ、アーロン様が皇帝になっていなければ、この帝国は沈んでいったでしょう。それをアーロン様が再建したのですから」
「うん……」
「何か心配事がありますの?」
「いや、僕たちが子供を授かって、その子供が帝位を継承して、それ以降、また反逆されたり革命が起こったら、僕たちの子孫はどうなるんだろう、って思ってさ」
「まあ!そんな未来のことを考えていらしたの?……大丈夫ですわ、アーロン様。もし、血が途絶えたとしても、アーロン様の志は受け継がれますもの」
そう言ってマグノリアは、帝城の広場に聳える石碑に目を向けた。
「あの石碑に書いておられましたでしょう?」
アーロンは新しい帝都を作ってからしばらくして、帝城前の広場に石碑を作ったのだ。
「うん、『どんな時も優しさを忘れず、平和を目指し、誰もが幸せな最期を迎えられる世をつくること』。志って大層なものじゃないけどね」
アーロンは苦笑した。
「ですが、大事なことですわ。この意思は、民にも、わたくしにも受け継がれています。ですから、心配なさらないで」
「……うん、ありがとう、マグノリア」
アーロンとマグノリアは笑い合って部屋に入っていった。
アーロンの意思が、流れる水のように、大地に浸透し、いつか雨となって、世界に降り注ぎますように。
そんなマグノリアの祈りは空気に溶けて、やがて空へと舞い上がった。
*
レアルタ帝国初代皇帝アーロン・シュタイン・レアルタはレアルタ帝国を最も繁栄させ、最も良く治めた賢王と呼ばれている。
彼が産まれた国であるエレツ王国とは同盟を組んで、良い貿易を交わしていた。
それ以外の国々とも良い関係を築いた。
神聖ミトス教国の教皇はよくレアルタ帝国にやってきてアーロンと対話していたという記録が多数残っているので、神聖ミトス教国とはエレツ王国と同じくらい仲が良かったのではないかと伺える。
彼は五人の妻との間に二十五人の子を儲け、仲睦まじい生活を送っていたそうだ。時には喧嘩をすることもあったそうだが、きちんと話し合って解決したという。
彼は亡くなる前にこう言い残したという。
「今生は本当に恵まれた人生だった。もう思い残すことはない。皆、本当にありがとう」
満足げに息を引き取ったという。
我々も、アーロンのように、満足できる人生を送りたいものだ。
『レアルタ年代記』第一章第三節より抜粋
了
これで完結です!
ここまで読んで下さった皆様、本当に、本当にありがとうございました!!<(_ _)>
書籍化についてですが、まだ正確な日付は決まっておりませんが、今年の春頃に発売予定です!
決まり次第、Xなどで告知いたしますので、チェックいただけると幸いです!
新作連載しております〜
興味がある方は下記URLから↓
https://ncode.syosetu.com/n4028lm/
末筆ながら、皆様のご健勝と益々のご発展をお祈り申し上げます。




