第七話 「入れ替わりってことね!」
「なにそれー!」
至近距離で発された甲高い大絶叫に、わたしは思わず耳を塞いだ。
「ちょっ、リンちゃん、声が大きい。」
「大きい声出したくもなるよ! アサムさんとスーちゃんとであたしを除け者にしてそんな内緒話してたなんて! ひどい! ずるい! あたしも町行ってみたいー!」
歌鈴はそう言いながらわたしの肩を掴んでがくがくと揺らし、両手の拳で座っているソファをばんばん殴る。駄々をこねる幼い子どものようなその表情に、わたしは呆れる他なかった。
「ごめんって。でも、内緒にしてた訳じゃないんだってば。許可が下りるか分からなかったから。」
「許可、下りたの……?」
「一応。お忍びは無理で、非公式の視察って事になったけど。」
「あたしも行く!」
「ふたり一緒は目立ちすぎるから駄目だって。」
「ひどい~!」
わめく歌鈴にわたしは頭を抱えた。これだから言いたくなかったんだ。それで延ばし延ばしにしてしまった為に、余計に面倒くさい事態になってるんだけど。
「で、いつ行くの?」
「明日。」
「明日!?」
さて、ここからはどうやってなだめるかだな。歌鈴がこうなるのは承知で話を切り出したんだ、何の策も用意していない訳がないでしょう。
「でね、リンちゃん、考えたんだけど、わたしはこうしてかなり出歩いたり色々するのが許可されるとして、リンちゃんが外出したり何かやりたいって言ったりするの、かなり渋られると思わない?」
なんてったって次期女王様だもの、万が一のことがあってはいけない。
「それがずるいって言ってるの。」
「話は最後まで聞いて。わたしは今後、ちょくちょく城下町に出掛けるつもり。でもそのうち二回に一回は、出掛けるお姫様の髪が茶色くなっちゃったりして。」
「……どういうこと?」
歌鈴が眉を顰める。さすがにこの言い方じゃ、わたしの言いたいことを察するのが早い歌鈴でも分からないか。
「あんたが「スズカ」でわたしが「カリン」になるの。」
「入れ替わりってことね!」
歌鈴がいきなり小声になり、目を輝かせる。よし、予想通りの反応。こんな楽しそうな話にこの子が乗ってこない筈はないんだ。
「そゆこと。だから、今回は辛抱してちょうだい。わたしだけ出掛けるのに納得してもらって、むしろ自分は出掛けなくていいくらいの反応にしといてもらった方がいいかな。」
「任せてよ。これでも演技を仕事にしてたのよ? お披露目のときあんだけ怖がっちゃったし、丁度いいや。」
そういえばアイドルだったんでした。演技を仕事に、というのは少し違う気もするけど、まあいいか。それを言うならアイドルより女優だろう。
「あんまり素直に納得しちゃっても却って怪しまれそうだから、「行きたいけどまだちょっと怖いし仕方ない」って感じの不承不承オーラを出していこうと思う。」
「凝るねえ。」
「あら、あたし女優も目指してたのよ。」
そりゃ頼もしい。
「それより、最大の難点は髪の色だと思うんだけど。さすがにこんなに色違ったら一目で分かっちゃうよね。」
わたしが言うと、歌鈴も頷いた。長さや毛の癖は殆ど同じなのだが、わたしが生まれたままの何もしていない黒髪なのに対し、歌鈴は明るい栗色に染めている。光の加減でごまかせるレベルではないし、ベールや何かで完全に隠すというのも無理がある。どちらかに揃えるしかないだろう。
「あたしが黒に戻すしかないでしょ。」
「い、いいの? それで。」
歌鈴があまりにあっさりと言うので、わたしは却って驚いてしまった。
「スーちゃんがこの色に揃えようにも、同じ色のヘアカラーあるか分かんないし。何より、スーちゃんがあたしと同じ色にって言うよりあたしが元の色に戻すって言う方が納得されやすいでしょ。このまま放っといてもいずれプリンになっちゃってみっともないんだから、その前に黒くしといた方が楽。」
「リンちゃんがそれでいいなら。」
「何を言うか。あたしが町に行く為でしょうが。」
歌鈴はそう言ってにやっと笑う。自分自身の為にやることなら苦にならないのも半分本音なのだろうが、わたしに気を遣わせないようにしている気もする。けど、気遣ってんでしょなんて言ったら歌鈴は気分を悪くするだろう。好意をそのまま受け取っておくのが最善だ。
「じゃ、髪を染め直すことは、出来るだけこれと関係がなさそうな時期に話を出してみて。」
「了解。ボロを出して、いらんこと探られないように気を付けないとね。」
そう言い合って双子は、秘密基地を作った子どものようにこっそりと笑い合ったのだった。




