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女王様のオマケ  作者: 神無月 愛
第二章  この世界を知ること
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第四話 「わたしにとっての世界は、」

「どうしちゃったのよ、リンちゃんってば。」

「……ごめん。情けない。」

 おじい様おばあ様と笑顔で別れ、王女宮に入った瞬間わたしが言った言葉に、歌鈴はため息で応じた。

「なんでだか分かんない。急に、怖くなっちゃったの。」

「トップの重圧、ってこと?」

「ううん、この世界。あんまりに違って、色々な人がいて……あたしの『普通』が通じないんだと思って。」

 ……なるほど。

 正直、わたしには分からない視点だ。そもそも異世界って時点でわたしは何があってもおかしくないと腹を括っていたから、人が獣だろうが妖精妖怪の類が出ようが驚きゃしなかったのである。一方の歌鈴は、読書にもファンタジーにも馴染みが薄いらしい。想像すらできなかったどころか、まずそんな発想がなかった。

 それに、歌鈴は昔から今に至るまでずっと『普通の女の子』だったのだから。

「あたし、本当に狭い世界で生きてきたんだね。」

「それはそれで幸せなことだと思うけどね。」

 世間一般的なイメージに近い『女の子』の姿をした妹を、わたしはちょっと眩しく思った。普通の女の子であり、普通の女子中学生から普通の女子高生となった彼女。母子家庭というオプションはあれど、友達とテレビや男の子の話で盛り上がり、普通に恋をして……周りが自分と同じ姿をしていることに何の疑問も抱かなかった子。わたしとは全然違う、わたしの妹。

 わたしにとっての世界は、目が痛いほど色とりどりで当たり前のものだった。誰もがわたしと違う姿をしていた。

「カリン様! スズカ様!」

 自分たちを呼ぶ声に振り向くと、慌てた様子のアサムさんが足早に近付いてきた。

「申し訳ございませんでした。この世界の人々について、日本とは異なることを知っている私が説明すべきでした。驚かせてしまいました事、私の手落ちです。」

 悲痛なほどの表情で深く頭を垂れるアサムさんに、歌鈴は首を振った。

「……あたし、ちょっと驚いたけどもう平気。よく考えたらファンタジーみたいで素敵だし。」

「わたしも大丈夫です。そんな謝らないでください。」

 笑顔を見せる歌鈴とわたしに、アサムさんはほっとしたように頬を緩めた。

「では、改めて私から種族のことを説明させていただきたく存じます。お時間を頂いても宜しいでしょうか?」

「はい。」

 そうしてわたしと歌鈴とアサムさんの三人は、いつも家庭教師の先生がいらっしゃった時に使っている図書室へと場所を移した。

「お茶をお持ちしました。」

 にこにこと入ってきたのはキャシーさん、わたし担当のメイドさん。

「お披露目のあとはお勉強の予定はないと伺っておりましたけれど、お二人ともお疲れではございませんか?」

「大丈夫です。お茶ありがとうございます。」

 そう言ってティカップを受け取り、わたしはふっと気付いた。

 やや高めの鼻がつんと上を向いて目がぱっちりした、可愛らしい女の子。小柄な体躯は細身でしなやかで、まだ大人の魅力が出てくるのはこれからといったところか。見たところ十代半ばから後半であろう彼女は、わたしたちとそう変わらない姿をしているようだけど……。

「あの、キャシーさん。キャシーさんの種族って何ですか?」

 種族ってものが存在しない世界から来たんで、こういう言い方はなんとなく抵抗があったんだけど、キャシーさんは嫌な気持ちになった素振りも見せなければ聞き返しもせず、こともなげに答えてくれた。

「いつかも申し上げたかも知れませんが、あたしは『猫族(マウ)』でございます。」

「うっそお。ネコ耳付いてないじゃん!」

 やめなさい歌鈴。反応がデカい上に単純すぎるぞ。何でまず耳なのよ、二次元キャラじゃないんだから。

「あたしは猫族の中でも身体的特徴が薄い方ですから。でも『猫の目』は持っておりますし、身体能力も劣ってはおりませんよ。」

 アサムさんの補足によると、身体に獣の特徴がある種族はその能力も持っているのだとか。『猫の目』は読んで字の如く猫のように瞳孔が大きくなったり細くなったりするあの眼のことで、かなり夜目が利く。便利そうだな。他にも種族ごとに色々な特徴があるらしい。

「そういうお話でしたら、パティも呼んで参りますね!」

 キャシーさんはそう言って飛び出していったと思ったら、すぐに歌鈴のお付きのメイドさんを連れてきた。キャシーさんよりもちょっとだけ大人っぽい印象を受ける体つき。髪は濃い茶から金、白へと変わるグラデーションになっていて、きちんと纏めているもののふわふわした感じが見て取れる。

「パティは『犬族(ゴウ)』でございます。こうして並べた方が、種族の違いがご覧になれるのではないでしょうか。」

 と言われても、それが個人差なのか種族の差なのかわたしにはよく分からないんだけどね。

「あたし達やアサムさんみたいに、ケモノ成分が全然ない人はなんていうの?」

「『人族(レン)』と呼ばれます。一般的に身体能力が低いかわりに霊力が高いのですよ。貴族階級の大半、また歴代王族のほぼ全てが純粋な人族です。」

 人とケモノが住み、霊力を扱う世界。これをファンタジーと言わず何だというのか。本当に異世界なんだなあ。

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