第二話 「お披露目、ですか?」
「お披露目、ですか?」
歌鈴はそんなものもあったかと驚いた表情だが、わたしはついに来たかと思っていた。というか、遅いくらいだ。召喚された場面にいた人々(あれはどうやら主要な貴族様たちだったらしい)にはわたし達の存在知られているんだもん、すぐにでも国全体へ向けて知らされるのだろうと思っていた。わたし達が落ち着くまで待ってくれたのは国王夫妻の優しさなのだろう。
「そうだ。と言うても、さして大仰な事ではない。まず、四十年前に行方知れずとなった王女フェリシアの娘たちが我が国へ戻ったと報せを出し、国民たちが広場に集まる。お前たち二人はバルコニーから笑顔で手を振って見せるだけで良い。」
歌鈴だけじゃないんかい。
「あの……おじい様。二人って、わたしもですか?」
「当然だろう、スズカ。お前に王位継承権はなくとも我の孫、正統なる王家の者に他ならない。」
えー、華々しくお披露目なんてわたしのガラじゃないよぅ。わたしそんな目立たなくていい、というか目立つの苦手。地味でいいです平穏をください。
と言ったところで仕方ないのはわたし自身にも分かり切ってるけどね。そもそも王家の一員と言う時点で地味な日陰よサヨウナラ。せっかくのおじい様の提案をあんまり嫌がるのも失礼だし、国民の前に出ないとしたって一生ひっそり隠れて生きていく訳にはいかない。それはさすがに嫌だ。
「あたしは大丈夫ですわ、おじい様。むしろ楽しみなくらいです。この国にどんな人達が暮らしているのか見てみたいと思っていたの。」
「それは頼もしい。」
まーた歌鈴ってば調子に乗ってるよ。わたしはそう思いつつ、黙ってパンをちぎって口に放り込んだ。余談だけどこの世界の固焼きパンは慣れれば美味しい。あと果物らしきジャムがめちゃくちゃ美味しい。
「国民にお披露目しても、何かが大きく変わるようなことはありませんから安心して頂戴。」
笑顔でそんな事をおっしゃるのはおばあ様。
「けれど……そうね、公務や視察で人目に触れることも後々あるでしょう、その前に一度立場をはっきりさせておかなくてはね。王家の者はふつう生まれた時にふれを出して国民に知らせているから、その後は年頃になって貴族社交界に出ることくらいしか考えないのだけれど、カリンとスズカはそのどちらも行っていませんし。」
確かに、ハタチにもなっていきなりここにぽんと入るのって嫁入り以外ではかなりのレアケースでしょうね。
と、ここでふと考えてしまった。
「貴族の社交界に出る年頃って……?」
「挨拶や礼儀作法がきちんと出来さえすれば少々無理をして早くから出すこともあるけれど、だいたい十六、七かしら。」
予想はしてたけど思いっ切りタイミング逃しているのねわたし達。社交界なんて物語でしか知らないけど……そういうのって、結婚とかその他いろいろ絡んでくるのでは? 怖くて聞けなかった。だって、もし聞いたとして「行き遅れ」のような単語が出てくるのも嫌だし「安心しなさい既に許婚が」とか言われてもパニック起こしそう。わたしこの手の話題は何より苦手なんだ、出来るだけ触れないでおこう。
国民たちの前に顔を出すのは三日後。報せはすぐにでも出す、ということになった。急な話だけど、もう殆ど準備は終わっていてわたし達の返事待ち状態だったみたい。結局は絶対やるものなのに、強要しないでまず伺ってくださるあたりが、何と言うか、おじい様らしい。
「あたし達、今までお城の中の人しか知らないもんね。しかもここで働いてるわけだから、あんまり友達になろってムードじゃないし。アサムさんや、パティちゃんたちみたいなメイドさんの一部しか名前知らないの、なんかつまんなくって。貴族でもいいから対等な友達になってくれる人いるといいなあ。」
その後から歌鈴はこれで頭がいっぱい。まったく煩いのなんのって。もともと喋り好きな子だから相当鬱憤が溜まってたんだろう。
「そうだね、わたしも楽しみ。でも今このノートまとめちゃおうよ。」
「あっそうだスーちゃん、また衣装で遊ばない? お揃い出来るのがあるか、あたし見てくる!」
「こら!」
三日はあっという間に過ぎて、その日がやってきた。




