第十三話 「待ち人来たれり、だな。」
自己紹介とご挨拶が済み、本題がどう切り出されるかをわたしが考え始めた時、口火を切ったのはおじい様だった。
「見たところ、フェリシアの霊力はカリンが受け継いでいるようだな?」
「は、はい、そう……みたいです。」
歌鈴はかなり驚きつつ答える。えっ、ちょっと「見たところ」で霊力とか分かるの?
「我は人を見る目だけはあるのでな。」
冗談めかしたお答え。んー、何か感じ取れるものがあるのだろう。そう思っておく。
「我らも、もういつ神の元に呼ばれても不思議はない齢。カリンが我らの後継者となってくれれば心強いゆえ託したいと思ったのだが、嫌がるものを無理強いはせぬ。お前の気持ち次第だ。カリン、お前はどう考えておる?」
「その答えは既に決まっておりますわ、おじい様。」
わたしが呆れるほどの速さで自分のペースを取り戻した歌鈴は、やや芝居がかった調子で微笑んだ。
「この世界の事を何も知らない私ではございますが、縁あってこのような役目を仰せ付かったからには精一杯務めさせていただきたく存じます。」
この子、楽しんでる。
わたしはこっそり肩をすくめた。大仰なセリフまで用意してきて、お姫様役にハマり込んで楽しんでるんだわ。その心構えは頼もしい限りだけど、本当に大丈夫なの?
「おお、よう言うてくれた!」
おじい様は嬉しそうに目を細める。
「ふたりも可愛い孫が出来たうえに、良き器を持った世継ぎまで得られるとは喜ばしい限り。国を継ぐと言うても今日明日の話ではない、ゆっくりと必要な事を知っていって貰えれば良いのだ。」
「そうですよ。何も焦る必要はないのです。まずは王女として、ここの暮らしになれるのも大変でしょう。」
統治者夫妻が見た目通りの年齢なら、日本基準ではまだまだお元気な人が多い。今すぐ後継ぎが必要なわけはないだろうけど、たしかに早めに引継ぎ準備をしておいた方が何かあった時にスムーズでいいだろう。たった一年間の部活の部長だってあんなに引継ぎが大変だったんだから。
「パースは世継ぎ世継ぎと言うけれど、わたくしたちは後継者としてのみ貴女方を求めたわけではないのですよ。老い先短い身を娘と共に過ごしたいと願っての事なのです。何も知らない貴女方を無理に呼び寄せてしまった年寄りの我が儘を許してくださいね。フェリシアとの再会が叶わなかったことは残念ですけれど、貴女方とお会い出来て嬉しいわ。」
そういえば、元々はお母さんを召喚しようとしていたんでした。
「せっかくフェリシアによく似た女の子なのだもの、それもふたり! お衣装を一緒に選んだり、お茶をしてお話したりしたいわ。フェリシアにしてあげられなかった分まで。」
国の偉い人とか貴族とかって、もっと家族関係ドライなもんだと思ってた。こうして見てると、話し方や態度はかなりお上品だけど「普通のおばあちゃん」と何も変わらないみたい。
「わたし達も、素敵なおじい様とおばあ様にお会いできて嬉しく思います。」
わたしもそう言って微笑んだ。他に言葉が見付からなかったけど、きっとこれで充分だ。言葉に込められた心さえ、この方々にはお見通しではないかという気がしてくる。
と、扉の所にいた召使いさんが王の元へ進み出、何事か告げる。その知らせを受けて頷き、召使いさんが扉の方へと戻っていくと、おじい様は少し勿体ぶった調子で言った。
「待ち人来たれり、だな。カリン、スズカ、お前たちに会わせたい者がいる。」
会わせたい人? おじい様が指し示すままに後ろを振り返ると、わたし達が入ってきた扉が開き、その向こうに跪く一人の人物がいた。陽光を反射して銀色に光る甲冑を着込んでいる。
「王室騎士団特別小隊隊長アサム=ミドルトン、国王陛下の仰せにより只今参上仕りました。」
「よう参った。こちらへ。」
騎士さんだって何それカッコいい……! 立ち上がると、すらりとした長身と手足の長さが際立つ。取った兜からこぼれたつややかな黒髪は一房に束ねられていて、肩から胸の方へと流れる。きりっと鋭く前を見つめる瞳も黒。あ、いいな、ここって目や髪の色が様々だから、同じ黒目黒髪ってだけで日本人っぽく見えて親近感湧いちゃう。きゅっと締まった唇、細くても力強い眉。お年はわたし達より十くらい上、30代くらいかな。世間のイケメンの基準に照らし合わせてもなかなか悪くないんでないかい。
アサムと名乗った騎士は広間の中央を真っ直ぐに進み、わたし達の前でもう一度跪き頭を垂れた。そして顔を上げ、笑顔でこう言ったのだった。
『アサム=ミドルトン、もう一つの名を浅海井マナと申します。遠い日本からこの国へようこそ。』
わたしと歌鈴は一瞬絶句し、そののち同時に叫んだ。
「今の……日本語ー!?」
「マナって……女性!?」
図らずも別々の言葉だったことが、ツッコミ所に迷ったことの表れだった。




