第十二話 「波乱の幕開けと参りましょうか。」
着替えが終わってわたしを一目見た歌鈴は、にっこり笑って子どものような口調で言った。
「真似っこだあ。」
歌鈴が選んだのはやや赤みが強いイエローをベースにしたドレス。アクセサリーの差し色はピンク。これは、何色にしようかと相談されたわたしが言った色だ。植物の花梨の花の色。
似た色のドレスは歌鈴のところにいくつかあったけど、わたしにはどれを選ぶか見当がついていた。だからわたしは、それとほとんど同じ形で淡い紫色のものを選んだ。歌鈴と同じく自分の名を表すなら、わたしがよく使うのは鈴蘭なんだけど、白はなかったので。第二の選択肢、ほたるぶくろ。差し色はブルー。
同じ形で補色のドレス。歌鈴にもそれが分かって真似っこだと言ったんだ。髪型も、黒いわたしと茶色く染めた歌鈴じゃ色違うけど、結う形は揃えることにした。髪伸ばしていてよかった。こういう時に色々楽しめるもんね。
「スーちゃんの『戦闘服』の意味は?」
「ご想像にお任せするわ。意味なんかあんまり考えてないけど。」
嘘。本音は「んな恥ずかしい事言えるかい」って。
ドレスの形を同じにしたのは、顔立ちがより似て見えるように。カラーリングだけ違うのは、表情や内面の違いを表すため。もちろん髪色の違いも計算に入れていた。
この場での主役は歌鈴。この国の王様ってのがどんなもんかよくは分からないけど、全員の注目を集めて、期待を背負って、誰からでも見えるところに立ってなければいけない、ヒロイン。歌鈴の性格なら楽しんで頑張れるだろうけど、それがずーっと永遠に続いたら、どう? 逃げたいときや支えがほしいときもあるだろう。
その「逃げ場」になれるのは、わたししかいない。
わたしがその気になったら、わたしは持てるすべての性質、技術、この姿だって利用する。わたしにはその覚悟があるのよ。
……と、まあそんなとこ。他にも危ない時の影武者とかいろいろ考えたけど、主に歌鈴本人がキツイ時の為ね。影武者なんて、もちろん何も機会がないのが良いけど、これがわたしのよく読むような物語だったら、絶対に「平穏に暮らしました、めでたしめでたし」は無いもんねと思ってしまう。ファンタジー好きの思考回路の所為かしら。
「さて、波乱の幕開けと参りましょうか、女王陛下。」
「……スーちゃん、最近の読書傾向は?」
「『○○サーガ』と『××戦記』かな。」
「物騒。」
いいじゃん、あくまで小説よ? それにあんなの、滅多にないから小説になるんであって、日常、そうそう変なことは起こりゃしない。
そんなこんなごちゃごちゃしつつ、わたし達はロブくんに案内されて、お城の大広間へと向かったのだった。
「あたしたちが召喚された儀式の間とは違うんだね。」
扉の前で歌鈴が呟いた。そういや、あの時は王様たちはいたのかな? あんまり見てなかったわ。
重々しい扉が音もなく開く。わたしと歌鈴はロブくんに教えてもらっていた礼をしてから広間に足を踏み入れた。顔を上げて最初に目に入ったのは、正面の壇上にいる一組の男女。
「フェリシア姫御息女、カリン様、スズカ様。」
扉の脇にいる案内役らしい召使さんが呼ばわる。と、壇上の女性がぱっと顔を輝かせ、涙を湛えんばかりの表情で微笑みながら言う。
「こちらへ……こちらへいらっしゃい。」
「はい。」
わたし達はもう一度礼をして、大広間の絨毯の上を進み出る。壇上からわたし達を見つめる二人は、還暦を少し越えたあたりだろうか。男性の方はお年の割に筋肉のついたがっしりとした体格で、きっと若い頃は勇猛な武人だったのだろう。病気して気弱になるようなイメージじゃない。豊かなグレーの髪はワイルドにちょっとぼさぼさしている。彫りが深くて淡い褐色の肌なので厳つい顔に見えるけど、琥珀色の瞳がくりっとして綺麗だ。女性の方はとてもスリムで色白で、プラチナブロンドの髪が美しい。目を細めて目尻に皺のよった笑顔がとても穏やかで優しそう。
「我はカロリア王パーシヴァルである。カリン、スズカ、親愛なる我が孫たちよ、よくこの国へ来てくれた。」
男性がそう名乗った。おお……期待を裏切らない低音素敵ボイス! 威厳に満ちた顔つきに声。これぞ王様、わたしのイメージ通り。
と、隣の女性がくすくす笑った。
「あらいやだパース、そんな堅苦しくなさらないで。せっかく正式な謁見ではなく内々の場ということにして、家臣も誰も入れずに家族だけの空間にしたのに、貴方がそんな態度では二人も緊張してしまうでしょ。それとも、貴方まで緊張していらっしゃるの?」
「む……すまない。」
どうやら図星であるらしい。王様が赤くなってらっしゃる、だと……?
これは、あれだわ。いわゆるギャップ萌えという奴だ!
「わたくしはカロリア女王、アンジェリカ=ローレル=カロリア。パーシヴァルの妻であり、この国の共同統治者です。フェリシアはわたくしの娘ですから、貴女方にとってはお祖母様ね。パースのこともお祖父様と呼んで頂戴。貴女方のことはカリン、スズカと呼ばせていただいていいかしら?」
「ち、ちょっとリカ。そのくらいにしておきなさい。あまりに一度に喋っては、二人を疲れさせてしまう。」
「あらごめんなさい。」
そしてわたしは確信した。この夫婦、絶対お祖母様の方が強いわ。
こんなに仲睦まじい統治者夫妻のいるこの国に、次期女王が必要になる日が来るのは、しばらく先のことになりそうだった。




