第十一話 「反対してほしいの?」
その後、その日は特にやることもなく時間を浪費し、超豪華なディナーをいただき、ふかっふかなベッドの中で日課の読書をして暮れた。あ、本はもちろん鞄に入っていた私物。こっちの世界、今のところ言葉は通じているみたいだけど、文字は読めるか分からないし。忘れずに明日その辺の疑問も解決しとかなきゃ……と思いつつ、わたしはとろとろと眠りに落ちていった。
そして、翌朝。
「お早うございます。よくお休みになられましたか。」
「はい、とっても。」
枕が合わないなんてこともなく、朝までグッスリ深く眠って目が覚めなかったあたり、やっぱり肝が太いんだろうな。
「そもそもわたし、環境の変化で眠れなくなったり食欲なくなったりしたことないんだよね。」
「悔しいけどあたしもそこはスーちゃんと一緒だわ。」
歌鈴に呼び出されて朝食を一緒に取りながら、姉妹でそんな話をしていた。順応性が高いのは、どうやら共通らしい。性格は正反対でも体質は似てるということか。
そして、今日はこの後ロブくんが訪ねてきて、今の王様夫妻……わたし達にとってはお母さんの両親、つまり祖父母と会うことになっている。
「そう言えばリンちゃん、あんた昨日のあれ真面目に考えたの?」
昨日のあれ、というのはもちろん、歌鈴が次期女王様になるの何のという話だ。悩んでいるかと思いきや、けろっとした顔してるんだもん。こう聞きたくもなるわ。
「当たり前じゃん。高校の進路選択以上に将来掛かってんだよ?」
その比べ方はおかしい。
「一応、あたしなりに色々考えたの。あたし高校だってさして頭いいとこ行った訳じゃないし、歌以外に得意なこともなくて、ぶっちゃけ、なんで自分が頼まれたか分かんないくらい、あたしって特別でも何でもないの。けど、あたしにない特殊な何かがなきゃ出来ないようなこと頼まれるとは思えない。」
確かにそうだ。何か特殊能力が必要なら、最初にそれの有無を確認するのが理にかなっている。
「んなら、頑張ればなんとかなるんだと思うわけよ。あたしにでも。」
「つまり、やるってこと?」
「うん。やるわ、女王様。あ、まだ王様いるなら王女か。どっちでもいいけど、とにかく努力はする。」
「そっか。」
歌鈴の目が真剣なのを確認してから、わたしはただ同意を示すようにひとつ頷いた。しかし歌鈴はその反応がいたく不満だったらしく、ふくれっ面で睨んできた。
「そっかって、それだけ? もっと反対するとか頑張れとかそういうの無いわけ?」
わたしは黙ってパンケーキを一切れ口に放り込んでから、敢えて目を上げずに言った。
「反対してほしいの?」
「そりゃ嫌だけどさ。」
「じゃあ何にも出来ない見てるしかない蚊帳の外からの気休めっぽい「頑張れ」がほしい?」
「それもちょっと腹立つ。」
「でしょ。」
私は皿の上をきれいに片づけてナイフとフォークを置き、添えられていた柑橘っぽいジュースを一口飲んでから、改めてしっかり歌鈴を見て、言った。
「昨日の話を聞いた限りでは、決定権は全部リンちゃんにある。わたしは代わりになれないし、出来るとしてもお手伝いくらい。だからあんたの決定に口は挟めない。それにあんたがしっかり考えての結論なら、わたしは口を挟む気はない。あ、だからって突き放す気はなくて、出来る範囲の手伝いはさせてもらうよ。」
歌鈴はフォークを握ったままぽかんとわたしを見ていた。口が半開き。微妙な表情のまま、歌鈴はぼそりと呟いた。
「スーちゃん、男らしい。」
「……褒め言葉と受け取っておきましょう。」
こう見えても華の女子大生なんだがな。ま、いいか。
「じゃあそれ、ちゃんとロブくんや王様たちの前で言えるね。」
「子供扱いしないでちょーだい、お姉ちゃん。」
軽口を叩きあって、わたし達は壁のあっちとこっちに別れた。歌鈴はこれからわざわざ着替えるのだという。面倒くさい奴だなと思いつつ自分の部屋に戻ったところで、歌鈴のセリフをもっかい反芻し、気が変わった。
(あのねえスーちゃん。女の子にとって、お洒落ってのは戦闘服なの。自分の気持ちを奮い立たせて、あたしは本気だって周りに知らせる意思表示なの!)
「キャシーさん、着替え、手伝ってもらえます?」
「もちろんです!」
わたしもわたしの「意思表示」ってのを見せてやろうじゃないの。




