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女王様のオマケ  作者: 神無月 愛
第一章  異世界に来たオマケ
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第十話 「それはきっと、すごくつらいことだ。」

「カロリアか。」

 父さんの呟いた言葉にわたしも、隣で耳をそばだてていた歌鈴も呆気にとられた。

「なんで……なんで知ってるの? カロリアのこと。」

「お前の母さんから聞いたに決まっているじゃないか。」

 平然と言い切った。確かにそうだけど、お母さん、異世界から来ましたーなんて話したんだ? そんで父さんは、それを信じたんだ?

「普通、そういうの信じられるもん?」

「そんな嘘つく理由がないだろう。見たわけじゃないから真実とも思えないが、否定する証拠もないから、受け入れた。まあ、心底信じたというより、話半分に流してたけどな……本当だったんだなあ。」

 どこか感心したようにのんびりと言う父さん。すごいよこの人、許容範囲広すぎるよ。

「で、どうやって行ったかは知らないが、とにかく異世界にいるんだな。」

「うん。」

「どんな場所にいる?」

 説明するの苦手なんだよなー。わたしは考え考えゆっくりと喋りだした。

「最初に召喚されて、教会みたいな雰囲気の儀式の間にいた。それからずっと王城の中にいるから、外の環境とかは分からない。」

「そうか。そういうことなら、状況もわかるし困った事もないな。」

 いや困った事あるけど。いうなればここにいるという事自体が『困った事』なんですけど。ま、父さんの言う意味は分かる。

「確かに、状況は説明してもらったし、生きて生活していけるって意味じゃ大丈夫。」

「それなら良い。こっちのごたごたは父さんに任せなさい、大事にならないように何とかするから。」

「よろしく頼みます。少なくとも、大学とバイトは無断欠席続く前に連絡しないと。」

「分かってる。」

 話が早くて助かるわ。心配事の一部は片付いた。

 そんな父娘の会話を、歌鈴は呆気に取られて聞いていた。

「お父さんもスーちゃんも、なんでそんなさっぱりしてんの?」

 なんでって言われてもなあ。

「今の声……まさか、歌鈴か? お前たち一緒にいるのか?」

 電話の向こうで父さんが言った。わたしは替わるねと一言だけ言って、歌鈴に電話を向けた。

「も……もしもし?」

「歌鈴。元気か。」

「うん。」

 いまいちぎこちない会話。そりゃそうか。少し間が空いて、父さんがぽつりと言った。

「ごめんな、大人の都合でばらばらになって。お前と母さんを手放してしまったこと、後悔している。」

 意外な言葉に、わたしも歌鈴も固まった。というか父さん、そういう大事なことはわたしにも言って欲しいんですけど。なんでわたし相手だと冷静な業務連絡モードだったのに、生き別れの娘にはいきなりドラマチックになっちゃってるの。

「詳しく話したいが、時間がないだろう。だから、一つだけ言っておきたい。父さんが璃紗……母さんと歌鈴を大切に思う気持ちはずっと変わっていないし、璃紗も最期まで鈴花を愛していた。嫌いになって別れたんじゃない、一緒に暮らすことが出来なかったんだ。」

 わたしには、その父さんの言葉の意味は解らなかった。

「ちょっと待って父さん、それってどういう」

 電話に向かって叫んだが、既に通話は切れていた。役目は終わったとばかりに圏外を示す携帯電話をわたしに寄越しながら、歌鈴も戸惑ったような顔をしている。

「スーちゃん、今のってどういうこと?」

「……わたしにも分からない。」

 ていうか、何なのよあの台詞はー。父さんがあの顔で言ってると思うと娘としてはかなりむず痒い気分になる。父さんの普段の性格からすると、電話切れたあと言った本人も絶対めっちゃ照れてるだろうと思うけど。だってこの時間、父さんは会社でこの電話を受けてる筈だもんね。

「スーちゃんスーちゃん。」

 ひとりで赤い顔をしている父さんを想像して笑いを堪えていたら、歌鈴がとんとんとわたしの肩を叩いた。

「ねえ、順番。あたしもケータイ使いたいんだけど。」

「あ、そうだった、ごめんごめん。」

 もう一度同じ手順で、今度は歌鈴のスマホを操作して電話を掛ける。呼び出し音が止まるのは、さっきより早かった。

「はいもしもし、桜木でございます。」

「あ、おばあちゃん? あたし、歌鈴。」

「あらあら歌鈴、久しぶりねえ。元気にしてるの? 今日お誕生日でしょう、後で電話しようと思っていたところよ。成人おめでとう。」

「ありがとう。おばあちゃん、あたし今ね……」

 とてものんびりとした世間話から始まり、歌鈴もそれと同じのんびりとした調子のまま、現状を話し始めた。説明している間、おばあちゃんはしばらく無言だった。

「……そう。」

 歌鈴の言葉が途切れたとき、おばあちゃんはどこかしみじみと言った。

「あの子は……璃紗は、本当によそ様の世界の子だったんだねえ。小さいころから、どこかほかの子たちと違うような、ここにいながら別の場所を眺めているような時があったけど。あんたと一緒に、璃紗の一部もその世界に帰れているといいわね。」

「うん。母さん、時々寂しそうだったもんね。」

 おばあちゃんまで、異世界というのを普通に受け入れている……!? わたしの親戚には許容範囲の広い人しかいないのか。

 そう考えて、すぐに気付いた。ここまで許容できる人しか、お母さんを丸ごと受け入れることは出来なかったんだって。お母さんはほんの少数の人にしか出生をありのままに打ち明けることも出来なかったんだって。それはきっと、すごくつらいことだ。

「そんなわけであんまり連絡できないと思うけど、元気にやってるから。何かあったら真っ先に連絡するからね。」

「分かったよ。鈴花ちゃんと、璃紗のご両親にもよろしくね。」

「はーい。」

 そして。歌鈴のスマホも、まるでその役目を終えたかのようにそれっきり電波が入ることはなかったのである。

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