6話 しばらく居ていいよ
「……はい、アイス」
「わぁ! ありがとう!」
人気のない夜のコンビニ。その外にある銀のポールにお尻を落ち着かせ、幸果はポメッコにソフトクリームをやった。
「まあ、助けてくれたお礼……」
「ちべたい……! でもうまい! なんかミルクみたいな味がするね!」
「聞けよ……」
さっきまでの強者オーラはどこへやら。ポメッコは年相応の無邪気な少年のように、嬉しそうにバニラアイスを口に入れた。
「さっきは、その……ありがとね。助けてくれて」
照れ臭いけど、お礼はちゃんと言うべきだよね。ただ、あれだけ冷たくあしらった手前だから、なんだか気まずい。
「いいのいいの。お姉ちゃんが無事でよかったよ!」
「……う、うん。ありがと」
いや、本当にマジで助かった。このチビが来てくれなかったら、今頃自分はどうなっていたか。
ポメッコ曰く、さっきのヤクザたちは忘却魔法で幸果に関する記憶を全て抹消させたらしい。昨日のトラックの件と同じだ。割れた窓ガラスや荒れた部屋も、修復魔法で全て元通り。
要は、もう獅子神たちの中に幸果の存在が消えているわけだ。おかげでこれ以上、もう借金を返す必要はなくなった。
「……ただいまー」
「わーい、一日ぶりのボロ部屋だーい!」
「ボロいって言わないで。気にしてるんだから」
帰宅早々硬い床に飛びつき、テンション高めにゴロゴロ転げ回るポメッコ。……痛くないのかな。
「ゴロゴロ〜、ゴロゴロゴロ〜」
「はいはい、あんまり騒がないでね。もう夜も遅いんだから」
溌剌としたポメッコを正座させ、自分も床に腰を下ろした。さて、ちょっと話すか。
「とりあえず、しばらくの間なら……ここにいていいよ」
「え、ほんとに!?」
それを聞いたポメッコは、目をきらきらと輝かせる。
本来なら人を居候させる余裕はない。でも、助けてもらった手前、一方的に追い出すのも気が引けた。これくらいはしないと夢見が悪いよね。
それに、この子のおかげで借金がなくなったんだもん。向こうしばらくは金銭的にも、子供を一人養うくらいできそうだし。
「まあ、キミのおかげで借金無くなったし。……そのお礼」
「ぃやったぁぁぁぁ! お姉ちゃんと一緒だーい!」
「だから騒がないで、もう夜だってば!」
「そういうお姉ちゃんだって声が大きいよぉ」
「ぐっ……」
隣に住んでるのはあの温厚な赤池老夫妻だ。ちょっと騒いだくらいじゃ、壁ドンされたり目くじらを立てられたりはしないかもだけど、こんな時間に騒ぐのはマナー的によろしくない。
なんてったって、もう日付が変わる時間帯だもの。
「ならさならさ、これからは僕がお姉ちゃんを守るよ! 僕、こう見えても強いもんねぃ!」
「何を一丁前なことを……」
「これからはゆっくり羽を伸ばしてね! 自分のやりたいこととかに時間を使ってさ!」
胸を張りながらそう主張するポメッコ。今まで背負っていた鎖が外されたからか、今の幸果は心が少し緩んでいた。まだ八歳児の分際で何を生意気なと思いつつも、若干愛おしさのようなものを感じてしまった。
「……やりたいことに時間をねぇ」
まさかこんなことになるとは思いもしなかったから、急に言われても困る。でもそれなら、夢のために時間を使うのが一番いいよね。
「……これからは、小説をもっと書きたいな」
「小説?」
「昔から小説書くの好きでさ、今まで時間を見つけては投稿サイトに書いてたんだよね。まあ、いつか作家になれたらいいなぁ、なんて思ってて——」
「いいじゃん! 僕、応援するね!」
「話遮んないでよ」
このチビ、人の話を最後まで聞くと死ぬ呪いでもかけられているのかな。
「じゃあさじゃあさ、お姉ちゃんが立派な作家さんになれるように、僕もお手伝いするね! 僕がお姉ちゃんを幸せにしてあげる!」
なんか告白されたみたいになっちゃった。人生初の告白が、まさかこんなちびっ子だなんてね。まあ、気持ちだけ受け取っておきましょう。
「はいはい、ありがとね」
昨日といい今日といい、いきなりいろいろとありすぎて疲れた。シャワーを浴びて歯磨きをしたのなら、床に布団を引いて就寝体制だ。今日はもう早く寝たい。
「えー、もう寝ちゃうのぉ? もっとお話ししようよー」
電気を消して横になると、身体を強く揺らされた。……眠いのにぃ。
「あぁもう、しょうがないなぁ……」
早く寝たいんだけどなぁ。でも、この子のおかげで今日は助かったんだもんね。ここで邪魔者扱いするのは心が痛む。
「……ほら、一緒に寝ながらならいいよ」
「ほんと!?」
そう言うとお構いなしに布団に入ってきた。勢いすごくて足が太ももに当たって痛い。狭いんだからジタバタしないでぇ!
「へへへっ」
「もう、こんな時間なのに元気だなぁ……」
「あのねあのね、今日お外で住めそうな場所探して探検したの! そしたらね!」
「はいはい、遅いからもうちょっと小声で……」
月明かりが窓から差し込むボロ部屋。二人は一つの小さな布団の中で包まった。
少女は寝落ちするまで、ちっこいポメのお話しを聞いていた。
今までずっとひとりぼっちだった部屋の中。そこに誰かが一緒の布団にいるというのは、なんとも不思議な感覚だ……。
随分と長くなってしまったけど、幸果とポメッコの物語はここから始まるのだった。




