42話 後悔先に立たず
また、いつもの毎日が始まった。
朝起きて朝食を食べ、お昼はバイトへ向かう。そしてスーパーで食材を買い、家に帰って小説を書く。
ごく普通の、元通りの日常。そんな生活がまた戻ってきた。
「……なんで毎日こんなにゴミが捨てられてるんだろう」
ポメッコとお別れしてから、早くも一週間が経とうとしていた。あの一連の出来事は、全部夢だったんじゃないかと思うくらい、自身の生活は何事もなかったように移ろっていく。
そして今日も、早朝からボランティアのゴミ拾いだ。近所の公園に落ちたゴミを、トングで黙々と拾い集めていく。まるで機械みたいに。
緑あふれる公園にポイ捨てをする連中に、苛立ちを覚えながらね。
「おはよう幸果ちゃん」
するとそこへ、聞き慣れた声が届けられた。
「あ、おはようございます」
赤池さんだ。今日は旦那さんが腰を痛めたみたいで、奥さん一人で参加している。
「今日も朝から偉いわねぇ、若いのに」
「いえ、そんなことないですよ」
最近は、日常的に食に困ることがなくなった。そのため、ボランティアの後にもらえるお弁当も、前ほど魅力的には感じなくなった。人って、本当に変わるもんだよね。
正直もう、このボランティアを続ける理由はない。なんなら今すぐ辞めたいくらいだし。
じゃあ、なんで今日も参加しているのかというと、理由は単純。それができないんだよ。
というのもこの団体、一度入会すると最低一年は続けなくちゃならないんだよね。……そんなバカなって感じだよ。
おかげで今年いっぱいは、この地味なゴミ拾いを続ける羽目になる。
ボランティアなのに、妙な強制と圧力感……。この団体、いろいろと狂ってやがる。
「そういえば幸果ちゃん、最近少し元気がないわね。大丈夫?」
「え……そうですかね?」
「この前までは笑顔が増えたなって思ってたんだけど、ここ最近はまた前みたいに寂しそうな顔をしているから」
え、自分、そんなに見られてたんですか? そんなに悲しそうな顔してたかな? 別に全然いつも通りなんですけど。
「……最近、親戚の弟が実家に帰って、また一人暮らしになったんですよ。その生活にまだ慣れてないだけかもしれません。あっでも、元気なんで大丈夫ですよ」
「あの子が? そうだったのねぇ。でも、やっぱりいなくなると寂しいでしょう」
「まあ、ちょっとは。でも、静かになって気楽になりましたよ。騒がしいのは苦手なので」
そう言って、笑ってみせた。赤池さんを安心させたかった。
でも、彼女はゆっくりと顔を下に向ける。
「……そうかねぇ。わたしなら、きっと寂しいけどね」
「……え?」
赤池さんが近くのベンチに腰を下ろしたので、こちらも流れで隣に座った。
すると赤池さんは、ぽつぽつと語りだした。
「うちには息子がいるんだけどね。四年前、バンドを組んでメジャーデビューするんだって言い出して、就職もしないで音楽の道を目指し始めたの。でも、旦那は猛反対してね」
赤池さんは、少し遠くを見るように目を細めた。
「それで喧嘩になって、息子は家を出て行って。……それっきり、連絡を取れていないの」
「…………」
「あの時少しくらい、息子を応援してあげればよかったなって思う。でも、あの時は心配が先に立って、笑顔で見送ってあげられなかった。それを今さらながら後悔してるのよ……」
「……そうだったんですか」
悲しそうに目を潤わせる赤池さん。なんだか心が痛くなってきた。
それと同時に、妙に納得がいった。今まであんなに世話を焼いてくれたのは、息子さんと自分を重ねていたからなのかもしれない。と、幸果は思った。烏滸がましい勝手な想像ではあるけど。
「今さらだけど、もっと息子に何かしてあげればよかったと思っちゃうのよね。でもこうやって後悔するのは、いつも出て行かれた後なんだなって、この歳で最近理解したわ」
「……そう、かもしれませんね」
みんな、それぞれにいろんなものを抱えているんだろうなぁ。そんなことを思うと、胸の奥がじんわりと熱くなった。
自分も、ポメッコにもっと何かしてあげればよかったなと、少しだけ後悔した。
今思えば、最後に部屋で話すだけなんて、少し味気なかったんじゃないかな。本当は、もっと他にしてあげられたんじゃないかな。
そんな物思いにふけっているうちに、本日の活動時間は終了した。
今日はバイトもない。家に帰って、気持ちを切り替えるためにも執筆作業に専念しよう。




