40話 いつも通りで
いつも通りの朝……だったはずだ。
でも、やっぱりいつもと違う。朝からしんみりとした儚げな空気が、小さな部屋を満たしていた。
そんな重たい空気に負けじとキッチンに立ち、フライパンで野菜を炒めて朝食を作る。
最近はちゃんと料理をする機会が増えたからか、作れる料理のレパートリーが増えてきた。ポメッコと出会う前は、もはやし炒めや廃棄のパンが常だったから。
……やっぱりこうした今の生活があるのも、ポメッコと出会えたおかげなんだろうなぁ。
「……幸果ちゃんおはよう」
「おはようポメッコ」
ポメッコが目を覚まして、布団から身体を起こした。
「あれ? 今日の朝食の当番は僕じゃなかったっけ?」
「そうだけど、ポメッコ今日が最後でしょ? 今日くらい私が作るって」
「……幸果ちゃんって、やっぱり優しいねぃ」
「お立てても何も出ないよ? お金もないからね?」
「幸果ちゃんのそういう素直じゃないとこ、僕は好きだなぁ」
「ちびすけに言われてもときめかないっての」
他愛ない軽口をたたきあう、普段通りの時間。こういう時間がいつまでも続くんだろうなぁって、漠然と思っていたのに……。
まあ、そんなわけないのはわかってたんだけどさ。何事もいつか終わりがくるって、ちゃんと理解していたはずなんだけどさ……。
「……ねぇポメッコ」
「なあに?」
「今日、どこか行きたいとこない? お金のことは気にせず、好きなとこに連れてってあげる」
今晩には、ポメッコは元の世界に旅立ってしまう。最後なんだから、今日くらいは甘やかしてやろう。
今までそこそこお世話になったし、これくらいのお返しはさせてほしい。
「……それじゃあ、回らないおす——いや」
「……ん?」
何か言いかけたみたいだけど、ポメッコはすぐに口を噤んだ。一呼吸置いて、あらためて口を開きだす——。
「帰るまで、幸果ちゃんとこの部屋で、一緒にお話ししたい!」
「ズコッ! ……なにそれ、それじゃあいつもと同じじゃん!」
「いつも通りがいいんだよぉ。幸果ちゃんとイチャイチャしたいのぉ!」
「私たちはカップルか!」
本当にお話しするだけでいいのかと疑問に思った。でも、ポメッコはそれでいいみたい。特別なことはせず、いつも通りの一日を過ごしたいのだそうだ。
「そういえばポメッコ、ミーチューブはどうするの?」
「ああ、それなら出発が決まった日に配信をやめるっていう動画を作ったよ。あんまりすぐに騒ぎにしたくないから、明日の夜あたりに自動投稿することにした。心が痛むけどねぃ」
「……そうなんだ。手が早いね」
今さらだけど、本当に帰っちゃうんだなぁ。着々と帰るための準備を進めていくあたりに、朧げだったその実感が鮮明に肌身に浸食していく。
心の中に、じわじわと穴が空いていくのを感じた。
「ねぇポメッコ、三時になったらお菓子買いに行かない?」
「いいねいいねぃ!」
その後は、本当に他愛ない話をしてた。アニメの話や漫画の話、ポメッコの世界はどんなところなのかや、書籍化の進捗についてだったりと、本当に取るに足らない会話をして過ごした。
十二時になると昼間にチャーハンを作り、三時になると、散歩がてらコンビニにお菓子を買いに出かけてた。
部屋でお菓子パーティをしながら、ゲラゲラと楽しかった話を振り返ったりした。
一日中二人で話し込むなんて今までなかったから新鮮だ。ずっと話し続けているのに、不思議と疲れは感じなかった。
それどころか、この時間が終わらないことを、心の片隅で静かに願っていたくらいだ。




