36話 枕投げ
「いや、たしかにあの漫画は好きだけど、最近中弛みしすぎじゃない? 箸休め回が多すぎるよ。石上とカノンのカップリング成立した回がピークだった。というか、そっから勢いがなくなったよね」
「それがいいんじゃないですか! 付き合ってからの二人のイチャラブが増えたのはファンが待ち望んでいたことでしょう!」
入浴を済ませた後、城ヶ崎の部屋でくつろいでいた。いや、くつろいでいたというか、今流行りのラブコメ漫画の白熱したレスバを繰り広げていた。
普段は一人で寝ているという大きなベッドで、幸果たちは話している。枕も追加で二つ持ってきてもらい、今日はこのふかふかのベッドで、三人並んで寝る予定だ。
「私、そもそも石上嫌いなんだよね。初期はブレない王子様系だったのに、カノンに迫られたあたりからツンデレ系になっちゃったし。キャラブレひどいじゃん」
「花守さんは何にも分かってませんわね! ちゃんと全部お読みになりましたか? あれはカノンちゃんとの長いやり取りが培われた結果ですから!」
思いの外、お互いのオタク熱が燃え上がってしまった。ラブコメオタク同士のレスバは苛烈を極める。さっきお風呂に入ったばかりなのに、また汗が流れてきちゃったよ。
「ねぇねぇ幸果ちゃあん、何か面白い遊びしよーよー!」
「ちょっと待って! 今わからずやの城ヶ崎と漫画について討論してるから!」
「わからずやは花守さんですわ! キャラクターの芯を理解できていませんもの!」
「キャラがどうとか関係ないか——むごっ!?」
なんか枕を投げつけられたんですけど?
それと同時に聞こえてきたクソガキの笑い声。
「あはははっ、僕の相手をしてくれなかった仕返しだい! あははは——ふごっ!?」
枕を顔面に投げつけて、反撃開始だ。してやった。
でもこれをきっかけに、戦いの鐘が鳴ってしまう。
「花守さんのわからずやー! どりゃあ!」
「ぶわぁっ!? おいこら、やったな城ヶ崎ぃー!」
気づけば部屋は乱戦状態。敵味方関係なく、枕を打ちつけあった。って、ドロップキックは反則でしょポメッコ!
「食らえー! 『バーニングフレイ——」
「ちょっと待て! 魔法は無しだから! というか一回落ちついて!?」
「もう、何さ! せっかく盛り上がってきたのにぃ!」
「盛り上がりすぎだよ! あと、城ヶ崎さん!」
「……何でしょうか?」
「……どうして、枕に漬物石を忍ばせようとしてるの?」
どっから持ってきたんだその漬物石は。というかまさか、それを投げつけようとしてました?
「あっ、いやこれは……すみません! ちょっと熱が入りすぎちゃいました! はははーっ!」
「……そのままいってたら、下手したら下手してたよ?」
熱って、本当に怖いよね。
あぁ、にしても暴れ回って汗かいちゃった。
「むきになったせいで暑くなってきたよ。エアコンついてるのにあっつい、暑すぎる!」
「あっ、暑いといえば夏ももう終わりですよね! 最後に思い出として、明日近所で開催される夏祭りに行きませんか? わたくし、お友達とお祭りに行くのが夢だったんです!」
城ヶ崎が目をキラキラさせながら提案してきた。あぁ、たしかに街でそんなチラシを見かけたなぁ。自分には縁遠いと思って無視していたけど、まさかこんな形で伏線回収されるとは。
「いいねぃ! 僕もお祭り行きたい! わたあめっていうお菓子があるんでしょ? 僕も一回食べてみたかったの!」
「結局お菓子目的かい。でもいいね、私も行ったことないから、行ってみたいかも」
「最近の幸果ちゃん、素直になったよねぃ!」
「毎回一言多いよ」
「よっしゃあー! 決まりですわね! では明日、三人でお祭りに行きましょう! やっほーい!」
城ヶ崎って、本当に小さいことでテンション上がるよねぇ。彼女からしたら小さくはないのかもしれないけど。
まあ、夏祭りは自分も行ったことなかったし、ちょっと楽しみだ。




