33話 ヘリで来た
急げ急げー! あと十分で家を出ないと、約束の時間に間に合わないぞ!
「えーっと……歯ブラシオッケー、着替えオッケー、あとは——」
「幸果ちゃーん、最近買った服なんだけど、これどっち持っていけばいいと思う?」
二着の服を両手に持つポメッコ。あー今それすごくどうでもいいよ!
「知らないよ! じゃあ右! 右の赤いやつ!」
「えー、僕くは左の青がお気に入りなんだけどなぁ」
知らねぇよ! 何で聞いたの!?
「もう両方持って行きなよ! いいから早く支度して! そろそろ出ないと遅刻しちゃう! 城ヶ崎の家まで行くのに三十分はかかるんだから!」
そう、今日は城ヶ崎の家でお泊まり会の日だ。今は午後二時二十分。約束の集合時間は三時だから、そろそろ出ないと間に合わない。
「さっきからめっちゃ急かしてくるけどさぁ、そもそも寝坊したのは幸果ちゃんだからね? 僕は早起きしてずっと起こし続けてたのに、全然起きないんだから!」
「ぐっ、それはぐぅの音も出ない……!」
それはごめんて。いや、でも仕方ないじゃん! 最近はバイトもそんなに入らなくて良くなったし、しばらくグータラな生活を送ってだんだもん!
おまけに昨日は夜遅くまで小説の執筆頑張ってましたし。
そりゃ昼の一時まで寝ちゃっても仕方がないよね! ……え、それは全部お前のせいだろって? ……たしかに!
あぁ、自分はいつの間にこんな自堕落な人間になってしまったんだろう。
「よし、準備完了。ほら、ポメッコも早く!」
自分のせいな手前申し訳ないけど、とにかく急かさせてもらう。あのちゃらんぽらんな城ヶ崎相手とはいえ、遅刻は絶対ありえない。あとでお詫びとかするの嫌だし。
いや、めっちゃ性格終わってるけどさ!
「待ってよー、まだお菓子とかも詰めないと」
「……まあ、たしかに手ぶらでお邪魔するわけにもいかないよね」
とりあえず、棚に積んであった数少ないお菓子をいくつかバッグに詰めた。夜にみんなで食べよう。まあ、城ヶ崎の家はお菓子だらけだろうし、必要ないかもしれないけど。
いやまあ、気持ちだよね、気持ち! 人の家にお邪魔するんだから、やっぱり何か献上するものは持っていかないと。
「ていうかそんなに急がなくても、僕の転移魔法を使えば一瞬だよ? 僕、一度行った場所にはすぐにワープできるから」
「……あ、ほんとだ。そうだよ! それができるんじゃん!」
なーんだ、焦って損した。それなら全然余裕あるし、しばらくダラダラ時間潰そ——
「あ、ごめんやっぱり無理だ。さっき昼食作る時に火魔法やら水魔法やらたくさん重複して使っちゃったから、魔力足りないや」
「てめぇぶっ飛ばすぞ! じゃあ急いで!? 時間やばいから!」
何で毎回上げた直前に下げたり、下げた直前に上げたりすんの!? やめてそれ!
あぁもう、早く出ないとー!
「……ん? なんか聞こえない?」
「え、何が?」
ポメッコが眉間をよせながら耳をすませていた。いや、自分には何にも聞こえないんだけど? と思ったのも束の間。たしかに外から何かが迫ってくるような音がする。
しかもそれは、数秒もしないうちに徐々に音が増していった。……これは、ヘリ? ヘリのプロペラが回転する音では?
すかさず窓を開けて外を確認した。そこには案の定ヘリが、アパートのすぐ上からこちらに向かって降りてきていた。いや案の定というか、まさかヘリが来てるとは思わなかったけど。
というかちょっと待て、なんかヘリに旗みたいなのが提げられていて、そこに『プリンセスメモリー、書籍化万歳!!』って文字が……。
しかもヘリをよく見てみると、なんか『JOUGASAKI』って書かれてない? ……これってまさか。
「花守さーん! 書籍化おめでとうございまーす!」
ヘリから顔を出したのは城ヶ崎だった。満面の笑みでこちらに手を振っている。
……えぇ、いや、あの人まじで何してんの?
「こんにちは、花守さんにポメッコちゃん! 待ちきれなくてお向かいに来てしまいました!」
「……あぁ、はいどうもこんにちは」
「お姉ちゃんこんにちは!」
言いたいことはいろいろあるけど、とりあえず近所迷惑なので、早くヘリに乗せていただけると助かります……。




