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29話 まさかのメール

 そして数年後——。


 ごめん間違えた、数十分後——。


「はぁはぁ、どうだ? 少しは納得いったか?」


「感激っすよ兄貴ぃ! 僕、度肝抜かされやしたぁ!」


 ポメッコは、王塚君にめっちゃ懐いた。


 いや、早すぎでしょ。


 子供ってほんと心境の移り変わり早いよね。いいことが悪いことかは知らんけどさ。


「ふっ、これからは兄貴と慕うがいいさ」


「うっす、兄貴!」


 なんか気づいたら師弟関係結んじゃってるよ。別に大したストーリー性もないのに。


「まさかこの世界に来て、こんなにいい兄貴に出会えるなんてねぃ!」


「……前から思ってたんだけどさ、その別世界から来たっていうの何なん? そういうごっこ遊び?」


「ごっこじゃない! 僕はポナペティア王国からやってきた誇り高き王子——むごっ!?」


 すかさずポメッコの口を封じさせてもらう。


「はははっ、そうそう! ごっこ遊びだよごっこ遊び! そういう設定なの!」


 余計な話をして、ややこしくなるのは避けたい。穏便に済ましたいんだよ、こっちは。


「そのごっこ遊びについて、もっと聞かせてくれよ。映画制作に活かしたいし」


「いいよ! じゃあ僕がまだ子供だった頃の話からしよう!」


 まだ子供じゃねぇか。


 まあ、せっかく仲良くなれたんだ。しばらく男二人だけにしてあげよう。


 その間、私は早く小説の執筆を——


「……あれ? 何だろうこれ」


 パソコンからマイページを開くと、画面の通知アイコンに赤い点がついていた。誰かからメッセージがきている。城ヶ崎かな? 


 とりあえず、なんとなしに通知マークをクリック。

 すると、その内容に思わず目を見開いてしまった——。


「え、投稿サイトの運営から?」


 こんなの初めてだ。すぐにメールを開いて中身を確認した。


 すると書かれていたのは、想定外の内容だった。


「書籍化の打診に関するご連絡って……えぇっ!?」


「わっ、どうしたの幸果ちゃん!?」


「これ! なんか書籍化って、書籍化ってなってて!」


「……なになに?」


 王塚君がわけのわからなそうな顔で、隣からパソコンを覗き込んできた。


「えぇーっ!? し、書籍化って! おま、お前これマジかよ!?」


「ねぇねぇ、どうゆうこと? ちょっと僕、よくわかんないんだけど」


「わ、私にもわかんないよ! でもこのメッセージに従えば、そういうことだと思うけど」


 メッセージを確認したところ、どうやら作品の書籍化を望んでいる出版社から、自身が使っている小説投稿サイトに連絡があったみたいだ。


「作品を公開している花守に、仲介の要否についてサイトから確認が入ったってことか? ていうか花守、小説書いてたんだな。二重で驚きだわ」


「い、今そこは別にいいじゃない! ……でも、これ本当に大丈夫なやつなのかな? 迷惑メールとかの可能性も……」


「ちょっと待て、調べてやるよ。……えーっとなになに——」


 王塚君がスマホを取り出して、いろいろと調べてくれた。そのテキパキとした動作はできる大人のサラリーマンのように映る。なんか、ちょっとかっこいい。


 本来なら私自身が調べるべきなんだけど、動揺して頭が回らないから、正直助かった。


「花守が使っている投稿サイトについて調べてみた。見た感じ、迷惑メールとかではなさそうだな。というのも、このメールは投稿サイトのメッセージ機能を介したものだから、送信元のアカウントもサイトの運営者になっている。断言してやる。システム的にも、これはガチの書籍化の打診だ!」


 力強いその言い切りに、私の心は弾かれた。


「うそ……こんなの、夢みたい…………」


「ねぇねぇお兄ちゃん、つまりどうゆうこと? 幸果ちゃんの書いたお話が本になるってこと?」


「あぁそうだよ。すげぇことだぞこれは! やったな花守!」


「すごいや幸果ちゃん! さすがは僕の命の恩人だよ!」


「…………ありがと」


 ちょっとだけ泣きたい気はする。というか、涙が出そうなのに出てこない。治らない動揺と非現実的な現状に、まだ頭がこんがらがっているのかも。


 でも嬉しい。なんだか宙に少し浮いているような、ふわふわしたような感じだ。


 ……もしや夢? いやでも、ちゃんとわかる。これは現実なんだって。


「連絡は早い方がいい。早速相手に返事を送るんだ!」


「は、はいっ! えーっと、えと、なんて送ればいいのかなぁ!?」


「落ち着いて幸果ちゃん! こういう時は一旦深呼吸! そんでもって唐辛子を入れたラーメンを食べるんだ! パンパン隊長が動画で言ってた!」


「やってる場合か! てか誰だよ!? いいからお前は一旦黙ってろ!」


 パンパン隊長。またポメッコに変なことを教えやがって。いや、誰かは知らんけどさ! というか本当に誰なの!?


「お、落ち着け花守! とりあえずあれこれ考えんな。最低限失礼がないように意識すればいいんだよ」


「わ、わかった。やってみる!」


 ひとまず王塚君に従って、出版社の人にメールを送った。一人だとテンパっていただろうから、冷静にフォローしてくれる王塚君がいてよかったと思う。


 あれだけ邪魔者扱いした手前、すごい虫がいい話だけど。


「とりあえず、送った」


「ナイス。じゃあ返事が来るまで気長に待ってようぜ。そんなすぐには来ないだろうしさ」


 そんなこんなで、しばらくは部屋で時間を潰すことにした。王塚君はスマホでソシャゲの周回、ポメッコは動画の編集。


 そして幸果は、ぼーっと天井を見つめていた。心ここに在らずといった感じだ。


 何もする気が起きない。相手の返事が気になって、それどころじゃないのだ。


「あっ、来た!」


 そうして無駄に時間を過ごしていると、小一時間ほどでスマホが鳴りだした。


 慌てて端末を手に取り、これに応じる。


「は、はい……もしもし?」


『あっ、どうもはじめまして! 株式会社——の不束と申します! 失礼ですが、こちらは花守様のお電話でよろしいでしょうか?』


「はひっ、花守です!」


「……噛んだな」


「噛んだねぃ」


 茶々を入れてくる男共に睨みを効かせた。そういうのいいから黙ってて!


『小説投稿サイトでの件についてご連絡を差し上げました! 突然のご連絡になってしまって申し訳ありませんが、少々お時間よろしいでしょうか?』


「はい、大丈夫です。ど、どうぞよろしくお願いします!」


 電話口から届けられてきたのは、若い女性の声だった。溌剌とした元気な語り口が印象的だ。先方の丁寧な話を受けて、震えながら電話でやり取りをする。


「ぷぷぷー、緊張して声が掠れちゃってるねぃ!」


 横で見ていたポメッコが、おちょくるように茶化してきた。幸果は口ぱくで「だ・ま・れ・!」と怒りをぶつける。


『サイトの方からご連絡は入っているかもしれませんが、花守様が公開されている「プリンセスメモリー」を弊社から書籍として刊行させていただきたく、今回ご連絡を差し上げました!』


「ご連絡ありがとうございます!」


『それにつきまして、いろいろとお話をさせていただきたく——』


 それから数十分ほど相手方とやり取りをした。


 やがて話が終えられて、通話を切った。


「ど、どうだったの幸果ちゃん!?」


「相手は何だって!?」


 そうかと思えば、ポメッコと王塚君がすぐさま迫ってきた。


「……まとめると、直接会ってお話がしたいって言われて、今度編集者の人と会うことになった」


 それを伝えると、二人は目を見開きながら歓喜の声を上げた。


「すげぇよ花も——ぐげっ!?」


「すごいよ幸果ちゃん! もう小説家の夢叶っちゃったね!」


 王塚君の顔を跳ね飛ばして、ポメッコが自身に抱きついてきた。顔をすりすりとほっぺに擦り付けてくる。それが何だか愛くるしくてしょうがない。


「ははっ、ありがとう二人とも」


 急な出来事だったのもあり、自分でもまだ頭の整理がついていない。


 でも一つ言えるのは、今はただ、とにかく幸せだということだ——。


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