27話 わたくしは救われました
相変わらず豪華なお屋敷ですこと。
招かれた城ヶ崎の部屋は、以前と同じく自身の部屋とは大違い。まるで童話にでてくるお姫様の部屋みたいに、豪華絢爛な間取りだった。
「あらためまして花守さん、日間ランキング入りおめでとうございまーす!」
「おめでとう幸果ちゃーん!」
城ヶ崎とポメッコがクラッカーをぶっ放す。いや、クラッカーはいらん! 片付けとか大変だからやめてぇ! と思った頃にはもう遅かった。部屋中紙やら煙やらで散らかり放題ですわ。
というか城ヶ崎、早々にポメッコを膝の上に座らせているな。鼻息が荒くなってますよ?
「ささ、高級スイーツをご用意しました! 遠慮なさらずお食べになって! 我が神よ!」
「神って……なんか日に日に評価が飛躍していってない?」
祝ってくれるのはありがたいんだけど、あんまり慣れてないんだよねぇ、こういうの。
どういうリアクションをしたらいいのかわからない。というか、わざわざ場を設けてくれたことに申し訳なくなる。
嬉しい反面、少し落ち着かない……。
「ありがとう二人とも。……というかポメッコ、早速がっつきすぎじゃない?」
「ふまいふまい! 幸果ちゃん、このマカロンすっごくおいしいよ? はい、あーん!」
「あーん……。ふぐっ!? ゴリウマ!」
「ポメちゃんポメちゃん、わたくしもあーんってしてください!」
「はい、ぽいっ」
投げるな。
「ぱくっ!」
放り投げられたマカロンに必死に喰らいつく城ヶ崎。
「んー! ポメちゃんの手脂が染み付いたマカロン、デリシャスー!」
口でマカロンを見事にキャッチ。まるで犬みたいに。……それでいいのか城ヶ崎。
「そういえばお姉ちゃんって、よく幸果ちゃんにお家来てーってメールするよね。というか毎日」
「はい。それが何か?」
「暇なの?」
おい! ど直球すぎでしょ!
「ちょっとポメッコ! もう少し言い方を——」
「暇です!」
「暇なの!?」
全く否定しなかったぞ。
暇ってあなた、一応城ヶ崎製薬のご令嬢ですよね……?
「いやいや、暇ってことはないでしょ。大手会社社長の娘なんだし、いろいろ責任とか……」
「ありません!」
「お父さんがすごい厳しかったりとか……」
「全くないですね!」
曇りなきまなこで主張してきた。
そのキラッキラな目を見る感じ、謙虚に取り繕っているわけではなさそう。
「というのもわたくし、六人兄妹でして。兄が五人いるんです」
「ほぇー、大家族じゃん」
ご両親、めっちゃハッスルしてんなぁ。お金持ちって、意外と溜まりやすいのかな?
「それもありまして、お仕事は主に兄たちが任せられているんです。社長の後継も長男ということになってますし」
「そ、そうなんだ……」
「というか、けっこう甘やかされてるんですよ。「お前は好きにしろ」って、父からもよく言われてます」
それ、どっちなんだろう。甘やかされてるのか、シンプルに邪魔者扱いされているのか。……個人的には後者な気がするけど。
まあ、この自由奔放な性格を鑑みれば、なんとなく納得はいく。
というか、どっちにしろ羨ましい限りだよ。親の許可で正式に食っちゃ寝生活ができるんでしょ? もう将来、余裕でニートできちゃうじゃん。
いいなぁ、私もこういう家系に生まれたかった。
というか、生まれてくる家庭が違うだけでこうも極端に境遇が変わってくるなんて、これもう世界のバグじゃないですか?
「なのでわたくし、家ではチャランプランなんですよ。だから、学校が終わればフリーなんです」
「そ、そうなんだぁ」
「ここ最近は、帰って花守さんの作品を読むのが一番の楽しみでして! ですから今回の大成は、古参ファンとしてこれほど嬉しいことはありません! このまま順当に行けば、やがては書籍化デビューなんてことも!」
「いやぁ、さすがに気が早いよ」
「そんなことありません! わたくしが保証します!」
めっちゃ前のめりになって、目を輝かせる城ヶ崎。
そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、褒められ慣れてないせいか、少し照れくさくなる。
ヨイショされるほど、ついネガティブなことを言ってしまうのが自分の悪い癖だ。
「いや、だって……あんなのゴミみたいなものだし。文章とかも物語の説明書きみたいで、うまく表現しきれてないし」
「そんなことないです。たしかに文章表現にはまだ拙さがありますが、最近は改善されてきていますし!」
それはそうかもしれない。でも、やっぱり自分に自信が持てないんだよ。
「別に大したことじゃないよ。ランキングに入ったのだって、ポメッコがチャンネルで紹介してくれたからで……。私の作品なんて——」
「やめてください」
鉄のような冷たい声がした。譲ることのない、硬い眼差しを向けられる。
「そんなことないんです、花守さん。どうか、ご自分のことを悪く言わないでください」
どこか、儚くも熱のこもった声で話す城ヶ崎。表情も心なしか寂しそうだ。
今まで見せてきたハイテンションな雰囲気とは一変。
肩をすくめたような、淋しげな空気を漂わせていた。
「わたくしは、あなたの作品に救われました。これは冗談でもお世辞でも、いきすぎた誇張でもありません。嫌なことがあっても、あなたの書いたお話を読めば、いつもすぐに忘れることができました。楽しくて、優しくて、そっと心に寄り添ってくれるようなあなたの言葉と文章は、わたくしの宝物なんです」
「…………」
幸果の肩を強く押さえる。わずかに溢れた涙を堪えながら、彼女は言った。
「だから、わたくしの大好きなあなたを、作品を、あなた自身が悪く言わないでください! それは作品を愛するわたくしへの侮辱です! ……あなたの言葉に救われる人だっているんです!」
「……城ヶ崎さん」
「わたくし、家族はみんな仕事で忙しくて、小さい頃からずっと一人ぼっちでした」
「…………」
しみじみしとした語りだし。さっきまでのお気楽な空気から一変して、急に儚い雰囲気になった。
「家に帰っても誰もいなくて、どこか檻の中に閉じ込められたように寂しかった。たまにお父様たちが帰って来られても、お忙しいせいですぐに家を出て行ってしまって。毎日ずっと、ずっと寂しかったんです」
ぽつぽつと言葉が落ちていく。生気が抜けたような、力無い声が溢されていった。
「周りの子たちは、ご家族でお食事をしたり、旅行に行ったりしているのに……」
「城ヶ崎さん……」
あぁ、なんかわかるよそれ。いや、城ヶ崎とはまた境遇は違うかもだけど、自分も家族と暮らす周りの子たちが、たまに羨ましくなるから。
周りには当たり前にある普通が、自分にはない。そう思うたびに、時たま寂しさで胸の奥がきゅっとなるんだよね。
「学校に行ってもそうなんです。わたくし、これでも学年で成績トップなんですけど」
マジかよ……その感じで?
「そのせいでいつも孤立しがちで。名門校というだけありまして、周りも規律や気品を重んじる子ばかりで、少し肩身が狭かったんです。わたくし、けっこうオタク気質なところがあるから。学年トップとして恥じぬよう、毎日本性を隠して生活してきました」
「そっか。なんというか、城ヶ崎さんも苦労しているんだね」
「いえ、そんな……」
学校の人と馬が合わず、いつも自分を偽って生活してきたって感じか。
それから話を聞くに、学校では誰かと趣味について語り合うことができないみたいで、普段から一人でいる時間が多いらしい。
今まではわがままで厄介オタクなお嬢様だと思っていたけど、ちょっと同情の念が湧いてきた。
「だからこそ、こうして花守さんやポメッコちゃんとお友達になれて、心の底から嬉しいのです!」
「……そっか。ならよかった」
「ほうひってほらへるとほくもふれひいほ!(そう言ってもらえると僕も嬉しいよ!)」
「ちゃんとお菓子食べ終わってから喋って? 何言ってるのかわからないから」
すると、唐突に城ヶ崎のスマホが鳴り出した。
「あら、着信ですわ。すみません、ちょっと失礼」
「あぁ、どうぞ」
そう一言かけて、城ヶ崎はキラッキラな宝石でデコったスマホを耳に当てた。それをデコるだけでどれだけお金がかかっているのかと興味が湧く。
でも、少し怖くなってきたから考えないようにした。
「はい、もしもし。城ヶ崎ですが?」
さっきの話を聞いて、いろいろと考えさせられたよ。
一見変なやつに思えても、実際話してみるとみんなそれぞれに抱えているものがあるんだなぁと、なんとも感慨深いものを感じてき——
「ええ!? そ、それはマジでございますかぁ!?」
……びっくりした。
なんか急に城ヶ崎が発狂しだしたぞ。というか、なんかニッコニコじゃない?
「わ、わたくしの推し、レオン様の限定缶バッジが当たったんですか!? え、それわたくしにくれんのぉ!? ありがとうございます、我が友よ!」
「…………」
やがて通話を切り、城ヶ崎は我に返ったようにこっちへ向き直った。
「あっ、取り乱してしまい申し訳ありません。さっき友人から推しキャラの缶バッジを当てたと連絡が入って——」
「友達いるじゃねぇか! 私のしみじみした気持ちを返して!?」
「ち、ちがうんです! 友人といっても
SNSで知り合ったオタク仲間でして!」
「何も違わないでしょ!? まごうことなき友達じゃん!」
「てへっ、たしかにそうですね!」
さっきの暗い表情はどこへやら。ぺろっとお茶目に舌を出して笑いだした。
……さっきまでの同情を返せぃ!
「はぁ、お腹いっぱい! そろそろ帰ろっか幸果ちゃん!」
「なんでポメッコが仕切るの。って、お菓子全部食べてる!? 私全然食べてないんですけど!?」
この小僧、そんな小さな胃袋にどうやって詰め込んだんですか? まさかキミ、化け物なの?
「あっ、そうですわ! ずっと提案したかったんですけど、近いうちにわたくしの家でお泊まり会をしませんか? ほら、もう学校も始まって夏もそろそろ終わりかけですし! わたくし、お友達とパジャマパーティをするのが夢だったんです!」
「話の持ちかけ方が急だね」
自分は学校がないから、毎日が夏休み気分だけどね。代償として、日常的に生活が安定しないのが億劫ではあるけど。
「いいねぃ! 楽しそう!」
「ポメッコはお菓子が食べたいだけでしょ」
城ヶ崎の家でお泊まりかぁ。
この部屋にあるビックサイズのベッド。たぶん、そこに三人で寝る形になりそう。
このベッド、フカフカそうだし一回寝てみたいなぁとは思っていた。でも、城ヶ崎と一緒に寝るのはちょっと怖いんだよねぇ。女の子もいけちゃう口とか前に言われましたけど、寝込みを襲われたりしないよね?
「いつにしますか!? なんなら今日でもかまいませんけど!?」
「じゃあ今日にしよう!」
「ダメだよ!? お着替えとか持ってきてないし!」
「えぇ、じゃあいつにするのぉ?」
「バイトがない日とか、暇な時かな」
「お暇な時はいつでも連絡してくださいね! こちらはいつでもばっちこいですから!」
二人の圧が凄まじいよ。
まあ、城ヶ崎の家は一度見て回りたいとは思っていたし、機会があればね。
夏もそろそろ終わりに近づいているし、ちょっとくらい、思い出を作るのもいいかもしれない。




