26話 日間ランキング
「ただいまー、ポメッコ」
「おかえり幸果ちゃん」
家に帰ると、ポメッコは相変わらず動画編集に精を出していた。小さな手でカタカタとタイピングを頑張っている。
「ポメッコ、朝からずっとパソコンと睨めっこしてたの?」
「うん、集中してると時間経つの忘れちゃって」
「あんまり見てると目を悪くするよ? ちょっとは休憩をとらないと」
「はーい!」
本当にわかっているのかね。返事だけは一丁前なんだけどなぁ。
「ほら、ご飯食べよ。お弁当買ってきたから。しゃけ弁とハンバーグ弁、どっちがよろしいかな?」
「ハンバーグ! 僕ハンバーグがいい!」
「切り替え早いな」
ご飯と聞くとすぐに意識が向く。そろそろ本格的に犬に見えてきたよ。
「ハンバーグおいしいねぃ!」
「そうなの? ちょっともーらいっ」
「あっ、僕のハンバーグ!」
「うーん、実に庶民的なお味だね」
最近舌が肥えてきたかもしれない。以前の自分なら、この安売りハンバーグ弁当も五つ星レストラン並みに思えていたはずだ。
……五つ星レストラン、行ったことないけどね。
「あっそうそう、今日王塚君と会ったんだ。ポメッコの動画についていろいろアドバイスをもらってさ」
「えぇ、あの人のアドバイスなんていらないよ。僕、あのお兄ちゃんきらい!」
遊園地でいじめられたこと、まだ根に持っているのかな。
「でも、けっこう納得のいくアドバイスだったよ? カメラのアングル変えたらとか、テロップ変えたらとか」
「……他はどんなこと言ってたの? 一応、聞くだけ聞いておくよ」
「急に偉そうにしないでよ。そうだねぇ、他には——」
王塚君の意見をポメッコに伝えてあげた。
「ふむふむ、なるほどねぇ。まっ、ちょっとは参考にするよ!」
「お、おう」
ポメッコって、そんな憎たらしい子だったけ?
「あっ、それでね。王塚君がポメッコに会いたいらしいの。そのうち家に連れてきていいかな?」
「えー、やだぁ! ていうかなんで僕に会いたいの? 大した絡みもないのに!」
「動画についていろいろ教えたいらしいよ? クリエイター魂が響いたのかもね」
「僕、あのお兄ちゃんと馬が合わないんだよぉ」
「覚えたての言葉すぐ使うよね。まあ、ちょっとくらいいいじゃない。というか、わざわざアドバイスをもらった手前、断りづらいんだよね」
「むー、仕方ないなぁ。幸果ちゃんがそこまで言うなら……別にいいよ、我慢する!」
「ありがとね」
知らないところでこんなに忌み嫌われるなんて。
私が言えたことじゃないけど、なんか王塚君が可哀想に思てきたよ。
「ふー、いいお湯だった」
入浴を済まして脱衣所に出た。すると、洗濯機の上に置いていたスマホに目がいく。
「……あれ?」
なんか、めっちゃ通知きてるんですけど。
メールにプラスして、電話の着信まできてるじゃないの。いったい誰ですか?
というか見るまでもない。どうせまた城ヶ崎でしょ。
と、髪をバスタオルで拭いながらスマホを手に取った。
「ビンゴじゃん。……え?」
ただ、いつものお家へいらっしゃいメールじゃない。幸果の小説に関しての文言だった。
『花守さん、日間ランキング入りおめでとうございます! 長く追い続けてきた身としてこれほど喜ばしいことはな——』
え、ちょっと待って。日間ランキング入り? 全然知らないんだけど。
急いでマイページを開き、現状を確認してみる。
すると城ヶ崎が述べた通り、今日の人気ランキングに『プリンセスメモリー』がランキング入りしていた。ラブコメ部門、十位だ。
「うっそーん……」
めっちゃ変な声が出ちゃった。いやでも、仕方なくない? こんなこと初めてなんだからさ!
「ポメッコポメッコ! 見てよこれ! 私の小説ランキング入りしてる!」
気づいたら脱衣所からキッチンへと飛び出していた。スマホの画面をポメッコに見せつける。
「え、嘘!? ……わっ、ほんとだー!」
これ、現実だよね? 夢じゃないよね?
自分の作品が、大勢の人に見られている。その事実が、目の前の数字に表れていた。
これは、素直にめっちゃ嬉しい。今すぐ飛び跳ねたい! 近所迷惑だからやらないけどね!
「あのぉ、幸果ちゃん……。めでたい時にあれなんだけど、まずお洋服着よう?」
「え? ……あっ」
ポメッコが恥ずかしそうに、手で顔を隠していた。
それを見て、自身も我にかえる。我が身は今、全裸だ。いや、ちゃんとバスタオルで肌は隠してるよ? 頼むから痴女扱いはしないで!
「幸果ちゃんって、あんまり胸ないんだね」
「殴るよ?」
「ごめんなさい」
「……ちょっと服着てくる」
「うん、そうして!」
そそくさと脱衣所に戻り、パジャマに着替えた。
そうしてキッチンに戻ったタイミングで、またコールが入った。城ヶ崎からだ。
「はい、もしもし——」
『花守さん、おめでとうございます! ぱちぱちぱちぱち、ぱふぱふぱふー!』
電話越しから、凄まじい激励の言葉が届けられた。うるさすぎて、つい耳からスマホを離してしまう。
「あ、ありがとう。というか、変な効果音を口で言うのやめて?」
「おめでとう幸果ちゃーん!」
ポメッコが嬉しそうに飛びついてきた。みんな私よりテンション高いじゃん。なんか、ちょっと恥ずかしい。
『お祝いしましょう、今すぐ祝福しましょうよ! 今からお家にいらしてくださいまし! 朝から休む間もなく高級料理を振る舞いますから!』
「もう十一時回ってるんだよ!? これで行くって言ったら私やばいやつじゃん!」
「えー、行こうよぉ。お姉ちゃん家でお菓子食べたい!」
「お菓子が目的かい。ダメだよ、もう遅いし非常識!」
『「そんなことおっしゃらずにぃ!」』
「かぶせてこないで!? 気持ちは嬉しいけど、もう私お風呂入っちゃったもん! また今度、今度お邪魔するから!」
『……仕方がないですわね。では明日! 明日にしましょう!』
決断が早いよ! 明日って! まあ、明日はバイトもないし暇だけどさぁ。
「行こう行こう! 明日行こう!」
「あぁ、もうわかったよ。じゃあ明日、明日行くよ」
『本当ですか!? っしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁい!』
「ぃやったー!」
「ちょっとうるさい! 近所迷惑だから!」
城ヶ崎って、こんなんだっけ? お嬢様としての気品のなんたるかを、もう一度学び直した方がいいと思う。




