25話 夜の公園にて
街灯が照らす夜の公園、そこのベンチに幸果と王塚魔人は腰を下ろしていた。
太陽は隠れているのに、生ぬるくてじんわりとした暑さを感じた。夜なのにさすがは夏だなと思う。
まあ、そろそろ夏も終わりに近いけどね。
「ほうほう。よくカメラ落とすなぁ」
自分のスマホでポメッコの動画を再生し、王塚君に見せた。カメラの転落頻度が多いのは薄々感じていた。もっとちゃんと固定すればいいのにって。
「ほんとそれだよね」
なんでこんなぶれぶれな動画がバズっているんだろ。ショタコンの支持力って本当にすごいと思う。
世の女性たちの母性が、私たちの生活を支えてくれている。そう考えると、なんとも不思議な気持ちになった。
「カメラ意外で、もっとこうしたほうがいいとかある?」
「うーん、そうだなぁ……ん?」
そんな矢先、スマホ画面にメールの通知が届いた。
城ヶ崎からだ。『来週あたり、またお家にいらしてください! もっとお二人と仲良くなりたいですわ!』とのこと。
「……またか」
文字越しでも伝わってくる猛烈な気迫。
今はそれどころじゃないから、早急にスワイプした。
しかしそれからも、立て続けにメールが届く。『いつ来ます?』『なんなら明日でもかまいませんわ!』『ポメッコちゃんをもっとナデナデさせてー!』『美味しいお食事もたくさんご用意していますので!』『あっ、なんなら使いの者に車を出させます! 自宅まで送迎させてください!』などと、何度スワイプしても次々に通知がくる。
……私はもう怖いよ。
「……なんだよこいつ。会ったことないけど、やばいやつだってことはわかるぜ」
「言っとくけど、王塚君も大概だからね?」
「え?」
城ヶ崎って、ある意味犯罪者予備軍だよね。監禁とか物騒なこと口走ってたし。
ストーカーまがいな王塚君もその範疇だけど。
「というかこの人、花守の友達?」
「別にそういうわけでは……」
「じゃあ誰!? メッセージから尋常じゃない圧を感じるんだけど!?」
まさかメールの相手が、あの城ヶ崎製薬のご令嬢とは思わないだろうなぁ。
説明するだけ面倒だし、適当に流そ。
「親戚の人」
「お前んとこの親戚、変なやつ多くない?」
人の家系に対してなんて失礼なやつだ。まあ、王塚君らしいけどね。
「いいから、早く動画の話しようよ」
「あー、はいはい。そうだなぁ。文字のテロップをシーンによって変えたりとか?」
「感情によって、色を変えるみたいな?」
「そういうこと。悲しい時はブルーにするとか、豪華に演出したい時は金色にするとか」
「たしかに、それはそうだね。単純なことだけど、今まで気づかなかったよ」
人から言われて気づくことって、よくあるよね。すぐ気づきそうなところとか、意外と気づけなかったりもするから。
「なるほど、ちょっとわかったかも。ありがとうね」
それからいろいろとアドバイスをもらい、ある程度参考になりそうな情報を得られた。
「お、おう」
「……どうしたの?」
「いやなんか、やっぱ珍しいなぁと思って。今までは絶対俺に頼ったりしなかったのに」
「あっ……」
……言われてみればそうだ。今までの自分なら、人に頼るなんて考えられなかったのに。……どうしてだろ。
「まっ、ちょっと安心したよ。花守も変わったな。あっ、もちろんいい意味でだぞ?」
「……うるさいなぁ」
心なしか、少し照れくさくなってきた。なんというか、こういう人間くさいやりとりって苦手なんだよね。むず痒くなるっていうかさ。
「あぁ、付き合ってくれたお礼をしないとね。うーん、どうしよう……」
「いいって、そんなに気を使わなくても」
「いや、人に借りを作ったままにしたくないの。それが私のアイデンティティだから」
「捻くれてんなぁ。……あっ、そういえば太郎のやつ元気にしてる?」
「え? うん、元気だけど。……どうしたの急に?」
「深い意味はねぇよ。ちょっと気になっただけ」
「……ふーん。なんか変なの」
「そんな犯罪者を見るみたいに睨むなよ。……ていうか、ちょっと頼みがあってさ」
「……何? ちょー怖いんですけど」
「いつでもいいんだけど、太郎と会わせてくれないか? ちょっと話したいことがあってさ」
「いいけど、何を話すの?」
「そりぁ……ほら、あれだよ、動画のこととか。直接会って教えてやりたくて」
なーんか怪しいなぁ。何か隠している感じがするのは気のせいかな?
「そのうち家に行ってもいいか?」
「家ぇ? やだなぁそれは。というか、また太郎のこといじめようとしてない? 遊園地の件、まだ忘れてないからね?」
「あれは勘違いだって! いろいろ過程があったんだよ! いじめてないから!」
「……本当かなぁ?」
仮にいじめるつもりがなくても、家に招くわけがないでしょ。
同い年の男の子を家に招くなんて嫌だよ。ちょっと抵抗がある。
おまけにストーカーだし、なおさら出禁だよ。
「家はダメ。どさくさに紛れてレディの部屋に上がり込もうって魂胆が見え見えだよ」
「なっ! べ、別にそういうわけじゃねぇし!? あーもうわかったよ、ならせめて家じゃなくてもいいから会わせてくんない? 一回だけでいいんだよ」
両手を合わしながら頭を下げてきた。
どういう意図なのかは不明だけど、必死な想いが伝わってくる。それが怪しさに拍車をかけた。何を企んでいるんだろう、このストーカーは。
「……わかったよ。ちょっとなら、家に来てもいいわよ。アドバイスを受けたお返しはしたいしね」
「まじで? あざっす!」
他人を家に入れることに抵抗はある。でも王塚君は知り合いだし、悪いやつではないもんね。まあ、ちょっくらいならいいか。
なんだか最近、自分のガードと警戒心が緩んできているのは、気のせいかな?
「来ていい日があったら連絡してくれ」
「それは無理だよ。王塚君の連絡先、とっくに消してるもん」
「なに消しちゃってんの!? あーもう、じゃあキューアル出すから、読み取って追加してくれ」
「はいはい、しゃーなしね」
連絡先を交換しあった後は、別れて帰ることにした。また家に行っていい日があったらメールしてほしいとのことだ。
めんどくさいなぁとは思った。でも約束したんだから、不本意ながらもしぶしぶ了解した。




