24話 動画へのアドバイス
調子がいい時って、あんまり長続きしないよねぇ。うんうん、その気持ちはよくわかるよ。というか、最近のポメッコがまさにそんな感じだから。
というのも最近、ポメッコチャンネルの視聴率が芳しくない。再生回数も頭打ちどころか、最近はちょっとずつ減ってきている。
古参のポメラーたちは熱心に視聴を続けてくれているみたいだけど、このままじゃ新規ファンの獲得は見込めない。
ポメッコもそれを気にして、最近はパソコンと向き合いながら動画のために試行錯誤していらっしゃる。
今はそこまでお金に困ってないし、そんなに頑張らなくてもいいんだけどなぁ。
でもポメッコは「もっと幸果ちゃんに贅沢してほしいもん!」とかなんとか言って、日々動画を伸ばすために頑張っている。
そんな健気なちびすけのためにも、自身も何か力になれたらと思う。でも、なかなか上手い案が浮かばないんだよねぇ。
「ちょっと花守さん、パンの配置場所間違ってるわよ。そこは幸せメロンパンだから」
バイトでパンの陳列作業をしていたら、隣にいた鹿島さんに注意を受けた。
「あっ、すいません」
「もう、ぼーっとしすぎ。仕事なんだから真面目にやりなさい」
「……はい、すいません」
あれれー……? 最近はちょっと仲良くなれた気がしてたんだけどなぁ。なんか、当たり強くないですか?
今まではいつものことだと流していたけど、最近はポメラーきっかけで距離が縮まりつつあったのだ。それもあって、強い言い方をされると複雑な気持ちになってしまう。
「……花守さん、何か悩みでもあるの?」
「え、どうしてですか?」
でもって、急な気遣いの言葉。いったいなんなんですかこの人、心理状況が読み取れないよ!
「元気がないからよ。なんだかぼーっとしているし」
「べ、別になんでもないですよ。ちょっと寝不足気味なだけですから……」
悩みってほどでもないし、適当にあしらっておこう。というか、ポメッコがスランプに陥っているとか、鹿島さんに話せるわけがないでしょ。ショタパイの推しと暮らしているなんて言えないもんね。
「気にしないでください。大したことじゃないので」
「……そう。まあでも、何か悩みがあるなら相談しなさいよ? 別に私じゃなくてもいいし」
「はい……」
パイセン、急に優しいじゃないの。さっきまでは鋭い目つきで睨んでたのにさ。
「……どうかしたの?」
「いや、そのぉ……鹿島さんって、私のこと嫌いじゃないんですか?」
おーい! 何を聞いちゃってんの私ぃ!
なぜ自ら修羅場を作りにいった!? 絶対殺伐とした空気になっちゃうよ!
「な、何よ急に……ど直球すぎない?」
「はははっ、ですよねぇ。あれー? 私ったら何言っちゃんてんだろー。ちょっと顔洗ってきます!」
「待って花守さん」
気まずくて離れようとしたら、すぐに鹿島さんが呼び止めた。も、もしや怒らせちゃいましたかね……?
「何か勘違いをしているみたいだけど、花守さんのこと嫌いじゃないから」
「……え、そうなんですか?」
あっさり告げられたその言葉に、思わずほっと胸を撫で下ろした。……よかった、嫌われていたわけじゃなかったんだ。完全に杞憂だったみたい。
「間違っていることを間違っていると注意しただけよ。別に、花守さんが嫌いで言っているわけじゃないから」
「……そうなんですか。なんというか、鹿島さんのこと誤解していたのかもしれません」
「え、何? 私って花守さんの中でどんな印象なの?」
「失礼ですけど、人に強く当たらないと気がすまない人なのかと」
「失礼すぎるわね! とんだ荒くれ者じゃないの!」
「はははっ、冗談ですってば」
鹿島さんとこんな軽口を叩ける日がくるなんて。
案外人って、話してみて初めて、その人のことがわかるのかもしれない。
いや、そんなの当たり前なんだけどさ、実際それを実感できるのって、けっこう幸せなことなんだなぁと。
「そういえば、ポメくんの動画見てる?」
「ああ、見てますよ」
「昨日投稿された動画も最高だったよね!」
「はははっ、そうですねぇ」
他愛ない話をしながら、バイトの時間が過ぎていった。
そして退勤時間になると職場を出て、その足でスーパーへと向かった。同じフロアかつ隣にあるからすぐに到着する。
半額シールの貼られた食材にプラスして、今日はお弁当もカートに放り込んだ。最近は金銭的にも余裕ができたし、このくらいの贅沢は許されるでしょ。
「おっ、花守じゃん!」
安くなった牛乳パックに手をつけてたところへ、聞き馴染みのある声が届けられた。
「……王塚君、なんでいるの?」
「なんでって、別にいいだろ。バイト帰りに母さんにお使い頼まれたんだよ」
お母さん、か。
親のいない生活に慣れてきたせいか、その言葉がなんとも懐かしく感じた。自身がわけありなだけで、本来家に親がいるのが当たり前なのだと気づかされる。
自分ってやっぱり、傍から見たらかなり逸脱した存在なんだろうなぁ。
まあ、今さらどうでもいいんだけどね。
「毎回ほんと奇遇だよな、ドンピシャで鉢合わせるなんて。俺たちけっこう、気が合うっていうか」
「セクハラで訴えるよ?」
「今のでセクハラになんの!? もうなんも言えねぇじゃん!」
キミから話しかけられた時点で立派なセクハラですよ。なんてったって、ストーカーさんなんですから。
「……というか、バイトしてるんだね。なんのバイトしてるの?」
「お、珍しく俺に興味を持ってくれたな」
「……別にそういうことじゃないから」
「そんなに睨まないでくれよ、傷つくなぁ。……バイトは今、映画館で仕事してるんだよ。ほら、俺映画が好きだからさ」
「いや、知りませんけど?」
「えぇー!? 昔話したのに!」
そんなもんいちいち覚えているわけがなかろうが。ましてやキミのことなんてなおさら。
「駅の近くにさ、地下でやってるリバイバル上映の映画館あるだろ? あそこで世話になってるんだ。俺、将来映画監督になりたくてさ。色々勉強してるんだよね」
「あぁ、なんか思い出してきたかも。たしか中学の時、そんなこと言ってたね」
「おー、覚えててくれたんだ! なんだかんだで俺のこと気にかけてくれてんだな」
「いや、たった今ぼんやりと思い出しただけ」
「おーい!」
なんかいろいろと記憶が蘇ってきた。
授業で将来の夢を発表する時間があったのだ。当時の幸果は生活を維持するだけでも困難だったから、将来のことなんてとても考えられなかった。
教師というのは、どうしてそんなことも考慮せずに授業をやるんだろう。おかげで「食うに困らない生活をしたいです」などと、子供が抱くにしては切実すぎる発表になっちゃったんだよ?
それをクラスの前で言っちゃったんだから、それはもうとんだ黒歴史ですよ。
「あっ、そうそう。夢といえば太郎……だっけ? あいつもしかして、ミーチューバーやってんのか?」
「……太郎?」
「いやいや、お前んとこの親戚の子。いとこだろ?」
あぁ、そういえばそういう設定でしたね。遊園地の時に、咄嗟にそう言って誤魔化したんだっけ。
あぶないあぶない、うっかりボロが出てしまうところだった。
「あぁ太郎ね、はいはい。まあ、ミーチューバー活動はしてるけど……なんでそれを王塚君が知ってるの?」
「動画見てたらたまたま流れてきてさ。どっかで見たことある顔だなぁって思ったら、すぐにあいつじゃんってなって。まあ珍しい髪色してるし、すぐにわかったわ」
すごい勢いで周知されていってるなぁ、あの子は。ポメッコからすれば、喜ばしいことなのかもしれないけど。
「にしてもあいつ、カメラのブレがひどいよなぁ。いつもカメラ固定してるけど、しょっちゅう落とすし、たまに歪むし。そこは編集しとけよって感じ」
「あぁ、でもそこが抜けてて可愛いって評判いいんだよね」
「そうなん? でもそれって、ショタ好きの人たちにウケてるだけだろ? そういう層って意外と少ないと思うし、一般の視聴者はイラつくだけだと思うぜ?」
「……急に言うね。どうしたの?」
「同じ映像を作る側として、観ていられなくてな」
ポメッコ、知らないところでめっちゃボロカス言われてるよ。しかもこんなストーカー野郎に。……かわいそうに。
「あのままじゃ新規の視聴者は増えねぇよ。固定したカメラも斜めってるし。もっと光の調整意識したほうがいいと思うなぁ」
「……王塚君、そういうの詳しいの?」
「そりゃあ映画監督目指してるし、映像の見せ方ならそれなりに理解しているつもりだぜ?」
……たしかに、それはそうかも。実際、動画に関する指摘はなかなか的確だ。もしかしたら、ポメッコのスランプを打破できるかも。
「ねぇ王塚君」
「ん?」
「もっとポメッコ……じゃなくて、太郎の動画についてアドバイスをもらえない?」
王塚君は、少し驚いたように目を丸くした。




