2話 ボロ部屋アパートへご招待
「うわぁ、ボロいね!」
自宅アパートに少年……ポメッコを連れてきた。そのポメッコの第一声がなんとも失礼。なんて躾のなっていないガキンチョなんだ。
「悪かったね、ボロくて……って、勝手に冷蔵庫開けないでよ!」
「これレイゾウコっていうの? 中になんも入ってないねぃ」
「やかましいわ! ってこら、はしゃぎ回らないで!」
部屋に入るなり、ポメッコは興味深そうに部屋の中を見て回った。クローゼットを開けたり洗面所を除いたりとやりたい放題。探検気分にでもなってるのかな。
「もう、疲れてるのに……」
幸果の家は壁や床にシミが目立つボロアパート。部屋は手狭な六条一間。
つい数ヶ月前までは、お父さんと二人でここで暮らしていたんだけど……。
「……はい、いいからここ座って」
「はーい!」
床に正座をし、ポメッコに座るよう促す。存外のこと、ポメッコは素直にそれに従った。
ちなみに、先程のトラックと運転手はポメッコが修復魔法と忘却魔法とやらを駆使して、煙に巻いたらしい。
運転手も回復魔法で治療済み。おかげでそれほど騒ぎにはならなかった。
「で、キミは何者なの……?」
そんな得体の知れない少年を前に、奇怪なものを見るような目で対峙する。
それに比べてポメッコはお気楽なものだ。淡々と自分の境遇を語りだしたのだから。
「さっきも言ったじゃん。僕はポナペティア王国の王子だよ。まっ、こことはまた別の世界の話だけどねぃ!」
「なんじゃそれ。まさか異世界から来たとか言わないよね……?」
「その通り!」
「言うんかい!」
にわかには信じがたい眉唾ものの話だ。さっきのトラックの件がなかったら、まず間違いなく聞き入ってない。
「じゃあ、なんで普通に私と会話できてんの? おかしいじゃん」
「うーん。たぶん魔法陣を通った時に、自動的に翻訳魔法が行使されたのかも! 王家の作った魔法陣はかなり高性能だから」
「なにそのご都合主義な魔法陣……」
何ですかそれ。異世界ってなんでもありなんですか? 理屈や根拠がファンタジーすぎて、もはやついていけそうにないよ。
「……それで、その王子サマは何しにこの世界に来たんですか?」
一方的な質問責めばかりでごめんなさいね。でも気になるんだよね。なんならちょっとキミのことが怖いくらいだから。
「家出してきたの! 父上や母上には内緒でね!」
「……なんで脱走したのかな?」
「だってさー、毎日毎日仕事ばっかで疲れちゃったんだもん。休む暇もないし、なんかヤになっちゃってさ」
なんて傍迷惑な話だろう。要は仕事バックれただけじゃん。ダメだよ仕事のバックれは。自分もこの前コーヒーマシン壊してさ、気まずくなって無断欠勤したのね? そしたら店長にこれでもかってくらい鬼電がきて怒られちゃいましたよ。だから、無断欠勤やバックれはやめましょう。
え、王政とバイトじゃ、また話が変わってくるって? ……あらそうですか。
まあとりあえず今は、それは据え置きにしましょう。
「うーん。もうちょっと話聞かせてもらってもいいかな?」
「いいとも!」
「……あ、ありがとう」
それから、もう少し詳細に話を聞いてみた。
どうやらこの少年は、本当に異世界の王子らしい。日々の多忙な責務に嫌気がさして、王家に伝わる秘伝の異世界転移魔法陣で、この世界に逃げてきたみたい。
彼曰く、向こうしばらくはこの世界でのんびりと過ごすおつもりなんだとか。
「家出って言うと可愛いニュアンスあるけど……キミ、国の王子なんでしょ? 国ほったらかして大丈夫なの?」
「だいじょぶだいじょぶー! 優秀な部下もいるし、そう簡単に国が崩壊したりはしないって!」
「いや、あんまそういう問題じゃないと思うんだけど……」
なんか面倒なのを拾ってしまった気がしてきたよ。
このポメラニ……ポメッコを追って、異世界人たちが攻めてきたりしないかな。そんな大事に巻き込まれるのはさすがに勘弁ですよ?
「まあ、とりあえず今日は泊めてあげる。私が連れてきたのもあるし、トラックから助けてくれた件もあるしね。私、借りは返す主義なの」
「ほんと!? やったー!」
それを聞いたポメッコは大喜び。その場で元気に飛び跳ねた。
外はもうすっかり夜だ。近所迷惑にならないかと心配した幸果は、宥める代わりに条件を突き出した。
「ただーし! 泊めるのは今晩だけ! 明日の朝には出てってもらうからね!」
「ええぇぇー!?」
ポメッコは目を開きながら、耳が割れんばかりに騒ぎ出す。
「やだやだ! ずっと幸果お姉ちゃんと一緒がいい! ねぇ、いいでしょう?」
くっつくなり、ぎゃーぎゃーと駄々をこね始めた。子供の身体を活かして、上目遣いで懇願してきたりもした。
でも残念、そんなもの、自分には通用しないのですよ。
「ダーメ! こっちだってギリギリなんだから! 絶対明日には出てってもらうからね!」
子供相手でも容赦ない幸果は、ポメッコの頼みを断固拒否した。
冷たいなんて思わないでほしい。自分だって明日を生きるのに精一杯なんだよ。今月の電気代すら払えるか怪しいんだから。
なんなら二週間前は、一日中電気止められてたもん。いや、これ別に自慢じゃないからね?
とにかく、そんな状況で子供を匿えるわけがないでしょ。ましてや異世界の王子だなんて。
「うわーん! お姉ちゃんのいけず!」
「ぶっとばすぞ、ガキ?」
あぁ、この子と話しているとすごい体力を持ってかれるよ……。子供の相手ってこんなに大変なの? とりあえず早く寝たいです……。
そう思い立ち、入浴やら晩御飯やらやることを済ませて、すぐに寝床についた。
そんなこんなでひとまず、奇天烈な一日が終了した。




